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ホバークラフト作ってみたよ!【第14話:最終回】

このお話は、物語でなく実話です

モノづくりが好きな人は楽しめると思います。何を作ったかというと、パーソナルホバークラフト…しかもキャビン付き…???そんなの見たことないんだけど…それもそのはず、このパーソナルホバークラフトは、80年代のお話しなんです。今回はその14回目(最終回)です^^


INDEX

  1. 自動車屋が創ったホバークラフト

  2. “ほな、やりまひょか”

  3. “なかなかイイじゃないか” 

  4. 強制操舵 ・ 非常ブレーキ、‟何やそれ ?”

  5. 自動車エンジニアが設計したら、エアクッションヴィークルはこうなる

  6. スタイリングだけじゃなく、センスが良いカラリングで行こう

  7. 1年がかりの 「設計承認」

  8. 放映日ギリギリのきわどい撮影

  9. 久米島 ・ イーフビーチが呼んでいる

  10. 撮影日がシェイクダウン航行 “トホホ‥‥(汗)”

  11. マーケティングもイノベイティブに

  12. ものすごいパブリシティに、業界も騒然

  13. 初めて見るエアクッションヴィークルに大興奮

  14. “カタログもハイセンスね”

  15. 世界に144個しかないジッポー SENSOR ACV 300 S ライター

  16. 販売会社設定に全国へ旅ガラス

  17. 海を汚さないエンジンオイル

  18. これぞ逆転の発想 ・ エンジン倒立搭載

  19. ‟ブルネイ王室ご用達~ !”

  20. トランポだってお洒落に

  21. レースに初出場、ノーマル艇でトップ

  22. “フロリダで生産して、アメリカとカナダで売らせてくれ”

  23. アメリカへ旅立った SENSOR ACV 300

  24. フロリダ州の新天地で

販売してしばらくすると、ある問題がおきた…それが今回の話のきっかけ

23.アメリカへ旅立った SENSOR ACV 300

 SENSOR ACV 300 をアメリカへお嫁入させた心情は、‟世界で活躍して、多くのユーザーを喜ばせておくれ” というものだったが、その背景には、自分の努力だけではどうにもならない深刻な事情があった。だから、Solution (ソリューション:解決策) として ‟それでいいのだ” と思ったのだ。

 事業企画 ・ 製品企画も周到に整えた、事業資金も素晴らしい4社のスポンサーにご支援いただいた、自動車開発分野の有能なスタッフが最高の仕事をしてくれた、性能 ・ 品質 ・ スタイリングを兼ね備えて従来の製品を大きく凌駕 (りょうが:他をしのいでその上に出る) する新製品が誕生した、運輸省 (当時) の設計承認も取得した、多くの報道機関が大々的にパブリシティしてくれた、全国をネットワークする正規ディーラー網も整備した、大企業が生産を引き受けてくれた、レースに初出場しノーマル艇で3位に入賞した‥‥ほかにどんな問題があるのだ ?

 熱心な正規ディーラーが本格稼働し、相当数のユーザーに購入いただいたあと、 ‟問題が発生した”  という良からぬ連絡が、正規ディーラーから次々と飛び込んで来た。製品に瑕疵 (かし:欠点 ・ 不具合)があるのかと色めき立って、コメカミがピクピクと痙攣(けいれん:収縮して震える) した。

 何人かのユーザーにインタビューすると、SENSOR ACV 300 に問題は無いけど、‟走れる場所が無い” のが問題だと解かった。トレーラーに積んで河川敷や海岸線に走りに行くと、追い出されるんだと。
 日本中の水際という水際は、建設省 (当時) か漁協の管理下にあり、この愛すべきエイリアンの走行を許さなかった。運輸省 (当時) の設計承認を取ってるから違法じゃないけど、異質なんだね。

 日本選手権レースの会場のように、役所の許可を得て限定した地域でしか走れない。これじゃ、何も設計承認を取得する必要も無かったし、水陸両用エイリアンの操縦を誰もが楽しむことは不可能だ。 
 HOVERCRAFT CONSEPTS がフロリダで生産して、アメリカとカナダで販売することは、SENSOR ACV 300 を新しいステージで活かすことになるので、有力ディーラーにも相談したら ‟そういう状況なら仕方ないよ” と了承してくれたので、断腸の思いで決断したのだった。

HOVERCRAFT CINCEPTSの資料より

 ジェットスキーだって日本人の発明なのに、量産製品になったのはアメリカが最初だったからね。そのあとから日本製が次々と開発されて世界へ出て行った前例もある。
 この国には、新しいものを受け入れない伝統的な風土があるのかな ? そこには、保守排他の言い難い異国との見えざる国境が横たわっていた。

