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ライゾマティクス・アーキテクチャー 齋藤精一×黒鳥社 若林恵対談 「真のグローバル・ゲートウェイとは」

「グローバル・ゲートウェイ」を標榜する品川周辺の大規模都市開発。「100年続くまち」をつくるうえで、本当の意味でのグローバル・ゲートウェイとはなんなのか? ライゾマティクス 代表取締役社長・齋藤精一、黒鳥社・若林恵と考える。
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齋藤 精一 profile
インタラクティブな広告プロジェクトや先鋭的なメディアアート作品で注目されるクリエイター集団「ライゾマティクス」の代表取締役社長。デザインやアートの力を使い、「2015 六本木アートナイト」や2020年ドバイ万博日本館のクリエイティブアドバイザーなどを務める。

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若林 恵 profile
編集者。雑誌『WIRED』日本版の編集長として活躍後、コンテンツレーベルである「blkswn publishers/黒鳥社」を設立。著書に『さよなら未来』がある。

再び分割される世界での、
日本におけるグローバルの価値体系

齋藤:
今日は、「グローバル」と「ゲートウェイ」とは何を意味し、そこにはどのような機能が実装されているべきなのか。「真のグローバル・ゲートウェイ」とはなんなのかを話したいと思っています。

まず、これまでの考え方でいうと、グローバル=西洋という価値観が強いですよね。では、いま日本における「グローバル」とは、果たして何を指すと考えてますか?

若林:
いきなり水を差すようで恐縮なんだけど、グローバリゼーションって世の中的には逆風なわけですよ。

デジタルテクノロジーが生まれて以降、良いときはグローバル・ビレッジという言い方がされてきたんだけど、結果として、デジタルの領域においては独占プラットフォームが世界に覆いかぶさるようなかたちで構築されるという状況が作り上げられてしまった。

また、グローバル金融資本が経済を動かすという80年代から始まったグローバリゼーションの在りかたが、リーマンショックによって限界がみえた。その限界を抱えたまま時代が推移しているというのがいまの状況だと思うんだよね。その経済の在りよう自体が大きな格差を生み出したところには大きな反省が迫られてるし、環境といった観点からも、これまでのグローバルエコノミーというのは、ネガティブサイドが大きすぎると見られている。

齋藤:
それがカウンターとなっての徹底したローカル重視の姿勢ですよね。それこそ、アメリカのドナルド・トランプはかなりのローカル主義です。

若林:
国際的な覇権を手放して自国に閉じこもるというトランプの姿勢を支えている民衆側の心情には、国内産業がこれだけ危ういにもかかわらず、なぜアフガニスタンやイラクに膨大な金を使うのか、といった思いが根底にはある。

中国はもとより欧米主導のグローバリゼーションに壁を作ってきたので、ある意味自分たちが作りたい領域を作り上げたわけだけど、これから再び世界は分割されていき、EU、ロシア、中国、北米、アジアといった大きな圏域に区分けされていくように見えるんですよ。そのなかでどこにパワーがシフトしていくかというと、人口が圧倒的に多いアジアに移っていくんではないか。そうした大きな動きのなかで日本の「グローバル」の価値体系を考える必要がありそうだよね。

齋藤:
ある種のブロックで世界を区切ったときに、人間の数だけでいうと力を持っているのは圧倒的にアジアですもんね。

若林:
日本はアメリカの同盟という立ち位置で国際社会のなかで振舞うことで、アメリカの腕力の庇護のもとビジネスが展開できていた。けれども、それもいつまでそういう形でやれるのかはわからないし、それで本当にいいのかということもあると思う。これまで日本は、基本的にアメリカの視点を通した世界を見ていたわけだけど、それは変えて行かざるを得ないでしょうね。そのうえで日本がアジアのなかでどうプレゼンスを保っていくかは重要なテーマになってくると思うよ。

ローカルの小さな内実を満たすことで、
グローバル・シティは作られる

齋藤:
グローバルの反対がローカルだとすると、ビジネスとしての拠点を見据えるだけでなく、ちゃんとしたローカルの拠点を作らないと本当のグローバルは作れない。外側だけに向けてではなく、内側にもベクトルが向いていないといけないと思うんです。

