私、悪魔になっちゃいました「#06/出勤」
「ラーメンを食べると、悪魔に会える」……というか、私自身が悪魔に変身してしまう。そんなことにやっと気づくことができた訳だが、それ以外は至って平凡な訳であり、今日もいつも通りの日常を過ごす。まるでレールの上しか走れない電車のように。
朝起きて、洗顔の後に長い髪をゴムで後ろにまとめる。そして薄く化粧をし、眼鏡をかける。以前買った銀色、丸縁のブルーライトカットを。これで準備はできた。駅に向かって電車に乗る。
通勤先は家から離れた大都市の胡蝶原。ここの雑居ビルに入る広告会社で働いている。
仕事は各所から寄せられる宣伝案件への対応。元々プレゼン力や物事の良いところを引き出す力には自信があり、会社でもそれを活かして順調に仕事をこなしていった。
そして今はそれに加え、潜在意識の悪魔を引き出す力も得たようで、驚きが止まらない。
他人がラーメンを食べて悪魔になったという話は聞かないから、これも私の能力の一つなのだろう。
電車の中は混んでいた。途中ですれ違う電車はガラガラで、一度でいいからあの電車で通勤してみたいと何度思ったことか。
「胡蝶原行きの急行です。次は茨津……」
茨津は個人的に嫌いな駅だ。数年前に巨大なマンションがたくさん建ってから、車内の混み具合がこの駅を境に切り替わるようになったのだ。行きは「酷いからより酷い」。帰りは「より酷いから酷い」に。
今日もまた、「酷いからより酷い」になるんだろうな。そんな事を思って吊り革を掴んでいた。
最寄りの胡蝶原駅を降りると、人波に入り、ホームの階段を下って改札に向かう。
会社に着き、着替えてから自席に向かう。
「森川さん、おはよう」声の主は部長だ。
「おはようございます」いつも通りに挨拶を返す。ところが、この日は周りの雰囲気がいつもと明らかに違っていた。
明らかに私を避けてかかっているように見えるのだ。私はそれが気になって、同僚の御子に訊いてみた。
「何でみんな、こんなにいつもと違うんだろう」
彼女の返事は素早かった。
「悪魔になったからでしょ?あんな急に変わったらみんな怖いって」
「う、うん……」
私が心のどこかで思っていた通りだった。
手のひらを返されたみたいで、腹が立つ。気づいたらまた、口がラーメンの口になっていた。
(続く)(949文字)
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