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【徹底解説】NFTでビジネスするなら知っておきたい5つのこと(2021年6月最新)

Tokyo Otaku Modeの安宅です。今回は、徹底解説シリーズとして、NFTに取り組む事業者向けに、2021年前半を総括するまとめ記事を書いてみました。

2021年にホットトレンドとなったNFT。仮想通貨以外にもブロックチェーンがビジネスに活用できる事例がたくさん出てきています。

私も、ここ数ヶ月でNFTにまつわるいくつかのプロジェクトや企画に携わらせていただき、身を持って実践してきました。以前よりもさらに深くNFTについての理解が深まってきているかと思います。

NFTの根幹を支えるブロックチェーン技術も、数ヶ月前に比べても発展してきています。ビジネスへの活用の仕方も、さまざまな選択肢が増えてきているので、実践者のひとりとして、私が把握している情報をオープンに共有して、よりブロックチェーンのビジネス活用が加速すると嬉しく思います。

はじめに

最初に私のスタンスを伝えさせてください。

私は、NFTやブロックチェーンを活用すると、日本のアニメ・漫画・ゲーム・VTuberといった世界に誇るオタク文化が世界にさらに広がっていき、作り手への収益還元がもっと加速できると考えています。

日本発コンテンツ・IPが、海外へ広がっていき、外資獲得が最大化され、日本の国益に繋がると嬉しく思います。

今は、どこか1社が情報をクローズにして、情報格差で収益性を高めるのではなく、有意義な情報はオープンに公開して、業界全体の発展のスピードを早め、国際競争力を持てるようになればという想いです。

それはブロックチェーンの根幹思想にも繋がる思想で、視聴者の目や耳の可処分時間の争奪戦が激しく行われている国際競争に、日本発コンテンツ・IPがリードをとるためのステップになればと考えます。

今回の内容は、いま私が観測している範囲でなるべく網羅的に情報をまとめています。ただ、この業界はとてつもないスピードで進化するため、情報すべてを完全にキャッチアップされているはずもなく、書いている内容を、そのままは鵜呑みにしないでいただければと思います。あくまで「参考情報」として、同じような境遇にある事業者のみなさまへお役立ていただければと思っています。


1. なぜ「いま」NFTを活用するのか

いざNFTに関連する事業を行おうとしたときに、NFTについて突き詰めて考えていくと、なぜ「いま」NFTを活用する必要があるか、という深く根源的な悩みを持たれる方はかなり多くいると思います。

NFTについていろいろ調べていくと、この技術が将来もたらすメリットは明確で、すでに数百億円を超える成功実績も出てきていて、NFTはビジネスに活用したほうがいいことは間違いなさそうという感覚を持たれる方は多いかと思います。ただ、いざNFTを活用するとしたら、「いま」どういう風に活用していくのがいいのか、という悩みが出てくるのです。

結論から書けば、NFTは、3年前にできたばかりの新しいテクノロジーなので、率直にいえば、「いま」はブロックチェーン純度が低いほうがマネタイズが図りやすい状況です。

例えば、ブロックチェーン純度を10%くらいに薄めた企画にすれば、UI&UXやGAS代の問題を、既存のやり方で「解決」できてしまうのです。

ただ、ブロックチェーン純度が低いデータベース中心の企画を実現しても、NFTが本来持つ真価は発揮されません。ビジネスとしての売上・収益の上限はこれまでと変わらないのです。

NFTが真価を発揮し、その上限を突破するには、DeFiを含む”有力サービスへの連携がカギ”になります。

ここまでの話を計算式でいうと、次のように示せます。

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現状は、ブロックチェーン純度が低いほど、GAS代問題突破率やUI&UX問題突破率が高く設計できます。

また、ブロックチェーン純度を高くしようとしても、カギになる「有力サービス」はまだ多くないため、GAS代・UI&UX問題を解決しているブロックチェーン純度の低いチェーンのほうが、現時点ではビジネス性が高いのです。

こういう前提に立つと、①ブロックチェーン純度の高い方向に舵を切るのか、②まだ実験段階に留めるのか、③ブロックチェーン純度を薄めて取り組むのか、④ブロックチェーン活用は保留するのか、などの方向性の中から意思決定を行うことが、NFTをビジネス活用するときの最初のスタートになるでしょう。


