ネガティブ・ケイパビリティ


帚木蓬生さんの
『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』 (朝日選書)を読みました。


タイトルにもなっている「ネガティブ・ケイパビリティ」とは「容易に答えの出ない事態に耐えうる能力」のことです。

言い換えると、
「性急に答えを求めず、宙吊りの状態に耐える能力」
「不確かさの中で事態や情況を持ちこたえ、不思議さや疑いの中にいる能力」
「拙速な理解ではなく、謎を謎として興味を抱いたまま、宙ぶらりんの、どうしようもない状態を耐えぬく力」
「事実や理由をせっかちに求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力」

今の社会に生きていると、
「いかに分かりやすく答えを出すか」
「早く問題を解決するか」
が求められている気がします。

さまざまなことが、分かりやすく、単純に、そしてスピーディにすることが求められ、そしてそれに応えて、増幅していく。
今はそんな社会になっている気がします。

その逆のこと、つまり難解な問題、複雑な課題、そして答えを出すことを焦らずに熟慮する姿勢は、煙たがられることすらあるかもしれません。

教育の世界でも同様の状況を感じます。
この本の中でも、教育について取り上げられていました。
いかに効率的に学ばせるか。
いかに答えに早く辿り着くか。
受験、就職に向けていかにムダを減らしていけるか。
難解な問題に対して、生徒から「結局答えは何ですか?何が言いたいんですか?」
難解な問題に対して、教員から「早く管理職が道筋を示してください」

大人も子どもも「容易に答えの出ない事態に耐えうる能力」を大事にしなくなってきているのでしょう。

それだけムダを省きたくなるほど、余裕がなくなっているのかもしれません。
湯浅誠さんが『ヒーローを待っても世界は変わらない』で書いていた「溜め」がなくなってきていることとつながりがあるような気がします。

自分も含めて、答えを出せない状況に、焦らず落ち着いて耐えていくことを、自信を持って行っていけば良いのだと思います。

優柔不断な自分の言い訳にもなりますが…

この困難な、先行きの見えない時代だからこそ、ネガティブケイパビリティは必要な力だと思います。
本にもあったように、芸術もこの中から生まれるものです。
最近はTikTokに使いやすい曲が人気があるという話も聞きますし。
手軽なもの、分かりやすいものばかりでなく、よく分からないもの、理解し難いものをそのまま受け止めていくことが、深みを生むのだと思います。

もちろんすぐに結論を出さなければならないこともあります。しかし、すべての件がそうではない。
問題と共に生きる。苦しさもありますが、そういう力も備えていく必要があるのだと考えさせられ、勇気を持たせてくれる本でした。

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