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今はない下北沢の服屋のお兄さん

我が輩はモノを捨てられない男である。

どのくらい捨てられないかというと大学生の時に買った3000円くらいのジャケットすらまだ家にあるレベルだ。

また使う時がくるかもしれないから、もしくはもったいないから。後者の方が多いと思う。

そのため、ここ数年はメルカリなどで売るのが性に合っている。大した金額にならなくても、古着屋に大量に持っていっても100円にも満たないことが多いから、それが10倍くらいの値段にもなるし、便利な時代だ。

そんな中、その大学生の時に買った(たしか)3000円のジャケットを出品中で、なかなか売れなかったものの3回目の値下げでやっと巣立つことになった。

そのジャケットで蘇る記憶を誰かに話したくなった。

大学生の時に訪れた下北沢、まだ駅が地上で小田急線と京王井の頭線が確かに交差しているのがはっきりと目で見て取れたあの頃、旧闇市がまだあって本当に迷路のようだったあの時代。

下北沢に初めて訪れて目にした光景、古着屋やバンドマンの数に圧倒され、サブカル男子はトキメいた。下北沢迷路の象徴的な東洋百貨店には(恐らく正規品じゃない)激安アーティストTシャツが山のように置かれ、目から鱗でレディオヘッドらのTシャツを買った記憶がある。今もまだその店はある。

そんな迷路のように迷い込んだ下北沢で、何回か通った風変わりな服屋さんがあった。そこのお兄さんはロン毛の35歳前後の方だったと記憶するけど、伊藤政則みたいな見てくれとぬめっとした語り口調でいつもこう語りかけてきた。

「お兄さん、これ20%オフでいいですよ」

これ初めてのときはなんて素晴らしい店だとすごく嬉しい気持ちになったけど、2回目以降毎回じゃないか!と思うようになったものの、このお店の雰囲気と比較的好きな服の感じと特別感で行きつけの店となっていた。

この謎の特別感と親近感と通う店ができた感が堪らなくて、下北沢っておもしろいところだなぁとか思ったのがここから10年ばかり住み続けるきっかけの一つになっていると思われる。

その店には何回か通っていたけどある時なくなっていて、それ以来店の場所すら記憶がなくなってしまった。

そこで買った服の一着はレギュラーから徐々に外れてってクローゼットの重鎮と化していった。

そして昨日、その重鎮はIT化で利便性がぐっと上がったアプリのフリマで私の手元から離れていった。

久しぶりに手に取ってそのベロアジャケットを眺めてみると、そんな記憶が蘇り、あのぬらりとしたお兄さんは今どこで何をしているのだろうかと強く思った。うっすらした記憶だと、お世話になっている昭和バー「つむじ風」の場所だった気がするんだよなぁ。場所忘れちゃうんだ、と思いつつ、また恐らく同じ場所の常連になっているのは下北沢の呪縛かおもしろい。

そして今や自分もあのお兄さんと同い年くらいなんだなぁと思うとまたセンチメンタルな気持ちになった。服を手放しても思い出は残る。そんで下北沢そんな風変わりな人他にもたくさんいた。アイラブ下北沢。

「お兄さん、20%引きでいいですよ」にピンと来たらコメント待ってます。

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