2. NFTビジネスの2つの方向性

すでに多くの人がご存知のように、NFTは、「世界にひとつだけ」も証明できるし、「そのデジタルアイテムひとつを世界に100人だけ所有できる」ことも証明できる特性を持っています。

「デジタルだけど在庫を持てる」という説明が、NFTの保つ特性を正確に表現できていると思います。

その前提で、NFTをどうビジネスに活用するかを考えたとき、大きく2つの利用用途があると考えます。それは、①高単価なアート作品と、②低単価なファン向けデジタルグッズの2つです。


2-1 高単価なアート作品

2021年のNFTブームはアート作品から始まりました。75億円もの金額で落札されたBeepleなどの希少性のある高単価商材です。

アート作品は1点モノが基本で、数千万円や数十億円レベルまで、一般の人にはとても手が出ない金額での販売されることも珍しくありません。

トップアーティストになると、販売する場所も世界的に有名なオークションハウスなどが受け持ち、格式高く、作家の人気や作品自体が持つストーリーもとても大事になってきます。

購入層も超富裕層に限定された、いわゆる「ハイブランド」の販売方式で、高額になればなるほど、おもには作品自体の魅了はもちろん、資産運用の観点も交えて購入してもらうような形になるでしょう。

一般的な事業者にはなかなか縁遠い存在です。

どうしてもアート領域はこうしたハイエンドのアーティストたちの超高額な作品が注目を集めやすいのですが、個人や無名クリエイターにとっても無数のチャンスが潜んでいるとも思います。

無名からの”成り上がり”として注目したいのは、「Hashmasks」のプロジェクトでしょう。詳細はこちらの記事で紹介したのでここでは割愛しますが、トークンやDeFiと連動したブロックチェーン業界的にも最先端のチャレンジをしていたこと、高いアート性や作品に緻密に仕掛けられたミステリーなどで、無名なアーティスト集団にも関わらず、プライマリーセールで15億円近くの売上を上げることに成功しました。

個人やクリエイターにとっては、「Hashmasks」の事例のように、よく作り込まれていて、ブロックチェーン業界的に見ても最先端の挑戦がなされている場合、世界的に注目を集められる好例といえるでしょう。

ただ、日本国内の場合は、NFTに連携したトークンや、DeFiとの連動はグレーゾーンとなり、法規制が明確に定まっていないため、企画上で多くの制約がでてきてしまう可能性があります。


2-2 低単価なファン向けデジタルグッズ

私が本業で携わっているアニメ業界におけるグッズ市場は国内だけでも年間6,000億円近くの規模がありますが、このアニメ領域だけでも、近い将来、NFTを活用したデジタルグッズが一定のシェアを占めることになるでしょう。

なぜなら、デジタルアイテムは物理グッズと比べて、在庫リスクもなく、配送の手間もなく、世界中に気軽に販売できるビジネス上のリスクやコストが少ないからです。また、言語や決済の壁を乗り越えるだけで、全世界のファンがお客さんになりえ、最初からグローバル展開が可能です。

これは、アニメに限らず、漫画・ゲーム・VTuberやアイドル、サッカー・野球・F1など、世界中にファンがたくさんいるジャンルとの相性が抜群に良いのです。

しかも、グッズをNFTにすることで、二次流通市場が花開きます。

NFTにすると、二次流通の売買金額もオープンになるので、マーケットプレイスが二次流通売上の一部の売上を一次創作者(一次販売者)へロイヤリティ還元を行うことができることは、とても画期的な話です。

ただ、それ以上に大きいのが、NFTにすると、デジタルグッズが真の意味で資産性を帯びることです。

いままでグッズの購入は単なる「消費活動」だったところが、「投資活動」に変わるのです。

例えば、ファンが1,000円のファングッズを購入するとします。いままでは丸々1,000円分が消費されていたところが、NFTであれば、二次流通市場でそのファングッズが800円で転売できる状況が生まれやすくなります。

すると、この買物のときの実質の消費は200円となり、そのファンの可処分所得が1,000円であるなら、理論上は5倍の5,000円の売上に膨らむのです。

現状でもメルカリやヤフオクのような二次流通市場があり、ファングッズは特に二次流通が盛んですが、NFTは、物理商品を梱包したり配送の手間がないので、二次流通市場がよりなめらかに流通し、流動性が高まるため、NFTを活用することで、あらゆるデジタルアイテムに資産性が帯びるようになるのです。