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齋藤:
あらゆるところでグローバル・シティが叫ばれていますが、シンガポールの街のつくりかたは、最終的に海外企業にアジアンパシフィックの拠点を作ってビジネスをしてほしいからこそ、いいレストランや保育園など、エクスパッツ(国外からの居住者)にとっていい環境を徹底的に整備するというものでした。

上海ではGoogleやFacebookが使えないなど、多くの規制によって人間がシンガポールに流れているなかで、海外企業がシンガポールを選ぶ理由はそういった外に向けた環境の面が大きかった。

しかし、そのときと現在ではグローバルの在りかたは異なっていて、グローバル・シティの作りかたも違う。

様々な国のスタートアップが、日本はビジネスがしにくいと言っているんですが、それは税制の問題にとどまらない、本当に小さいことだったりするんです。変に働き方改革をしているせいで、時差の関係で夜中にSkypeをしたくても22時で消灯してしまうのでできない。そういった小さいことではあるけど、当たり前のことができないというのは実は大きい。

若林:
例えば、優秀なAIのエンジニアはいま、自分で働く場所を選べるわけ。で、どこで働くかを決めるときの条件というのは必ずしもお金ではなくて、教育や食事など、街のWell Beingとしての要素だったりするわけで、それがよりローカライズされた単位で求められている。

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都市間競争で死活問題となっていく、
働き手の奪い合い

若林:
今後の新しい世界は、安定性が担保されない経済なり社会になるだろうといわれているんだけど。どういうことかというと、20世紀は産業資本を集約して労働者を集め、工場を作ってバンバン生産し、ものを作って買わせるという構造が安定的に雇用を生んでうまく回っていた。けれどもデジタル以降、そのやり方が完全に行き詰まっている。ただ、行き詰まっていることはわかってはいるけれど、その先、どういう仕組みで経済が持続できるのか、その大きな絵図は、結局まだ誰にも見えていないわけですよ。

それでもかろうじて確実だと言えるのは、少なくとも当面は、絶えずイノベーションが起きていく環境を作らなければいけないということなんだろうと思うんです。そうしたなかで、働き手は常に空間を移動し、クライアントもどんどん変えていく。あらゆることが流動的になり、常にある種の不安定性がある社会になっていく。

そんな状態のなかで、新しいことを考えて実行できる優秀な働き手を都市がどれだけ抱えているのかが、都市経済のドライバーとして非常に重要になっている。戦略的にその場所で働くひとたちを増やして、彼らにとってより良い環境を作り、そこから何か新しいものを生み出すような、都市自体がインキュベーションの孵化器になるという考え方で世界の都市は動いていますけど、東京は完全に出遅れている感じはあるけどね。

そうしたコンペティションは、対海外についてばかりではなく、都市内部においても起きてるんだと思うんです。いま東京ではエリアごとの個性の住み分けを考えずにそれぞれが「イノベイターを呼んで活力ある街に」みたいなことをずっと言ってますけど、これって単に食い合いをしてるだけで。結果として魅力や価値が分散して、海外とのコンペティションに勝てなくなることを危惧してますけどね。

都市の目次機能としてのゲートウェイ

齋藤:
正直、日本のまちづくりのレベルはかなり低いと言われていて、売るものは建築技術しかない。「ここにいかないとダメだ」というまちづくりが日本はヘタだと。そして、その結果の東京というメガシティがあります。

パリを真似して、ロンドンを真似して、ニューヨークを真似して、最終的に真似するものがなくなった結果、東京のここだけを切り取って真似をしようというところがない。

グローバルにおける日本の価値体系の話がありましたが、都市間のビジネスをグローバライズしたいというひとたちにとってここでないといけないという都市、つまり経由すべきプラットフォームとしての東京をどう作っていくかを考えないといけない。

そのためには、どういったトライブの人間が内外にいて、どういった行動をしているのかを把握し、その場所のトライブ、つまりローカルのひとたちにとっての目次(メニュー)としての機能がグローバル・ゲートウェイには必要で、そのメニューをいろんなところに作っていかないと勝負できない。

