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出産漫画の下書き⑤「お母さん目を開けて」促進剤〜分娩

お昼が近づいてきた。

「おおがさん、赤ちゃんおりてきてます。頭がもうそこに見えますよ」

膣に手をズボッと入れながら、助産師さんが笑顔で言う。私はまだ半分寝ていた。なんだかもう何も怖くなかったし、何も寂しくなかった。

この子を1人で頑張らせるのは、もうやめる。私はちゃんとこの子を応援する。ちゃんとこの子を待つ。ちゃんと一緒にいる。腹をくくるっていうのは、もうあなたを無視しないよって事なのかもしれない。

「これから分娩室に移ります。その前にイキむ練習をしておきましょう」

息を止めたら素早く吐く。腰を浮かせてヘソを見る。イキむ時は目を閉じない。思いっきりふんばる。

何度か練習して、上手い上手いと褒められたらやっと目が覚めた。

「今までずっと寝てました」

「それが1番いいんです。イキむ体力を残しておくためには」

いつその時が来てもいいように、眼鏡をかける。

.....

じゃあ行きましょうと言われて、ベッドごと分娩室にガラガラ運ばれ、両足を上げた形の分娩台になんとか自力で移り、助産師さんや看護師さんに囲まれても、まだ結構眠い。

もう1時間以上も駐車場で待機していた夫が「よぉきなこちゃん久しぶり!」と登場した。ちょっと緊張しているのがわかる。

左側には麻酔医さん、右側には夫、股の向こうには助産師さん、それを囲むようにベテランの助産師さんと看護師さん。全員そろったのを合図に、いよいよ始まった。

機械がピッピッといっていて、心拍音がドゥクンドゥクンと鳴っていて、手袋をした人たちが大きな声で「おおがさん、吸って〜吐いて〜」「もう1回吸って〜」「はい!イキんで!」「頑張って!赤ちゃん見えてますよ!」と口々に言う。

さっきまで寝てたのに、いきなりクライマックスを迎えようとしているのが嘘みたいだった。

ついつい目を閉じてイキんでしまう私に、助産師さんが「お母さん、目を開けましょうー!」と声をかける。院長先生が横から入ってきて「おおがさん押しますよ」と言った。

乗っかるようにして思いっきりお腹を押された次の瞬間、「あっ出たっ」という夫の声がして「え何が?」と思ったら。

赤ちゃんがもういた。

私の足と足の間に。

初日の出みたいに。

全身湿った小さな人間が。

手足をもう動かしてる。

表情がもうある。

髪の毛が長い。

眉毛が下がってる。

泣いてる。

泣いてる。

「可愛い」って言って私も泣いていた。

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