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『小説』 オートマティック Écriture autOmatique  序



〈開かれた作品を求めて〉

 文章の内容からして、中学生、高校生、および嗜好を求める人には好まれる対象ではないかもしれない 。読んでくれる人も100人いたら、3分の1は無視、3分の1はきらい、そしてあとの3分の1のなんとなく読んだ中のひとりぐらいが、ふーんといって気に留められるようなものです。だから100人読んだら、ひとり、200人もいたら、2人も気に留まってもらえます。

 初め、白いノートに意味もなくペンで書いていきました。

 文学全集に載っているような文章を書いても術(わざ)がないし、他にたくさん作家の人がいらっしゃるのでボクが書いても意味がなかった。

 ただひとつ意識としては、20世紀の文芸思潮のシュルレアリスムの自動筆記と、実存主義者サルトルの想像力の融合統一。
 さらにそれぞれに発展していった構造主義的なことば遊びと、ポスト構造主義のスキゾフレニア(分裂症)の融合統一をめざしながら、意味もなくストーリーも考えずに行き当たりばったりで、ただただ成りゆき実践小説を試みて行きました。


 書いている本人だけが、この先どうなっていくんだろうとペンを握るまでわからない、それゆえ書いていて本人自身がおどろいたり、おもしろがったりしていましたね。
 オートマティックな想像力、ことば遊び的にスキゾしていくノマド感覚などと、えらそうに掲げていたけど、前にいったような単なる成りゆき実践バラエティー小説になっちまったようで、はたしてこの試みは成功しているんだろうか。

 資料もなく、いままでの知恵と経験だけを頼りに書いたものなので、細かい指摘はなしね、という盾をつくって、気らくに読んでもらえたらと思います。いっきに読むとしんどいので、数回に分けて掲載します。数人でもいいから、なかなかいいねと言ってもらえたらうれしいです。


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 なぜだかわからない、気がつけば道端に横たわっているぼく。
 何者から襲われたのか、ここまでだれかに連れてこられて放置されたのかわからない。

 死ぬ間際なのか、まったく体の感覚がない、重さを感じない。顔面も地面に叩きつけられたのだろう、首が自由に動かせない。手足も動かないし、顔じゅうが、傷だらけなのがなんとなく痛さでわかる。そばには水たまりがあった。

 どぶ水のような面を、しばらくうらめしく見つめていた。水面に映る愚かな顔、どうしてこんな目にあったのか、くわしくはわからない。ただ、ここにぼく自身の顔がある。
 ぼくは、消えゆく意識のなかでどうしてこうなったのか、どうしてここにいるのか、おぼろげながらかすかに頭の中で姿が浮かんでくる。



 そう、あれはN駅近くのガード下を走っているときだった。

 ただわかっていること、無意識に何もわからずに走っているこの状態なのだ。なぜか走っている、ゆったりとランニング風にマイペースで。

 それにしても、いま何時だろう。
 薄暗いけど、視界は遠く見通せる、街かどの看板も、夕暮れのなかでもはっきりわかる。いまおもわず夕暮れといった、なのにこれといったネオンがあちらこちらについていない、たぶん夕暮れまえか、夜明けまえの朝早く。それにしては暖かさも冷たさも感じないし、区別できない、もしかしてこれは意識のなかの幻想、ファンタジアかな。

 夢かも、あるいはデジタル映像のなかの仮想ヴィジョン。意識はあった、視界もはっきり、その証拠に、六階建てマンションの五階の部屋がここからはっきり見えてとれる。

 それはN駅沿いの坂道を登っているときだった。突然、右横の駐輪場から、だれかがぼくに飛びかかってきた。

「おい、たもつじゃないか。何してんだよ。汗たらして、何、走ってんだよ」



 えっ、何、そうなの、ぼくはたもつというのか。ぼくは、いきなり現れた男に面食らってしまった。しばらくここは冷静にして、ぼくの存在証明を知るために、相手に黙って従った。男はぼくの体を抱きしめ、やあやあ、といってからんできた。

「なつかしいな。おまえ、最近、いったい何してたんだよ。ぷっつり会わなかったらこんなことやってて、どうしたんだよ」

 いきなり、そういうとぼくに抱きついてきた。おいおい、待ってくれよという間もなく、男はぼくにしがみついてきた。まいったな、知らない男に抱きつかれたってどうしようもないのに、いったいこの男はだれなんだ。若い女性が抱きついてくるのはまだしも、どこから見てもやさぐれていて、とても好青年に見えない。
 どうもなれ合いして、古い親しい仲らしい。服装から、態度から、まともな優良な友だちではないことは確かだった。すこしばかり心あたりがありそうで、思いだしてきそうな男の顔だし、見たような気もする。

