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レールを削って騒音・振動を減らす~「レール削正車」の更新について

 都営地下鉄では安全で快適な輸送サービスを維持するために、夜間に様々なメンテナンス作業を行っています。その中には、保守専門の大型車両を使った作業があります。今回は、そのような保守車両のうち、まもなく新車への置き換えが予定されている「レール削正車」について紹介します。

1 レール削正車の役割

 鉄道は、鉄のレールの上を鉄の車輪が転がって走っているため、列車の運行によって、曲線を中心に波状摩耗やシェリング、きしみ割れなどのレール傷が発生します。

写真-1 レール傷の例
(左=波状摩耗、右上=きしみ割れ、右下=こばかけ(きしみ割れが進行したもの))

 レール傷は、騒音・振動の発生源になるほか、レールの折損等による輸送障害に結び付く恐れもあります。このため、傷が発生したレールは交換するか、傷が無い状態に戻す必要があります。いったん傷が発生したレールを傷が無い状態に戻すためには、レール表面を削る必要があります。レール表面を削る作業を「レール削正」と言い、これを行う保守車両を「レール削正車」と言います。
 レール傷の発生しやすい曲線部などでレール削正を行うことで、騒音・振動を抑制でききます。また、「通過トン数」(=レールの上を通過した車両重量の合計)をもとに定期的に行うことでレールの寿命を延ばすことが出来ます。これは、列車走行に伴う車輪の転がり接触の繰り返しでレール表面に生じる金属疲労層を、レール削正により除去することで、劣化の進展を遅らせることが出来るためです。このため、当局を含めた多くの鉄道事業者が、レール削正車を使った削正作業を行っています。

写真-2 レール削正車による削正作業

2 交通局におけるレール削正車の導入と更新の経緯

 交通局では、平成17年に初めて「レール削正車」を導入しました。それまでは、削正車のリースと施工を一括して外注していましたが、トンネル断面の小さい大江戸線が開業し、この断面に対応した削正車をリースで手配することが難しいことから、大江戸線に対応した小さな車両断面のレール削正車を製造しました。

写真-3 レール削正車(初代)

 平成17年に導入したレール削正車は、導入当初は大江戸線の小さなトンネルに排気熱がこもりオーバーヒートを起こすなど、初期トラブルが多く発生していましたが、改善を積み重ね、大江戸線だけでなく浅草線でも使用し、毎年1年を通じてフル活用できるようになりました。
 一方で、過酷な環境でのフル活用が続いたことから、導入から10年が経過した平成26年ごろから故障が多発するようになり、部品交換などの修繕に時間を要し、削正が十分に行えない状況が発生するようになりました。
 このため、後継となる新たなレール削正車の製造を令和2年度に契約し、約3年の製作期間を経て、今年度納車されます。新たなレール削正車は、オーバーヒート対策を強化するとともに、エンジンを2台搭載し、片方のエンジンが故障しても車庫まで自走で戻れるようにするなど、安定した稼働を目指した仕様となっています。

写真-4 レール削正車(2代目)

3 今後のレール削正に関する話題

 交通局では、新しいレール削正車を、現在のレール削正車以上に活用し、より騒音・振動の少ないレール保守の実現を目指しています。
 レール削正する場所については、これまでは騒音・振動に関する苦情があった場所やレール傷の発生しやすい急曲線を中心に、人間の目でレールの状態を見て、選定していました。
交通局では今後、レール表面の状態を計測し数値化する「レール計測車」の導入や、レールの様々なデータを集積・分析する「保線管理システム」の改修などにより、「軌道管理のDX化」を行い、レール削正車の最適な運行を実現し、従来以上に効率よく騒音・振動を解消することを目指します。