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「短編コント」 古今東光の、頭をなでなで


1.

 * われわれは創造された芸術家や作家の作品の中だけに人間を見て、でもじっさいはその外にあることも忘れている
創造主(ザ•クリエイター)から人間がつくり出され、日々変わる人間社会のわれわれと普遍な自然の中にいるわれわれは、創造主から描かれている原稿用紙の上の人物のようであり、本の中に作家の意図を探るように、人間や社会、自然の中に、創造主のクリエイティブな意図があるのを忘れがちだ


 人から批判されても、非難されるようになったらおしまいだな、
と手厳しい作家の古今東光ここんとうこうサン

 とかく他の作家がこのあらくれた政治世情に興味がなく、ひとり美しい内面ばかり描きたがり、そのくせ立派な体や頭を持っているのに労働をいやがり、金銭に縛られているのを笑っていた

 また画家や作家、マンガ家が世間から疎んじられ、世間の皆さんのように仕事もせずブラブラしているように思われても、じつはそのときが闘っているときで、悩んでいるときは前進しているときだというゲーテの言葉が思い出され、
業界で、社会的に認められ地位が上がるのは教科書に載ったり、内容がいいからでなく、お金の実入りがよくなったからで決して逆でない、現実の大人の社会ではそういうものさと割りきっていた

 それに政治体制ばかりでなく、会社や文化面の組織でも円熟してくれば崩壊するのは当たり前で、
革命世代や創業世代の苦労がわかっている子供世代まではなんとか良くても、生まれたときから裕福で、苦労知らずな孫世代はひとからうらやましがれても内情は枯渇しているのが多いんだ
そんな風でも、いま現在のリアル状態を最優先して、内情がわからず、外見で判断するしかない子供やお母さんから支持されるのもしかたないのさ


( そんな古今サンのぼやきを聞くまでもなく、気づくことがあった

 知を鍛える時間がない大衆にとっても、テレビから流させるニュースはとてもリアルでもっともらしく、でもよく見るとじっさいは、外国からの圧力、政府に妥協し、経営基盤の商売からすっかり牙をそがれているのがわかった。
あたかも神主さんのように、天からお金が降ってくる受信料で潤って、まったく営業努力もしないでノウノウとしているNHKは平均年収が約1100万円で、平均年収600万円でもすごいという人の気持ちもわかるはずもなく、広告収入で羽振りいい民放も、それがゆえに社会的地位が上がってうらやましがれているのに、内情は陳腐なものだった。

 つねにその形態から政府に首根っこを押さえられ受信料をもらっているテレビ局は、風邪ウィルスとか最近の政治情勢ではこのときばかりと世渡り報道して、民放でも、まともなニュースよりも視聴率があり広告収入が得られれば、非難されないように他局のみんながやっている一方的で無難な報道や、スキャンダルで下世話なものばかりだった。
大衆社会のかしこい皆さんはそんなことをうすうす感じていても、鼻で笑って面白がっていた。
もうすっかり三流週刊誌になりつつあった。

 アメリカがクシャミしたら、風邪をひく日本。
そんなアメリカではテレビニュースの7割は信じていないというから、お人好しの日本でもソロソロかな。)


2.
 
 禿げた頭をなでなで、そんなことをつぶやいていたら、目の前に骨董市が開いているのが見えてきた
ふむ、こんな所で骨董か、珍しいな、何かいいものがあったら買ってみようかな

 そんなこんなで市の中をあちらこちら、物色しながらぶらついていた
おや、この瀬戸物は意外にいい感じだなと思って眺めていたら、となりでお客と売り手の男の話し声が聞こえてくる

「だんな、この水墨画はいい掘り出しもんですぜ」

「でもなんだか変だよ、この山寺のそばにある草花くさばなだけが赤くなっている」

「何か意味があるんじゃないですか、いい証拠ですよ、じゃお客さんは何色だったらいいんですか」

「水墨画だから、黒に決まっているじゃないか」

「ハハハ、お客さん、黒い草花なんてありませんよ」


 この会話を聞いて、おもわずフフフとうなずき、なるほどね、と古今東光はあらためて苦笑いした

 人はひとりで考えているとじぶんが正しいと思っているけど、はたから見ると、両方の愚かさがよく分かるもんだな


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