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一日百笑

実に個人的な話で恐縮だが、僕は歯並びが悪く、口を開けて笑うことがずっと苦手だった。長い間コンプレックスに思ってきたからそれを急に変えろと言われてもなかなか難しかった。妻に出逢い「一本前に出てる歯が可愛い」と言われ、そのコンプレックスもだいぶ気にならなくなってはきたが、やはり今だに大声で大口を開けて笑うのは得意ではない。

嫉妬という感情も含めだが、そうやって笑う人を見ると、とても魅力的に思えるし、最上級の表情は笑顔だなと心から思う。表情は内面を表すと言葉では簡単に言えるが、これを実感するのは難しい。人は内面よりも外見を重視するからだ。

「人を見た目で判断してはいけません」と言うのは「人は人を見た目で判断する」からで、外見の美しさに捕らわれていると内面の美しさにはなかなか気付くことが出来ない。

僕の経験上(この理由を書けないのは残念だが)、内面は表情に出ると確信を持って言える。例えば、自分の歯並びを僕が大好きだったとしたら、自信を持って歯を剥き出しにして笑えるし、その笑顔は歯並びをコンプレックスに思いながら笑う僕のものとは同じにはならないということだ。

今回撮影させてもらったあづみちゃんは大口を開けて、これでもかと顔の筋肉を全部使って笑う。「全身で笑う」という方が正しいかもしれない「私、美人だから」と鼻を高くしている子にはなかなか出来ない表情だ。そんな彼女の笑顔が何故素敵かと言えば、それが周りの人間に伝染するからだ。

彼女が自分の顔や笑顔に自信があるかどうかはさておき、その笑顔から「自分は自分で楽しく人生を生きるよ」という意志のようなものが感じられるから、その潔さが気持ちいいし、みんなその笑顔につられる。

写真家にとって目指すべき写真や撮りたい写真は色々とあるけれど「家族や恋人が撮影した笑顔の写真」はやはり素敵に見える。少なくとも僕はそういう写真が好きだ。そこには物語があるし、リアルがあるし、何より愛がある。

そんな写真に近づくことを意識して撮っている訳ではないけれど、自然な笑顔や素敵な笑顔が生まれたその瞬間にシャッターを押す観察力と瞬発力は必要だし、まず自分も楽しみながら笑顔で撮影することが大切だと思う。そんなことを改めて考えさせられた撮影。ボリュームのある記事になってます。是非、時間のある時にゆっくりとご覧になってみて下さい。

2019.8.8 東京神父
此花温泉「スマイルデノクラシー」


東京神父 写真家。1978年4月20日生まれ。 別府出身、自由が丘在住。