僕は「ゲートウェイ=目次」だと思っていて、そこに来ると、その場所の目次が見れるというのが理想だと思うんです。

JR東日本の今回の開発でいえば、羽田、成田などからのアクセスがいい品川が、BtoB、BtoCどちらにおいても、まずはここにくれば日本のいまの状況、観光や経済、産業のローカルな情報が集まっているなど、本来的なゲートウェイの意味をもつ場所になっていることが理想ではあるように思います。

若林:
イスラエルのVCが言ってたんだけど、イスラエルは自国マーケットが小さいので基本的に欧米が主のマーケットとなっている。しかし、地の利でいうと本当は中東に入っていきたい。そこでどうしてるかっていうと、イスラエルはシンガポールを経由して中東に技術を売っているんだよね。

日本はアメリカと中国に挟まれていてバランスの難しい立ち位置にあるけど、本来的には間に入れるポジションでもある。

駅一つでそういった役割を実現できるものではないけど、扉がそこにあるだけでなく、そこを通るとメリットが大きい、何かとスムーズだというのがゲートウェイの考え方だと思う。

エストニアのあるコワーキングスペースでは、最近エストニアに来たばかりの人間が集まる曜日がある。バスをデジタルでアップデートしたい、みたいなブルガリアのおじさんなどなど、いろんなひとがいる。ただミートアップするだけの場所ではあるんだけど、はじめてきた人間が、「とりあえず最初にいく場所」をわかっているのは大事なことだよ。

トイレが綺麗とか、赤ん坊と一緒でもストレスがないとか、電源とWi-Fiがとりあえず取れる、とか、「そこに行けばなんとかなる」という機能をなんでもいいから持てるといいと思うんですね。あるトライブに向けて役立ちたいというメッセージと内実となる機能がいくつもあれば、それを目掛けてひとが集まるようになると思う。

場をキュレーションする、ミドルウェアとしての役割

齋藤:
アナログ的なキュレーションにはなるんですけど、WeWorkの受付(コミュニティマネジメントチーム)のような、どの利用者同士が繋がればビジネス的な化学反応が起きるかを見ていく役割はいたほうがいいと思います。

例えば、「このあいだドローンで何かやりたいって言ってましたよね。今日来てるから紹介しますよ!」って繋げようとしてくれる。いわゆる銀座のママ的な(笑)。それってすごく大事なことだと思うんです。

若林:
そういう機能をもった空間が都市のデフォルトの装備になっていくのは間違いない趨勢だと思う。価値を生み出すには、設備(ハード)があるだけではもうダメなんですよ。ハードとソフトをつなぎ合わせるミドルウェアが必要。

都市開発でいえば、完全トップダウンも完全ボトムアップも、もはや困難なわけです。そうしたなか行政や企業、住民を、誰がどうモデレートするかというのは本当に重要になってくる。

日本はひとや場をモデレートする「コミュニティマネージャー」という存在が本当に足りていなくて、そもそもその職能を持っているひとが足りていない。

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齋藤:
グローバル・ゲートウェイにとって、ミドルウェア的な機能は建物を作るのと同じくらい重要だと思います。

僕が戦略特区のインキュベーションセンターで疑問に思うことが多かったのは、みんなオープンデスクにしてVCとスタートアップをひとまず入れるんだけど、何もケミストリーが起きないんですよ。ヒューマンオーガニックなファシリテーション、もしくは編集がまったくないんです。

グローバル・ゲートウェイとしては、ビジネスサイド(toB)、ユーザー(toC)双方に対してそういったガイドをする機能は圧倒的に大事だと思います。

若林:
日本の大手CDショップは、本部が買い付けするものを決めるセントラルバイイングになってから、フロントにいた優秀なバイヤーがみんな辞めていってしまったんですけど。

海外のいまだに残ってるレコード屋にいくとね、いかにも面構えの違う音楽通の店員がまだいるんですよ。そういうレコード屋にフラっとおばちゃんがやってきて、「こういう音楽が聴きたいのよ」ってリクエストする。すると、店員が好みを聞いてあれこれ言いながら、これを買っていきなよってサジェストしてくれる。それって商売の基本じゃないですか。そういうことがないんだったらECでいいんだもん。

