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「IEO」が革命的な理由をやさしく解説します:コインチェックで国内初のIEO資金調達が実現

Tokyo Otaku Modeの安宅です。今回は、日本国内でもニュースになっているIEOが革命的な理由について、できるだけやさしく解説してみたいと思います。

IEOは、

I:イニシャル
E:エクスチェンジ
O:オファリング

という頭文字をとった略語です。暗号資産取引所を仲介してトークンによる資金調達を行う仕組みです。

なにかの事業を興すとき、実現したいビジョンが大きければ大きいほど、たくさんのお金が必要になりますよね。IEOを活用すると、これまでできなかった新しい形の資金調達を行うことができるのです。

ちなみに、「エクスチェンジ」という文字が入っているように、日本では暗号資産の交換業免許を持つ取引所が、資金調達したい会社のサポートに入って、資金調達するときに必要なブロックチェーン技術の提供を行い、トークンの販売を行ったりすることで、信頼性を担保したり、詐欺案件に巻き込まれない仕組みとなっています。

また、IEOとして売り出されたトークンは、その時点では暗号資産取引所では売買できませんが、IEOでサポートに入った暗号資産取引所からすれば、IEOしたトークンの上場を目指すことは、暗黙の了解といえるでしょう。IEOへの参加者からすると、IEOの一定期間後、トークン上場時に売却することで、利益確定や投資リターンを得られるだろう目論見もあります。

こうした新しい資金調達方法が日本国内の暗号資産取引所のコインチェックで2021年7月1日に法令に基づいて実施され、ものの6分で9億円以上の資金が集まったということで大きな話題となっています。

実は海外では、2019年にIEOがブームとなって、いろいろな会社が数十億円以上の資金調達に成功したので、毎回抽選応募となるくらい個人投資家などが殺到しました。そして、初期に投資できた人たちが、数ヶ月で高い投資リターンを得られるような事例が続いたため、一種お祭りのような状態で、事業の中身や実態に関わらず、投資マネーが集まってしまうような過熱に繋がりました。

事業の資金調達というのは、スタートアップ経営者や投資家でないかぎり、これまではそれほど詳しくなる必要もなかったと思いますが、このIEOが日本国内でも行うことできるようになったことで、個人投資家はもちろん、一般の方でも、知っておいて損はないトピックとなりました。

あらかじめお断りしておくと、この記事はIEOへの参加を含めて投資の勧誘を斡旋するものではありません。あくまで、このIEOという仕組みが社会で使われだすと、どういうことになるかの社会変革の可能性について解説していきます。

IEOは、本来の目的である資金調達する事業内容にあまり関係ないところで、一種お祭りとして、投資家やトレーダーたちのネタとして消費されてしまう側面もあるので、良いことばかりではありません。一方で、革命的な側面もあることもあわせてお伝えできればと思っています。

個人の判断で投資なされる場合でも、投資は自己責任ということでお願いします。

それでは、早速いってみましょう。

資金調達の民主化

IEOがもたらす革命、社会変革の可能性をひとことでいえば、「資金調達の民主化」ということに尽きるでしょう。

IEOが登場する前、事業を行うときのお金の集め方は、おもに2つの方法がありました。

1. 銀行などからの融資
2. 株式による調達

ひとつめの銀行などからの融資は、銀行も貸したお金を確実に回収するために、貸すときの審査はとても慎重に行う必要があり、これから新しく事業を興すような会社で、サービスやプロダクトが存在しないようなスタートアップだったり、まだ赤字フェーズの事業会社は資金回収ができないリスクが高いため、相手にしてくれないケースが多かったのです。

そこでもう少しリスクをとっていいのでお金を投資して、もしその事業がうまくいって儲かりだしたら、大きなリターンを回収するようなモデルが考えられました。これが株式の仕組みです。株式会社の仕組みともいえます。

法律に定義されている株式会社は、手続きにまつわる費用をすべて含めても、ほんの20-30万円もあれば、法人として登記することがかんたんにできるようになりました。そして、株式会社を作ると、その会社の株式発行数やその株の価値を、創業者が決めることができます。

仮に、私が100万円の出資金で、株式会社パジを作ったとします。株式も自由に設計できるので、わかりやすく100株を発行したとします。すると、その瞬間、株は1株1万円の価値を持つのです。このときの株式会社パジの会社の価値、つまり時価総額は100万円になります。

そして、株式会社パジは、YouTuber事業を始めて、収益が上がるようになったとします。すると、このビジネスがうまくいって収益がもっと上がりそうな見込みがでてくると、時価総額は100万円から1億円くらいと評価してくれる投資家や投資会社が出てきて、100株のうち10株をゆずってくれたら株式会社パジに1,000万円を投資してくれると話を持ちかけてきました。