3. 効果的なNFTの販売方法

NFTを活用したデジタルグッズを、より効果的に販売することを考えていきましょう。これまでの成功例や実践例に基づくと、ビジネス上、私はこのような順に効果的なのではと考えています。

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a. ガチャxスマホゲームxNFT

超トップIPを除けば、近年の高収益ビジネスの代表であるソシャゲが、「ガチャ」なしで成立しないように、「ガチャ」はデジタルグッズを売るときの”最強の武器”といえると思います。

もし私が、いまスマホゲームを作ってくれと頼まれたら、「ガチャ」機能なしでは、いくら予算が多くても、国内の競争環境だけでも勝ち切ることが難しいくらい、「ガチャ」の効用はとても大きなものです。

ただ、いまはNFTを活用すると賭博法で定義されている「得喪」が発生するため、刑事罰のリスクを負うことになり、いくらリスクを取るスタートアップであっても、”お縄”になるようなグレーゾーンは前に進めないのが現状だったりします。

ただ、海外の一部サービスでは、購入したNFTがランダムに出現する「ガチャ」機能を販促に利用しているケースが散見され、今は日本人もそうしたガチャ付きのサービスを通じてNFTを購入できる状態となっています。

最強の販売方法である「ガチャ」が海外ではできて、国内ではできない不公平さは気になるところです。

日本国内におけるNFT活用のガチャをどうガイドラインをしいていくかは、もしかしたら、オンラインクレーンゲームの事例がヒントになるかもしれません。賭博法のような刑事罰は所轄官庁がなく、問い合わせがしづらいのですが、クレーンゲームは警察庁と「800円ルール」という解釈を出してもらっているようです。業界全体でこのようなケースと同様の働きかけは有効かもしれません。


b. ゲーム・メタバースxNFT

ガチャを用いた販売促進がグレーゾーンのため、現実的に活用できないとなる、次点に来る効果的なNFTの販売方法は、「ゲーム」や「メタバース」です。

世界観の中で、そのデジタルグッズが絶対的に必要な状況やルールを作ることで、需要を高めるような演出が可能だからです。

例えば、最強の剣・エクスカリバーは、その世界に1本しか存在せず、それを保有・装備することでゲームバトルが有利に戦えるのなら、ゲームプレイヤーにとって需要が高いアイテムとなることは間違いありません。

同じように仮想現実の世界=「メタバース」内で自分を着飾る衣服や靴、住んでいる家や土地などをNFT化することで、その世界をより心地よく住むことができるような設計を行うと、NFTアイテムの需要が増していきます。

c. 特別体験xNFT

次なる効果的なNFTの販売方法は、アーティストの限定イベント・コンサート・サイン会などの「特別体験」でしょう。国内の多くのアイドルや音楽アーティストが行っている手法です。

ファンはCDやBlu-rayを大量に購入して、イベントに申込が行える抽選応募券を得て、抽選応募することで、特別体験を受けられる仕組みです。

これは「特別体験」をプライレスな価値として「ゴール」を設定しておき、その手前側にファングッズをたくさん購入してもらうように設計しておく方法です。

ちなみに、イベント参加のためのチケットをNFT化することで、誰かに転売したら「入場を無効」にすることも可能になります。

同様に、そのNFT化されたファングッズを持っていると、アイドルグループ内のセンターポジションを決める投票に使えたり、複数のNFTをコンプリートすると、さらにレアなNFTがもらえたりと、「ゴール」に「プライスレスな価値」を提供できるならば、設計や売り方はさまざま考えられます。

また、ここまで伝えてきた話は、リアルなイベントや場所に限りません。メタバース上のイベント会場などを通じてNFTを持っていると特別な映像が視聴できるなど、コロナ禍への対策としても、デジタル完結のサービスでも行うことができ、よりスピード感を持ったビジネス展開が行えるはずです。


d. コレクタブルxNFT

コレクションは、定番の効果的な販売方法のひとつです。

すでに多くの物理的なトレーディングカードでも用いられている手法ですし、ここまで挙げてきたa〜cにも組み合わせることができる柔軟性のある販売方法といえます。

販売したカードでゲーム大会を行うようなサービス成功例もたくさんあります。リアルなゲーム大会もコロナ前には大変人気がありました。

コロナ禍となり、これらのリアルイベントがオンライン化・DX化していくと、紙やプラスティックなどの物理的なカードなしでも、NFTによって在庫数を証明したトレーディングカードが成立します。すでにファンの親しみがあるサービスであれば、NFT化したときの浸透はよりズムーズで成功率も高まります。

