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葛飾応為『吉原格子先之図』〜応為の眼差しが捉えた遊郭の美と悲哀

吉原遊廓の妓楼・和泉屋にて行われる「張見世」。このシーンは花魁(おいらん)たちが室内に居並び、往来に面して展示される様子を描いています。この描写は、提灯によって生み出される幻想的な光と影が特徴的で、見る者に強い印象を与えます。紙の寸法や画題が北斎工房が手がけたとされる水彩画と一致していることから、この作品もオランダ人からの依頼によって描かれた可能性が高いとされます。

描いたのは、葛飾北斎の三女とされる葛飾応為。彼女は北斎晩年の20年近くを共に過ごし、北斎の肉筆美人画の代作を務めたとも言われています。特に美人画において優れた才能を持っていたとされ、北斎も、「美人画にかけては応為には敵わない。彼女は妙々と描き、よく画法に適っている」と語ったと伝えられ、応為の芸術に対する深い理解と技術の高さがうかがえます。

葛飾応為『吉原格子先図』1818~1860 太田記念美術館所蔵

『吉原格子先之図』は、新吉原に移転後の遊郭街の生活を捉えており、夜間営業が許可されたことで、遊郭の夜景は江戸の夜の風物詩となりました。本作は、そんな新吉原の夜の風情を活写しており、格子の中で着飾った花魁たちとそれを眺める人々の様子を、明暗を際立たせる表現で描いています。明暗の強調やグラデーションの使用は、西洋絵画、特にレンブラントの影響を受けたものと推察されます。当時の浮世絵のスタイルから大きく逸脱した画期的な手法は後の浮世絵や日本画に影響を与えます。

作品には直接的な落款がないものの、画面内の提灯に「應」「為」「栄」という文字が隠されており、これらは応為の画号と本名を示しています。このような隠し落款は、作者が自身の作品に対して特別な意味付けを行ったことを示しており、その創造性と工夫がうかがえます。

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