投資家や投資会社は、将来パジ株式会社は10億円くらいの価値になる可能性があると期待してくれるとしたら、いまの1億円の価値はとても安く感じるのです。

1億円の時価総額で、100株の株式会社パジは、その瞬間に1株100万円で10株で1,000万円となります。株式会社パジが10株を投資家や投資会社に渡すことで、1,000万円を資金調達できるわけです。その後、株式会社パジは時価総額10億円にサクセスストーリーを歩むことができたら、投資家や投資会社は10株1,000万円の投資が、1億円の投資リターンとなって返ってくるのです。

このように株式の仕組みがあることで、事業会社からすると、まだサービスやプロダクトがなかったり、赤字フェーズだったりするリスクの高いときでも、将来性に賭けてくれる投資家や投資会社と巡り会えれば、出資金を集めることができるようになりました。

これは人類がリスクを取って色々な事業やサービスを発展させるときに、とても重要な金融機能となって、現代社会に欠かせないものとなったのです。

IEOは、この仕組みをさらにアップデートしたものといえます。

さきほど、投資家や投資会社が1,000万円を出資した、という話をしました。実は、これまでの株式の仕組みの場合、こうしたスタートしたばかりの会社=未上場会社には、一部の投資家や投資会社だけが出資することができ、一般の人は情報もないため、こうした投資の世界に手を出すことができなかったのです。

IEOはこうしたクローズドな世界をオープンにする画期的なアイディアです。データを改ざんできないブロックチェーンという新しいテクノロジーを活用することで、世界中の誰もが投資家になれる仕組みなのです。投資したくてもできなかったことが、一般人でも行えるようになったので、「資金調達の民主化」という言葉がぴったり当てはまるわけです。

いま日本で始まっているIEOは日本の居住者を対象にしていますが、仕組み上は海外にすぐにつながるので、例えば、日本発で世界中に人気のあるアニメ・漫画・ゲームなどのコンテンツ系の会社にとっては、この仕組を活用することで、世界中にいるファンからの資金調達もできるようになるということです。

日本よりも海外で評価されるような事業やサービスを行っている場合などは、特にIEOが有効に機能するはずです。


IPOとの違い

IEOに近い言葉で、IPOという言葉を聞いたことがある人も多いと思います。

IPOは

I:イニシャル
P:パブリック
O:オファリング

の頭文字をとった略語で、日本だと東証一部・二部・マザーズなどの、いわゆる株式市場へ上場し、公開企業となることで、いつでも市場で株を売買して、資金調達をできるようになるという意味です。

ただ、よく知られているように、上場している会社あるいは上場できる会社というのは、事業的にも安定しており、社会的にも信頼ができる会社だけです。

日本には上場会社は3,800社ほどしかなく、日本全国の株式会社は200万社もあるので、ほとんどの会社が非公開企業、上場している会社ではないので、いわゆる株式市場で自由に株式の売買ができる会社はトップ中のトップの会社に限られているわけです。

IEOは世の中の大半を占めるこれらの非公開企業に、世界中の一般の人が投資できる仕組みなので、非常に革命的であることが理解できると思います。

これから成長する期待はあるものの、リスクが高い状態のスタートアップなどにとっては、資金調達の新たな手段が増えることになるので、リスクを取ったチャレンジをする非公開企業にとって挑戦がしやすい世の中になります。IEOによって、これまでよりもさらに社会の発展の速度があがる可能性があります。

また、IEOを行う会社を利用しているファンも、そのサービスを行う会社の株式のようなトークンを持つことができるので、これまでのサービス提供者と消費者のドライな関係ではなく、会社の成功がファンや利用者の金銭的リターンに繋がるというトークンを通じたファンコミュニティができていく可能性があります。

ファンは、サービスを利用しつつSNSなどを通じて広めていくことで、サービスの発展にも貢献ができる時代なのです。そして、サービスが大きくなって会社が成功することで、利用者自身にも金銭的リターンを得ることができるので、IEOによってトークンを所有している人たちと、会社が目指す方向が一致しやすくなります。

ただ、もちろんいいことばかりではありません。
サービスやプロダクトがまだなかったり、事業が赤字の段階で、トークンを販売するような場合、ファンや利用者が投資家となって運命共同体になってしまうことで、短期的にトークンの価値が下がってしまったりすると、利用者も短期的にトークンの価値が上がるような機能や施策を行ってほしいと考えるようになり、事業の本質な成長に必要な中・長期的な戦略や舵取りがしづらくなる可能性もあるからです。IEOのメリット・デメリットを理解しておく必要があります。


