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突然ショートショート「応援のパワー」

 誰かを応援したいという気持ちがあった私は、部活に入ってチアリーダーになった。

 そしていつしか、私の応援で誰かがその人なりの目標に向かって動き出していくのが楽しくなってきた。

 私はその後も、どんな日でも誰かを応援することを続けた。部活とは別に、個人でのボランティアとして。
 街の名物みたいな存在になって、それが何とも誇らしかった。

 大学生になっても、個人でのチアリーダーは続けた。
 むしろそっちの方が楽しくなり、大学にあったチアリーディング部には入らなかった。

 そんなある日、いつものように駅前で応援していた目の前で、銀行強盗が入るのが見えた。

 銀行の建物についていた赤いランプが光り、「強盗だ」という叫び声が聞こえてきた。
 私は応援をやめて、銀行の方に視線を移した。

 道行く人は皆、銀行から離れて見守るだけ。それが私には残念に思えてきた。
 強盗と普通の人が対峙することが容易でないことを、その時の私は完全に忘れていた。

 このまま強盗にやられてしまうのを眺めているのが辛かった。
 そんなことを思った私は、あの銀行を救おうと思った。
 このまま仮に応援しても、誰も銀行を救いに行こうとは思わないだろう。誰もやらないなら、私がやらなければならないのではないかと考えたのだ。

 恐怖で足が止まっていた私自身を大きな声で勇気づける。

「フレ!フレ!私!アイ・キャン・ドゥー・イット!」

 少し恥ずかしかったけど、何度も繰り返していると、恥ずかしさよりも勇気の方が大きくなってきた。
 そして、銀行へ一直線に走っていく。止める人は誰もいなかった。

 ゆっくり開く自動ドアをすり抜けてロビーの中に入ると、そこには大勢の客と行員、そして目出し帽を被った強盗がいた。

 全員、何が起こったのかわかっていないようだった。
 そして、私は強盗の方をじっと見つめて応援を始めた。

「諦めるな~っ!金が欲しいなら働け~!」
「フレ!フレ!お前!フレ!フレ!お前!!…」

 半ばヤケクソだった。それでもこんなことをしたのは、私が応援すれば何か変わるかも知れないと思ったからだ。

 まもなくして警察がやってきて、犯人は捕まった。
 そのニュースが流れたある日、私は犯人の供述を知って驚いた。

 「乱入してきたチアガールに、金が欲しいなら働けと言われてハッとした。反省している」。

 今、私は思う。
 応援にはパワーがある。誰かを動かし、誰かを救うパワーが、と。

(完)(974文字)


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