また、NFT化することで、今度は逆にリアルイベントではなく、オンラインでいつでも誰とでもカードゲーム大会が開かれるようになるのです。もちろんコロナ明けにはリアルなイベントも同時開催することで、より一層の盛り上がりを加速させることに繋がります。


e. (物理+デジタル)xNFT

最後は、デジタルだけに閉じない物理的なファングッズとの組み合わせを紹介したいと思います。

デジタルだけで完結したサービスとしたとき、既存ファンが置いてけぼりになる懸念が残ります。

スマホを通じてインターネット上で過ごす時間が増えてきたとはいえ、これまでのファングッズは物理的なグッズが大半を占めています。

技術的にはオンラインだけでデジタルアイテムの販売が可能となったとしても、ファンの気持が追いつかず、うまく浸透しないと、ビジネスが成立しない可能性があります。

特にNFTは、その元をたどっていくと、英数字の羅列のコントラクトやメタ情報という、価値を感じ取りづらいデジタルデータそのものなので、物理グッズのように、五感で感じ取るような存在でないことが大きなボトルネックになりかねません。

そうした価値を感じてもらうための「ゲーム」や「メタバース」などの「有力サービス」もまだまだ数が少なく、見せ方もまだプアな部分もあるため、ファンが置いてけぼりになる可能性は否定できません。

ただ、ファンへのスムーズな浸透のために、NFTを物理的なグッズと連動することは、所有感などの体験を伝えやすいものの、ビジネスのスピードやスケールを落とす可能性もあるので事業者にとっては大変悩ましいものです。


4 低単価NFTにおける勝ち筋

ファン向けのデジタルアイテムは、そのIPが持つブランドの強さによって、売上の総額がおおよそ決まります。

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ざっくりいえば、IPの持つブランドの強さが売上総額になるので、その強さをどれくらいの種類と単価で販売するかで、ファングッズを売るときのマーチャンダイズ戦略が決まってきます。

ここでは有名かつブランドが強いIPと、無名でブランドが弱いIPの両面から低単価NFTに絞った勝ち筋を考えてみます。

4-1 ブランドが強い有名IPの場合

ブランドが強い有名IPの場合、すでに多くの既存ファンが存在しており、複数の物理グッズで一定の売上があるはずです。王道パターンはそうした物理グッズの中で、インターネット上でも、そのグッズがもたらす”機能”
をデジタルで代替できないかを考えてみると、きっとアイディアが浮かんでくるでしょう。

例えば、アニメファンの間では、自分の好きなキャラクター=推しキャラへの愛を示すために、同じキャラクターのアクリルキーホルダー(通称・アクキー)や缶バッチを、イベントや普段持ち歩くバッグにたくさんつけて、周りのファンや友だちに、自分の愛の大きさを示すことがあります。

この場合、アクキーや缶バッチは、自分の推しキャラを周りに示すために機能していると捉えることができます。コロナ禍で、なかなかイベントや外出の機会が減ってしまうと、こうした推しへの愛を露出する場所が減ってしまっているので、その飢餓感をデジタルやインターネット上で代替し、埋め合わせできる可能性があります。

また、既存ビジネスでブランドの強い有名IPであれば、鉄板の高付加価値の商品やサービスが存在している可能性が高く、例えばアイドルであれば、イベントでリアルに触れ合える握手券や限定コンサートの参加券、グループのセンターを決める投票券は、ファンであればお金に糸目をつけずに誰もが欲しい体験や欲求でしょう。

そうした高付加価値の商品やサービスの手前側に、NFTによるデジタルグッズのコレクタブルな設計やコンプリートの仕組みを入れることで、マネタイズの最大化が行えるはずです。


4-2 無名IPでブランドも弱い場合

一方で、まだこれからの無名IPでブランドも弱い場合、単にNFTで販売したからといって、売上が高まるということは、ほとんど無いといっていいと思います。ただ、企画次第では、まさにNFTをフックにした成り上がりのチャンスはあります。

