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私、悪魔になっちゃいました「#08/悪魔の昼食」

 昼休みに入ったことを知らせるチャイムが鳴った。決戦の時がやってきた。

 「お昼だけど、春咲はるさはどうするの?」
 「あ…外で食べようかな…って」
 「そう。ラーメン?」
 「まだわからないよ」

 私はビルを出て、飲食店の集まっている辺りへ向かった。
 普段ならコンビニに向かって、サラダと弁当を買って済ませる。
 しかし今日は違った。全くコンビニに足が向かないのだ。それどころか、滅多に行かない飲食店街へ一直線。
 しかも、「これは大変なことになるかもしれない」と頭の中がいっぱいになるよりも早く、ラーメン屋を見つけてしまっていた。

 行列はできていなかったので、するっと中に入ることができた。
 入ったからにはもう止められないけど、何を頼むかではまだ私の介入する余地がある。
 ラーメン以外を頼めばいいのだ。そんなことを思い付いて店の中に入ると、私の心はまたも揺れ動いてしまった。
 「背脂豚骨ラーメンの、並」ラーメンを頼んでしまった。
 「はいよ!」店員が威勢よく応える。もう終わった。

 そして私の目の前に、豚骨の香りを放つラーメンが運ばれてきた。
 ラーメンが視界に入ったとき、私の辞書から『我慢』という2文字は消えていた。
 こってりしたスープを、それを纏った麺を、ためらいもなくズルズルと流し込んでいたのだから。

 みるみるうちにラーメンを平らげた私は、不気味な満足感を味わいながら店を後にした。

(続く)(574文字)


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