都市開発リーシングのこれまでの方程式を疑う

若林:
ただ、ゲートウェイであるためには、情報やコネクションなど、相当なアセットを持っていないといけない。そうでなければその通り道を使う必要がないので。

齋藤:
そういう意味で、プロパティ、関連会社のサービスを含め、JR東日本全体がもつインフラはすごい。それこそIoTなんてものは、広く張り巡らされたレール事業とシステムが連動してオペレーションしているJR東日本が昔からやっているもので、普及のハードルが高い電子決済のアカウントとデバイスもSuicaがすでにある。

様々なグループ会社・販売チャンネルをもつJR東日本が、いまあるそれぞれのサービスを有効的に使って、家賃以外の価値が見込めるメニューを加えていくことは非常に大事だと感じています。

とはいえ、そういった効果が目に見えにくい価値を付加することは、日本の企業体では難しいのが現状です。どのような価値を与えてくれるかが不透明では投資できないからです。ですから、リーシングする際に、一気にリーシングした方が短期的な収益は安定するので、多くが大きな事業主・路面店にリーシングしていく。それは海外からもってきたファストブランドなどのデカい路面店を作るといったようなものであったり。そういった方程式で営業をかけることが多いんです。でも、それってこれ以上必要ですか?という話なんです。

単純な坪単価の話にとどまらず、25平米から100平米、1万平米と、それぞれのスケールが活きることが本当に大事。都市開発でよく陥るのが、メガリーシングばかりやっていると隙間が多く生まれて、その隙間が埋まらないということなんです。

この場所にいきなりクリエイティブ特区が作れるとは思わないですが、そこをリースすれば他の事業者との連携が取れる、リーシングの契約形態や雇用のしかたによる税制優遇がある、全国へのロジスティクスのチャンネルを活用できる、スタートアップがファンドとのサポートを受けられるなど、小さいけれどもそこに関わる事業が孵化して育ち、コミュニティを形成してスケールができるよう、ハードウェア/ミドルウェア/ソフトウェアそれぞれの条件が揃ったかたちで機能する必要がゲートウェイにはあると思います。

2040年の価値観に向けた種を蒔く

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齋藤:
未来に向けた投資は、時間をかけてようやく価値がわかるものですが、そういった種を蒔いていかないといけない。自家発電設備を準備していたビルは東日本大震災後、結果的に評価があがった。

若林:
ベルリンやエストニアがデジタル社会になった現在においておもしろいことになっているという話が多くなってきてるけど、歴史的な経緯を聞いていくと91年のソ連崩壊が一種のグラウンド・ゼロになっている。イスラエルであれば73年の第4次中東戦争などがあるんだけど、ゼロ地点からの新しいことを始める契機というのがおおよそあるというのがわかってきた。そこからある種の果実が実って新しい価値観が生まれるに至るまでには、だいたい20〜30年かかってるんですよ。

3年ほど前に社会起業家が集まるイベントに行った際に、福島で起きてる新しいビジネスや活動についてお伺いしたら、「ようやく芽が出てきた」と起業家の方々が言っていた。そう、5年でやっと芽がでる感じなんです。

だから、もしかすれば日本でも2030年から2040年ごろに新しい価値観がメインストリームになっているということが起きるかもしれない。そのとき、2011年が自分たちにとってのグラウンド・ゼロだったと30年後に気づくかもしれない。

逆にいうと、日本はそこを基準にして新しい街なり社会を考えていかないと、新しい発想っていうのは生まれてこない。

2011年に起きたことを頭の片隅に置いて、あのとき誰もがどこかで思った「何か違うんじゃないか」という思いに適うようなことをやっていくことはすごく大事だと思う。

そういった意味で日本は課題先進国で、これをどう乗り越えていくかで、海外にとっても新しいモデルになり得る。

齋藤:
少子高齢化、労働人口の減少も含めて、課題先進国だからこそ次のシティモデルの新しいケーススタディになりますよね。これらの課題に対してどう実装していくのか。海外からすると、未知の領域に飛び込む国として日本を見ていますし、みんなの日本やり方を知りたがっている。

僕は絶対にアウトバウンドがビジネスになると思っていて、それにはかならずハードウェア的なまちづくりと、ソフトウェア的なまちづくりの歯車が噛み合っている必要があります。そうすれば、これから日本のまちづくりがきっとアウトバウンドしていく。そう思うんです。

Text by Takuya Wada
Photographs by Kaori Nishida

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