ヒントとなるのは、さきほど挙げた「Hashmasks」でしょう。NFTでしかできない画期的な挑戦、先端的な取り組みになっている場合、ブロックチェーン業界内でも話題になりますし、例えば、二次流通で転売されたら入場が無効になるNFTチケットを実証実験して成功した場合、音楽業界で長年の悩みだった「転売抑止」として界隈で話題になり、音楽ファンも含めて注目を集めることでしょう。

そういう意味で、いまいま2021年のNFTの黎明期のフェーズのみ、NFTの可能性を広げ、既存のなにかの問題を解決するような「人柱」的な実証実験を行っているIPは、注目を集めてブランドを高めることになるのです。

また、有名IPはそこまで大事に育ててきたブランドを失墜させるようなチャレンジがしづらいため、無名IPだからできる手法として、一定程度リスクを取りながら、NFTの可能性を増やす、各種サービスやDAppsと連携し、IP単体以上の魅力を増やすといった、テクノロジーが保つ特性に沿った方針を持つことはとても大事です。

これと近い発想として、私たちがいるエンタメ・コンテンツ業界では、二次創作を公式的に許諾した「初音ミク」はUGC(ユーザー生成コンテンツ)という大きな波が来たタイミングもあいまって、大成功を収めました。

NFTやブロックチェーンが持つ特性にあわせた、IP展開を考えると、クローズドよりもオープンで、囲い込みよりも連携、という技術が持つ特性に沿った方針に従うことで、想像もつかなかった展開に繋がる可能性があります。もちろん悪意を持つ人たちによりあらされるリスクもあることは、あわせて留意しておく必要があります。

ブランドの弱い無名IPの場合でも、IPのブランド力を高めるための施策は同時に行う必要があります。

定番は、ファンのエンゲージにダイレクトに効くファンコミュニティの醸成です。ブランド構築には時間がかかりますが、IPビジネス自体が時間経過に比例した積み上げ式であるので、わずか数年で爆発的な跳ね方をした「Hashmasks」や「CryptoPunks」などはレアケースとしてみたほうがいいと思います。

ファンのエンゲージを高めるときにおすすめなのが、購入・配布したファングッズのNFT自体がファンコミュニティのパスポートとして利用できる設計にすることです。Discordなどでチャットコミュニティへの入り口で、特定のNFTを持つファンだけが入場できる機能をもたせることで、NFTにもユーティリティとしての価値付けも行えます。

コミュニティ内では、ファンと直接やりとりしながら、ファンのエンゲージを高める継続的なコミュニケーションをとっていきます。デジタル完結にこだわるのであば、インターネット上でのチャットサービスの活用は定番です。DiscordとパスポートとしてのNFTの組み合わせは、今後さまざまなシーンで活用されていくでしょう。

無名IPが最初に認知を広げるためのフックとして頼もしい存在が、NFTの根幹技術になっているブロックチェーン好きのイノベーター層です。

ITリテラシーや可処分所得も高く、いわゆる濃ゆいターゲットであり、情報感度も高いので、NFTやブロックチェーンの可能性を広げるような施策になっていれば、告知や認知のコストをそれほどかけなくても、リーチを広げられる可能性が高いのです。

ここで熱狂的なファンベースを作れると、ブロックチェーン内での知名度やマネタイズという面で有利に働くことがあります。ただ、規模はそれほど大きくないため、認知が広がりきった次段階のマジョリティにどうキャズムを飛び越えるかは頭をひねる必要があります。


5 GAS代・UI&UX問題の解決見込み

定番かつ王道といわれるイーサリアムにおいて、NFT販売を実践していくと、①GAS代問題、②UI&UX問題という、2つの大きな課題にぶつかります。

2021年6月時点では、ネットワークの混雑具合によって、イーサリアム上でNFTを生成するときに1個数千円〜1万円前後掛かったり、独自コントラクトを登録する際に10万円前後の費用がかかります。そうすると、NFTを商品と見立てたときの原価が高いため、NFT1個の上代を少なくとも3万円くらい高額商品とする必要が出てきます。ようは、低単価なNFTを販売することが難しくなってしまうほか、二次流通マーケットでの売買・出品・送付手数料も高額なため、二次流通によるロイヤリティ還元の仕組みをスムーズには機能しないことになります。

