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『ドラマ』 愉快な家族会議  美代の場合  ( À propos de l’aventure de la narration et de l’écriture )


* ( About the adventure of narration and writing ) 語ることと書くことについて、少しばかり


わしは、一家の主(あるじ)、父(とう)さんだ。
いまから家族の会議を始める。
さてテーブルに着いたとこらで、
きょうあったことを思う存分に、
思ったとおり話しあってみようか。

高一の一郎。
中二の美代。
そして母(かあ)さんとわし。
わしはきょう、
とても不愉快なことがあったんじゃが、
みんなはどうだった。

「ぼくも」
「あたしも」
「母さんも」

三人ともいきよいよく、
なんだかきょうはとても大討論会になりそうだな。
じゃ、美代からいってみよう。 


きょう、学校でね、
ちがうクラスの男子から交際を申しこまれたの。
それがダサくってどうしようもないの。
学校の成績はよくてまじめなんだけど、
眼鏡かけて野暮ったい。
気持ちはわかるんだけど、それでいて、
変に積極的なの。
わかんない、あのセンス。

「それが青春じゃないのか」、とわしはつっこむ。

でもね、ジャニーズっぽくないの。
いくら男の宝塚、虚構の産物、
向こうの世界。
身近に存在しないものといっても、
多少あってほしい娘の気持ち。
いくら資本主義の反映だとしても、
なぜかあってほしい。
だめだと思うけど、
そんな現実の世界でも、すこしは似てほしい身のまわり。

「まあ、いいだろう。無視しなさい」

でもつくづくあたし思うんだけど、
いまやっている学校生活って、
母さんのときとちっとも変っていないみたい。
上の学校に行くための勉強。
やんない人は不良、ゲームなんかのスマホ。
時代は変わっても、
なんだか根本的にはちっとも。
そんな気がして、
あたしもいつか母さんみたいになっちゃうかも、
といってもいまはあまり深く考えていないけど。


つい最近、友人のYのところに遊びに行ったの。
そしたら、
Yの姉さんがいて大学生。
眼鏡かけていて、文学部。

文学部って、先生が関の山だし、
まあ都会では出版社があるにはあるけど、
お姉さんによると地方の大学生は、
就職が散々たるものだって。
学校出ても仕事さきがない。
ましなのは先生ぐらい。
それでもなれればいいほう。
なっても、昔もそうだったけど、
いまはもっと大変みたいだって。


昔は学校の人間関係で大変みたいで、
生徒もやんちゃだし、
でも最近では男の先生も教える量が多そう。
家に帰ってからも仕事やっているんだって。
この前、テレビでやってたわ。

それでも大学生のお姉さん、
あたしはお母さんみたいになりたくない、
外に出て働くんだって。
だれでも若いときはそう思うもの。
でも好きな人ができて、
子供ができ家庭をいとなむようになると、
いつしか母親と同じ道を歩むようになるものなのよ。
じっさい女って、
太古の昔から変わらない、女という人種みたい。
まだ世の中に出ていないあたしが、
客観的に見て思うもの、
女って、封建制そのものなのね。
つくづく。


ここで話をすこし折るようだけど、
家族構成というか、人物描写してみよう。

いきなり物語の展開をしても、
読んでる人はなんのことだか、
たぶんわからないだろう。
ふと読みはじめた小説がなんの問題をもって
展開しているのかわからないものなら、
すぐしんどくなって読んでくれない。
ほんと読者って気ままで、作家にとって残酷なものだからね。

ある作家みたいに思わせぶりなどして、
ムードだけの小説で内容がまったくないのに、
変に支持されているものが多いし、
特に小説は女性でもっているというわけで、
なんとか女性に受けるような物づくりとか、
いまいったムード的でジャズーな
中味のない物がもてはやされている。
まあ、
昔もそんな感じで、綿菓子見たいな物はあるにはあった。


