突然ショートショート「スライダーの偉大な滑り方」
ある日、私は写生の為に公園を訪れていた。そこそこ大きな緑地公園で、この日も子供連れで賑わっていていた。
写生の題材に選んだのは、大きな赤いスライダーだった。目立っていて、描きたくなったからだ。
スケッチブックを広げ、鉛筆を走らせていると、そこに一人の老人がやってきた。
「お主、このスライダーが気になるのか」
「え、ええ」戸惑いつつも言葉を返した私に、その老人は言ってきた。
「実はだな、このスライダーにはな、そう『偉大な滑り方』があるのだ。今からお主にそれを伝授しよう」
「は?伝授?…いやいや、今写生をしている最中で」
「下半身全体をスライダーにつけ、体を20度程後ろに反らし、手を前に伸ばす。さあ、やってみろ!」
「あの、写生は」
「荷物はわしが見ておく。安心して行ってこい!」
私は嫌々スライダーに向かい、老人から伝授された『偉大な滑り方』を試した。
子供たちに混じってスライダーを滑った私は、ある意味偉大かも知れない。恥ずかしさに挑んだ点で。
(了)(415文字)
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