 ぼくを抱きしめるとキスをしてきた。おいおい、まずいな、ぼく、そっちの趣味はないんだ、ほんと勘弁してほしいな。甘酸っぱい、変な匂い。でもなぜだかぼくは、相手の求めにお互い抱きしめあい、昔からそうだったように反射的に意識ではいやがっていたはずなのに、体では素直に求めあっていた。ぼくはそっちの気があるのかな、いけないものを感じた。



 ふと、ぼくは顔をはずし男の手を取った、左手にビニール袋を持っていて、何か液体らしきものが入っていた。男は、ビニール袋の口をしっかり握りしめていて、なかにはシンナー液が入っている。まだ、こんなものを。
 ぼくは激しく怒った、昭和の香りがする変な遊び。まだこんなことをしている奴がいるとは、なつかしいといえばなつかしい。以前テレビで放送していた、アフリカのどこかでシンナー遊びが流行しているという、若者が空腹感を忘れるためにやっているとか。

 いかん、頭がくらくら、激しく戒めて正そうにも教育的な言葉を投げかけようにも、頭がふらふら、目も意識もぐらぐら。奴の口から間接的に受け取っただけなのにこんなに強烈とは、ぼくが急にまじめな態度に出たので、男はびっくりしてぼくの手を振り離した。
 どうしたんだよ、いつものことじゃないかよ、変に口をふくらませて不機嫌な様子。そうか、これが日常なのか、ぼくが生きている日常生活なのか。すると、ぼくはこいつと同じ仲間か。

 最初からどうしようもない展開だぜ、不良仲間と同じ世界に住んでいるとは、いまの気分では憎むというか、いやがっているのに、運よく記憶喪失のおかげで更生しているというわけか。何はともあれ、いいことには変わりないだろう。



 ぼくはなおも、追求しようとした。奴はぼくより、液体を吸い慣れていたのか、意識も体も機敏だった。
 奴はめんどうくさいなといいながら、口をとがらせながらぶつぶついった。なんだよ、じっさいおかしいぜ、いつからそんなだせぇ男になったんだ、興ざめさせるなよ。ほら、といってタバコを渡した。

「あほか、シンナーの上にタバコを吸ってみな、油に火をかけるように頭がふらふらするにきまってじゃないか。試したことないけど、そんな感じがするぞ」

 するとまた、男はきょとんとして、こんなこと日常茶飯事の毎日ってことで、おまえが率先していたはずじゃないか、いったいどうしたんだよ、好青年に見えるぞ。おれたちの世界から足を洗って、清く正しく結婚しよってんじゃないの。まあいいや、おれ、ちよっと用事があるから、おまえにかまってらんねえ。じゃね。

 じゃねって、こらこら。ぼくをここに置いてぼりにしてどうするんだ、ぼくの頭の中はまだあのシンナーのあと酔いでくらくらしているのに、かってにじゃねって、いい加減にしてもらいたいよ。でもいいか、名前がわかっただけでも収穫だった。それにあんな奴に長くかかわってもいいことはない、今のぼくは記憶のないおかげで品行方正で清く美しい青年というわけで、良しとしておこう。そんなこんなでしばらくは立ちくらみをこらえながらも、少しずつ歩いていった。



 それから、また思いだしたように走り始めた、なめらかな坂をゆっくりと、気持ちを落ちつかせて力強く登っていった。すこし駆けあがると、さきは平坦な道が続いていて、しばらく軽いランニング状態を保ちながら走っていた。
 でもなんだか、まだ頭がぼおっとして力がでない、それで通りの右側にあった公園でひと休みすることにした。ベンチより心地よさそうな芝生もある、しばらく横になって気持ちを落ちつかせよう。あんのじょう、ふらついた頭を休めるにはもってこいだったし、それもあって気持ちよく寝こんでいたら、ほんとうにいつのまにか頭の中も夢心地になって遠い世界に行ったようだった。

 じっさいぼくは夢の中に入っていった、そこは暖かく心地よい風がただよっていて、じょじょにその情景が浮かびあがり、そこでもぼくは何か今の状態と同じで記憶が薄れていたのだった。




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