 ー ー ー

と、ここまでいって本題に入ろう。
まわり道をしてもつまらない。
これからの物語を始めるにしたがって、
わが家の住人をもうすこしくわしく述べてみよう。

まず長男、一郎。高一。
長女、美代。中二。
それに母さんとわし。

長男はまあ、普通の高校生。
茶髪にしていない、
きちんと制服を着こなしている。
きちんと七三みたいに短髪。
まゆ毛も黒く、
目もわしの丸い目よりも大きくパッチリ。
これは母さんの目もとをひき継いだのかな。

娘も娘で、
それこそ一般家庭で普通に育った、
モラルがある躾をともなっている子だ。
わしがいうのもなんだが、
清純に育ってよかったと思っている。
別にちがった道に歩まないで、
いい方に進んでいると思う。
まだ中学二年生だからどうなるかわからない。
でも大丈夫だろう、
わしと母さんの子だから。
そんな娘も長男以上に目がくりくりパッチリ。
これも、わしが昔、
惚れた母さんのおもかげを宿しているといっても過言ではないだろう。


だから、母さんにしてもまだ綺麗(きれい)。
もっともわしから見てのことだが、
人さまから見てどうだか知らない。
結婚前の長い髪をいつしか切って、
いまでは短い、
すこしパーマがかったヘアースタイルだ。
でも、わしはそれが好きだな。
さっぱりして、
じっさい母さんもそうじゃないかな。
めんどうくさくなくて、
わしから見ても二度惚れなおすみたいで頭があか抜けしているぞ。

そんなこというわしも、
じつは顔から上の前頭部が薄くなって、
あか抜けしているんだ。
まだ頭のてっぺんは大丈夫、
でもこれからさきの未来はわからない。
それがいまの一番の悩みの種だ。

もうすこしわしのことを
知ってもらうために人物描写すると、
だんご鼻で口ひげをたくわえている。
そう長くなく、ヒットラーみたいに
チョビひげというわけでもない。
会社勤めで許される程度のもの。
じっさいひげをはやしている人は、
最近会社では見かけない。
いやらしく見えるのだろうか。

いまでは、バカにされないために
スポーツ選手がやっている感じだし、
それにアクセントをつけるために
おしゃれだかなんだか知らない、
タレントがいばっていないように
好感をもたれる程度にあごひげをたくわえている。

すこしでもひげをつけていたら、
なんだか力が強くなるから奇妙な感じだ。
これははやしてみないと
わからない感じといえるね。
おもわず私をわしといいたいように、
使っているといつしか
気分は家族の大黒柱になっているものだ。


「話を折って悪かった。美代、話をつづけなさい」

えっと、なんだっけ。

「パッとしない、クラスの男子からの申しこみ」

そう。
ほんと、パッとしない。
その子が眼鏡かけて、逆らっきょうみたいで。

「逆らっきょう?」

頭がらっきょうみたいで、
頭が大きく、
あごがさきにかけて細くなっている。
逆三角形。
鼻も細長い。
口が小さい。
体も虚弱そう。
それなのに変に強気の積極性。

あのう、ボッ、
ボクとつきあってください、
なんていうんだから。
どこから来るんだろう、その発言。
その自信。
ちゃんと
じぶんの姿を鏡で見たことないんじゃない。
驚いちゃった。
ほんと、びっくりしたというか、
あきれちゃったわ。
あたしを
つり合いがとれた女性と思ったのかしら。
あたしとだったら大丈夫と思ったのかしら。
失礼しちゃうわ。

もっとも学校の成績がよく不良じゃないので、
将来性はあるかもしれない。
それはさきのこと、
いまのままじゃね、
若いあたしを落とすことはできないわ。

あさって来て、
という感じ。
でもつき合うとしたら、
かっぷくのいい父さんがいいかな。
お金をもっていそうで、
禿げていて、
たよりがいがあって。

「こらこら、親をからかうものじゃない」

うふふっ。


じゃ、一郎、いってみよう。
どんな不愉快なことがあったんだ。


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