これらは、イーサリアム上でNFT化をするときに発生する、GAS代問題として広く認知されています。

また、NFTを購入する側にも、①メタマスクなどのウォレットの概念を理解し、②ブラウザのエクステンションなどをインストールし、③ウォレットアドレスを新規発行し、④NFTを購入するときに手数料としても必要な暗号資産イーサリアムを発行したウォレットアドレスに送付する必要があり、⑤イーサリアムの購入に暗号資産取引所の口座開設が必要、などのUI&UX上で、非常に高いITリテラシーが求められる点にも課題があります。

このうち、GAS代問題は、私の見たてでは、2021年後半はEVMと呼ばれるイーサリアムの規格に準拠したものだとPolygon(Matic)というイーサリアム上に乗るレイヤー2ソリューションが有力になってきています。その理由は、NFTのブームを作り出したDeFi系DAppsとつぎつぎに連携。1inch、Curve、SushiSwap、QuickSwap、Aaveなどが次々に対応をはじめ、DeFi連携における営業力が、他のレイヤー2チェーンやサイドチェーンと比べても図抜けているように感じます。

また、私たちも、Polygon(Matic)を用いると、実際にGAS代は1円以下でNFTを生成できることも確認できているため、低単価NFT販売やNFT活用のプロモーションで活用しやすいことも実証できています。

ただし最低限メタマスクが使えないと厳しい=UI&UXは解決していないので、現時点では、アーリーアダプタ層狙いのIPに限定されそうな点と、イーサリアムと比べると開発元の企業の中央集権的な構造からはまだ脱却できていない点などの課題はあります。

一方で、中央集権・プライベートチェーンで一般層のマス狙いなら日本国内ならLINEが、UI&UXでアドバンテージがあり非常に強い印象を感じます。

LINEブロックチェーンでNFTを生成する場合、あらたにウォレットやアプリをインストールしなくても、LINEアプリからすぐにウォレットに接続できる環境になっています。

さらに、最初にNFTをLINEメッセンジャーで受け取ってもらうことで、タップだけでウォレット連携が可能で、20歳以下でもNFTを受け取れる=圧倒的なUI&UXの気軽さは、8,000万人ともいわれる日本での登録者を抱えるスーパーアプリのUI&UXは分があると思います。

さらに、LINEブロックチェーンでNFTを生成すれば、GAS代問題は起こらないほか、GAS代を支払うための暗号資産を意識せずに、NFTの売買・送受信が行えることは体験的にはとてもスマートです。また、スクエニの資産性ミリオンアーサーを筆頭に、トップのゲーム企業の参画も決定している点も、近いジャンルや属性の利用者をターゲットにしたい事業者にとって、NFTへのリテラシーの高まりを底上げしてくれるはずで、ビジネス的に有利に働くことになる点は見逃せません。

LINEブロックチェーンは、中央集権的チェーンかつ、イーサリアムの規格に準拠したEVMではない(と各種メディアからの情報から見受けられる)ため、将来的にイーサリアムなどのパブリックチェーンに繋いでいき、さまざまなサービスと連携することで、NFTの真価や可能性をどう広げていくかは課題があります。

別視点で、金融資産ベースなら国内の大手取引所は数千億円近くの暗号資産ホルダーを抱えている点では顧客単価の高いファンが多いIPや資産性の高いアート系や1点もの系にはマッチする可能性が高いと思われます。

しかも、各取引所系は、利用者はウォレットを意識せずに取引所内はNFTの購入・売却はスムーズで、交換業免許を取得している点で、セキュリティ的にも安全性が高いと考えられます。ただし、一般人にとっては、KYC=本人確認など、最初のハードルが難易度が高いかもしれません。

海外に目を向けると、6月24日にローンチされたバイナンスNFTなど、グローバルで見たときには、圧倒的な暗号資産の顧客を囲い込んでいるプラットフォームは世界には無数にあります。まさに、NFT販売プラットフォームの戦国時代の様相です。

いままさにプラットフォーム同士で、IP獲得競争が激化している段階で、いまのままだと高額のMG(ミニマムギャランティ)を支払うことができる海外勢に強い日本のIPが取られていってしまう可能性があります。

ビジネスを中・長期的にみたときに、NFTを生成するチェーンの理想的な選択肢は、パブリックチェーン&非中央集権となるはずですが、ただ、GAS代問題とUI&UX問題のデメリットがメリットを上回れず、まだ時期尚早なタイミングです。現時点では、ビジネス性を考えると、プライベート&中央集権が強い状態なのです。