エグジットの多様化

IEOがさらに革命的なのは、株式市場でいうIPO、つまり「上場」がより民主化されることです。どういうことかを順を追って説明します。

スタートアップした会社が、株式の仕組みによって、投資家や投資会社から資金調達した場合、投資リターンを返すために、エグジット=出口戦略が必要となります。

エグジットには以下の2パターンしかありません。
M&A=大きい会社に買収してもらう
IPO=株式市場へ上場

ところが、IEOのトークンによる資金調達であれば、エグジットは無数にある暗号資産取引所へのトークン上場をすることで、エグジットができます。

日本では、暗号資産取引所からJVCEAという業界団体を通じて、金融庁の認可を得られると、暗号資産取引所にトークンの上場が可能となります。この申請や認可には一定のコストや時間がかかるものの、株式市場の場合は、東証マザーズなどごく限られたプラットフォームへの上場に限定されていた門戸が、トークン上場の場合は、日本だけでも20を超えるプラットフォームへの選択肢が広がる可能性があります。もちろん、すべての暗号資産取引所がIEOに対応するとは限らないので、最大に見積もってということです。

今後、仮に10の暗号資産取引所がIEOに対応していくことになると、それぞれの暗号資産取引所ごとに特色が出てきて、どんな会社のビジョンを実現するかという選考基準は、いま株式市場で限られた価値観を超えて、よりなめらかに上場が行われる可能性が高まります。

よく株式市場で課題とされているのは、3ヶ月毎に業績を公開する必要があるため、どうしても短期的な売上・粗利が出るような施策に注力しがちで、中・長期で本質的な戦略をとりづらい、などの問題があります。

IEOを行う暗号資産取引所の価値観によっては、そうした短期的な業績ではなく、社会にとって本質的なサービスやプロダクトにしあげるための、新しい指標やレビューの仕組みを実践していく可能性もあります。これが、ビジョンを持つ会社の多様性を生み出し、社会がよりチャレンジしやすい環境が整う可能性があるのです。

ちなみに、IEOは基本的には、海外の事例を見ていると、トークンの上場とセットで行われることは暗黙の了解のようなものです。IEOを行った数カ月後にトークン上場を行うことで、トークン保有者はすぐに投資リターンやトークン売却ができるようになります。

IEOには一般人も参加できますが、投資家や投資会社も参加できるので、投資家や投資会社にとっても、早い段階からトークンを第三者に売却しやすくなるメリットもあります。

一般的にひとつの会社がIPOまでに掛かる期間は17年と言われています。いけているスタートアップで早くても3-5年くらいは掛かるのが通常なので、IEOのように3ヶ月後に暗号資産取引所に上場ということが増えていくと、投資マネーが株式よりも高速で循環していくことになることも、IEOが革命的なところです。

このように、IEOによってトークン上場というエグジット先が増えたことで、事業会社視点では、これまでの株式の仕組みで必要だった、M&AやIPOを必ずしも目指す必要がなくなっていくともいえるのです。

事業を長く続けたい創業者や経営者にとって、M&Aで会社を売りたくないケースは多いですし、IPOのように公開企業になることで、事業成長のための大胆な先行投資や長期的な戦略が取りづらくなるなどのデメリットもあるので、IEOは、こうした課題を解決してくれる可能性もあるのです。

さらに、IEOは、株式と違って、理屈上は同じ会社であっても、事業ごとに複数のトークンを発行することも可能です。事業ごとに調達機能を活用することになれば、その事業にひもづいて適切に資金を調達することに繋がるので、予算の取り合いなども起こりづらくなる可能性もあります。

さらに事業会社にとって大きいのが、株式の仕組みと違って、トークンを売り出すことによる「議決権」の希釈化が起こらないように設計できることです。

株式による資金調達の場合は、基本的には株式比率に応じて、「議決権」も手放すことになります。議決権なしの設計も可能ですが、基本的には投資家や投資会社への交渉の余地はありません。

例えば、投資家や投資会社があつまって67%以上の「議決権」を行使されたら、取締役社長であっても交代できてしまうリスクがあるのです。これはガンバナスという観点もあるので、必ずしも悪いことではないのですが、政治的な画策をされる可能性を残すような調達方法でもあるので、痛し痒しな仕組みだったりします。創業者視点でいえば、トークンによる調達であればこうした事態を、防げたりするのですね。

日本でのIEOはまだ始まったばかりですし、実施するための手続きや審査などは非常に時間やコストがかかるものの、次第にこなれていくことで、気軽にこうした資金調達を行える環境が整うと、世の中にもっと有益なこと、チャレンジングなことがしやすい時代になってくるはずで、さらに個人や少人数だとしても、こうした「資金調達の民主化」によって、活動の軍資金を得ることが可能になるという点で、とても革命的なわけです。


今回もブログ記事をご覧いただきありがとうございます。また定期的にブロックチェーンによる社会への影響をアップデートしていく予定ですので、よろしければSNSでのシェアやフォローなどお願いいたします。

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