 ここまで事業開発 ・ 製品開発するのに5年の歳月が流れ、多くのスタッフの叡智 ・ 心意気 ・ 努力が注がれていた。運輸省 (当時) との設計承認のバトルに続いて、新たに建設省 (当時) や漁協とバトルするエネルギーはもう残っていなかったし、新しいエネルギーの充電も間に合わなかった。

 物事には潮時があるから、SENSOR ACV 300 が新天地で幸せに活躍してくれることを祈って、潔く断念し、これをもってメーカーとしての自社事業も終了した。

 でもね、工業製品開発業を企業として受託するのを終了しただけで、その後は私個人が、工業製品開発受託プロデューサーとして ‟まだやってんの~ ?” ということになる。次々と面白い新製品を開発したからね (← 懲りないヤツだ by 野次馬)。

24.フロリダ州の新天地で

 HOVERCRAFT CINCEPTS は、アメリカのユーザーに合わせて SENSOR ACV 300 に改良を加え、‟AERO CRUISER 1100” という製品名でアメリカとカナダの市場に参入した。
 SENSOR ACV 300 の面影を残しつつ、特徴的なサイドのスティングレイフィンが ‟エイッ” (笑) とばかりカットされたのは惜しいけど、オーソドックスな方向付けながら、シンプルでプレーンでバランスが取れた良いデザインだ。

HOVERCRAFT CINCEPTS AERO CRUISER 1100

 推進ファンの口径とシュラウド (覆い) は大型化し、ユーザーの体重を考慮して出力アップを図っている。走行地のバリエーションに対応するためか、接地 (接水) するスカートは新設計で独自形状のものが装備されている。世界トップメーカーでやって来た経験を活かしているのだろう。

 HOVERCRAFT CINCEPTS のカタログは、表紙に久米島で撮影した SENSOR ACV 300 S の、見開きページには SENSOR ACV 300 U の写真を使用している。発売に合わせて宣伝資材も急遽制作したのは見え見えだが、AERO CRUISER も商標登録しているから本気度を窺わせる。

 HOVERCRAFT CONCEPTS が制作したプロモーションビデオには、フロリダとカナダで新規撮影したと思われるビデオに、久米島で撮影した SENSOR ACV 300 U のシーンが編集されている。

久米島で撮影した SENSOR ACV 300 U
久米島で撮影した SENSOR ACV 300 Uの走行シーン

 SENSOR ACV 300 のビデオは海上と浜の走行で収録したが、HOVERCRAFT CONCEPTS のビデオは、海 ⇔ 陸 ⇔ 海の出入りやトレーラーの積み下ろしなど実用的な要素を盛込んでいる。映像的に珍しいのは雪上シーンで、90°ドリフト ・ 360°連続ターン ・ 凍結水面への出入りなどを見せている。ホバークラフトはこんな走り方が出来るんだけど、圧雪 ・ 氷上 ・ 芝生などでは凄くスピードが出るし、コントロールが難しいし、停止距離が大幅に伸びる。真似しないでね (笑)。

ところ変われば走行シーンも変わる
海も、陸も、雪原も、北米では幅広い利用ができる

 SENSOR ACV 300 いや AERO CRUISER 1100 は、アメリカとカナダで多くのユーザーに喜んでいただいているというレポートを貰ったが、レースにも出場しているしユーザークラブも出来ているという。
 SENSOR ACV 300 Project のプロセスではさまざまことがあったけど、新天地で我が子が活躍する姿を見てある種の安堵を覚えたものだ。

 製品企画から市場投入まで一貫した“実話:SENSOR ACV 300 Project Story” はこれでお終いだけど、お読みいただいた方々に、心から ‟ありがとう” と感謝申し上げます。

“Aerocruiser 1100 Hovercraft” 
様々な場所での走行シーンを見ることが出来ます。

最後に

いかがだったでしょうか。
80-90年代にかけて、このようなパーソナルホバークラフトを作っていた事実があることを私はこの機会で初めて知ったのですが、現在ならば、ドローンや自動運転車、パーソナルシェアモビリティなどの事業などと近いのかもしれません、いつの時代にもチャレンジはあって、ピボットのしかたや出口戦略の変更はあるかもしれませんが今の時代の参考になればと思いシリーズ記事化しました。この記事おもしろかったら”すき”を頂けますと幸いです、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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