冒頭に書いたビジネス性の方程式をそれぞれで比較してみましょう。

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NFT単体価値が同じ10万のIPだった場合、理想形といわれるパブリックチェーン&非中央集権のイーサリアムなどで行うと、こんなイメージとなります。

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このようにGAS代とUI&UX問題によって、大きくビジネス性が損なわれてしまっているのです。ただ、GAS代やUI&UXの問題は徐々に解決していく見込みです。2021年7月のイーサリアムEIP1559によるGAS代抑制や、2022年1Qに予定されるイーサリアム2.0によるアルゴリズム自体のアップデート=PoSによるGAS代抑制などが控えています。

UI&UX問題も徐々に解消される可能性があります。
直近はプライベートチェーン、ウォレットアドレスは一般的な暗号資産取引所のようにサーバー側で運用したり、LINEのようなスーパーアプリ上のウォレットに分がありますが、中・長期的には、ウォレットのニーモニックからの発展(メアドや電話番号だけでウォレット開設など)、ブラウザ組み込み、OS組み込みなどで一気に解決される可能性もあります。

そうして、GAS代やUI&UXの突破率がそれぞれ50%ほどとなった場合、次に大事になってくるのが、「有力サービス連携数」です。

サービス連携数は、現状NFT視点では有力なサービスはDeFiもメタバースも数個しかなく、掛け算してもたいしたことではないものの、時間の経過とともに周辺サービスが積み上がっていくので、(仮にUI&UXxGAS代問題突破率が25%だとしたら)ティッピングポイントは、有力連携20サービスを超えたあたりになるでしょう。そうなると、パブリックチェーン上でのNFTのほうがビジネス上のパワーを持ちだすことになります。

重要なのは、サービスへの連携は、中央集権・プライベートチェーンだと「1」から増やしづらいので(せいぜい数個増えるくらい)、多勢に無勢でインターネットがiモードを圧倒したように、非中央集権・パブリックチェーンが中央集権・プライベートチェーンを圧倒してしまう可能性があります。

ちなみに、現状中央集権・プライベートだかといって、今後、非中央集権・パブリックチェーンと連携をとる可能性はあります。また、非中央集権・パブリックチェーン化していく可能性もありえます。

ビジネス性の比較で、

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③に書いたような、美味しいとこどりの戦略です。EVMかそうでないかで、連携・転換の実現可能性に差が出てくるので、中長期を見越すなら、事前にリサーチやヒアリングをしておくことが、とても重要となります。

さらに、非中央集権・パブリックチェーンでもっとも有力といわれるイーサリアムですら、まだ本当にこれがブラウザいう勝者・Chromeになっているかはまだ誰もわからないのです。これがブロックチェーンの面白いところですね。

プライベート&中央集権とパブリックチェーン&非中央集権を例えれば、iモードとインターネットに似ていて、ここ数年はiモードのほうがマネタイズは容易というフェーズであることは間違いないでしょう。

iモード時代に、着実に収益化してパブリックチェーン&非中央集権のガス代・UI&UX問題が解決したら乗り込んでいく戦略もとてもスマートに感じます。それは、過去の歴史的にもiモード時代にもコンテンツ領域で稼いで上場、その後インターネット領域で、さらに飛躍した企業が多数輩出されたことを思い出します。

ちなみに、パブリックチェーン&非中央集権では、チェーンごとに経済圏や生態系ができあがっているので、本当に必要なサービスならチェーン側から数億円を超えるグランツ=資金援助がなされる可能性もあります。既存のスタートアップや株式(エクイティ)の世界ではなく、トークンエコノミーやDAOの世界に飛び出すのが、飛躍的に一番スケールする可能性も秘めています。ただ、この場合、日本国内の法人であるとさまざまな規制にかかってしまう可能性は否定できません。

その選択を取れる企業はこれからスタートアップを行う会社に限られ、逆にいえば、いまからでも既存の金融の仕組みを一切使わないで(あるいは調整しながら)、最初からグローバルにトークンやチェーンからの資金調達=金融機能を使う道が開けているともいえます。

事業者視点でNFT領域の戦い方でどんな戦略があるかを考えてみます。私は6パターンほどがあると考えました。

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以上、長々ご覧いただきありがとうございます。みなさまのNFT関連のビジネスにお役立ていただけたら幸いです。


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