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ロッテアライリゾート雑感


11月の立山で初滑りは済ませたものの、新しい板のテストや滑り筋の復活、そして何より新雪を楽しむため、ロッテアライリゾートへ。登山を始めてから子供がスキーを始めるまでの間、山でしか滑らず、ゲレンデに行く機会はほとんど無かったが、息子と遊ぶために「アースホッパー」を買うようになって以来、息子がいない時でもたまにゲレンデへ行くようになった。何より今は山に十分な雪が無く、滑りに行くというより藪漕ぎに行くような感じになってしまうだろうから、楽しむことが目的ならこっちが正解と思われた。白馬やシャルマン、奥只見、あと山スキーで巻機山も選択肢に入っていたが、直前の降雪等によって行き先を決めた結果、二日連続のアライになってしまった。

自由と規制

最初に断っておくが、私は自由を愛する民である。憲法で規定されているような「自由」も普段の生活ではとても大切だが、週末に求めるのはもっと原始的な世界で感じられるような、文字通りの自由だ。山にいて、社会のことを忘れ、あたかも何ものにも捉われていないと感じられるような、かりそめの自由だ。反社会というよりは脱社会とか非社会とかいった言葉に近い。そういうものを求めて、自分はこれまでスキー場ではなく、山に向かってきたのだろうと思う。

そう考えると、管理者によって管理されているスキー場は、自由とは程遠い。個々のスキー場には、それぞれのルールがあり、料金を払ってそこを利用させてもらう以上、そこで定められたルールに従うのは当然ともいえる。とはいえ、内心では「合理性のないルールには従いたくない」とも思っている。例えば、あるスキー場が滑走禁止区域を設けるにしても、その理由が明確で説得力がなければ、「滑っちゃおうかな」なんて誘惑に負けそうになる(こともある)。

また、ルールを守るかどうかは、順法意識以外に損得勘定によっても大きく左右される。法律にしてもルールにしても、「○○をしてはいけない」というものはあまりない。なぜなら、そんなものはどうせ破られるからだ。また、罰則とセットになる場合が多い。ルールを守れるかどうかは、その人のモラルにも依存するが、損得勘定にもよるからだ。利益と罰を比べた時に、破って得られる利益のほうが大きければ、ルールは破られることがある。

だから、「滑走禁止エリアを滑った場合、リフト券を没収します」というルールがあったとして、午前中のうちそのルールは守られていたが、午後には破られてしまった、ということは起こりうる。利用者にとって、リフト券の価値は、まだほとんど滑っていない午前中よりも、おおかた滑り終わってどのみち価値が失われる午後の方が低くなるからだ。また、そのスキー場を再訪するかどうか、周りに知り合いがいるか、ルールが厳密に適用されているかどうかなども、行動に影響を与えると思う。

開いてるコースが一目でわかる掲示板

アライのルール

さて、そこでアライのルールを見てみよう。とても短いので、以下に全文を引用する。

アライルール

1. ロープを越えないこと。
2. 立入禁止、閉鎖中のエリアには絶対に入らないこと。
3. 各ゲートから進入してください。
4. 規制物、表示看板、パトロールの指示に従うこと。
5. 地形、雪質、気象条件に注意して滑ること。

上記のルールを破った方については危険行為とみなしリフト券を没収いたします。

スキー場境界外について

1. スキー場境界外での事故について一切の責任を負いません。
2事故や遭難の場合は、警察(110番)に通報すること。

緊急連絡先
警察:110
消防:119
パトロール:0255 - 75 - 1165

アライルール」より

今読んでみて、とてもシンプルでわかりやすく、明快で素晴らしいと思った。アースホッパーを利用するようになって以来、これまで行ったことがなかったスキー場を訪れる機会が増え、その際にはなるべくスキー場のルールを事前に確認するようにしているのだが、わかりにくいものが多い。時として、あえて曖昧にしているのでは?と思われるまで散見される。

正直、今回はフィーリングと現地でのヒアリングを基本としたので、事前にルールを読むことはしなかったのだが、現場で直感的に看板の意図や意味を推測することができた。後からルールを読んでもスッと入ってくることからも、このルールが確実に運用されていたことがうかがえる。外国人の利用が多いことも考えれば、これくらいシンプルでわかりやすいルールとその運用が、他の多くのスキー場でも必要だと感じた。

また、クローズになっているコースにしても、山頂付近にいるパトロールに聞けば状況を教えてくれるし、できるだけオープンしようという意思をもってコース管理をしてくれている、と感じられるので、ユーザーとしても好感が持てる。例えば、初日の「マムシガエシ」というコースは、途中かなりブッシュが出ているのにオープンされていたし、時間の経過とともに滑走可能コースが増えることからも、そういった意図は読み取れた。

「マムシガエシ」では、ハマったり、板をロストした人もいたようなので、賛否両論あるかもしれないが、入口に警告看板がある以上、スキー場であってもほとんどがユーザー本人の責任だと考える(判例がどうなっているかは調べていない)。それに、パトロールに連絡すれば駆けつけてくれることからも、「ある程度の安全が担保された状況の中で、滑りでチャレンジしたい」という人にとっては理想的なスキー場だと思う。

逆に言えば、確実に誰かに管理されている感じはあるが、そういうものと割り切って、アライルールに則った遊びと考えれば楽しめるだろう。そもそもゲレンデに山と同様の自由を求めてはいけない。私のように社会からの逃避とか、自由とかは求めておらず、純粋に「自然の雪と地形を滑る行為が好き」という人にとっては、素晴らしいスキー場だし、シーズン券を買ってここに通う人の気持ちもわかる気がした。均一化されたつまらないスキー場や、もはや遊ぶことに関心のない人たちが管理するようなスキー場にはない魅力が、ここにはあると思う。

板ロストの民を助けに行くというパトロール隊員

遊び方はローカルに聞く

そんなアライで確実かつ効率的に、フレッシュな雪面をいただくためには、そのスキー場のローカルに蓄積されたノウハウを学び、取り入れる以上の方法はないだろう。今回は、たまたまゴンドラやリフトでそういった方と巡り合うことができ、アライ攻略法の一部を知ることができたので、ありがたかった。なお、今回のアライでは、アースホッパーの各スキー場利用上限である2回を使い切ったため、ハイシーズンも含め今シーズンはもう来ない可能性が高い…。

2日間しか滑らなかったが、アライには、他のスキー場で感じる以上に「根強いファンがいる」という気がした。たまたまリフトで一緒になる機会が多かった真っ黒なスワロウテイルの板の方は、パウダー期しか滑らないそうだが、ファーストクラス対応のシーズン券を買い、名古屋から白馬よりやや遠いこのスキー場に通っているとのことだった。

道を切り拓いたスワロウテイルの民

山と階級

自分が山に求めているものの中には、階級社会からの一時的な離脱というものも含まれる気がする。ひとりのジャケットはワークマンで、もうひとりのそれはアークテリクスだったりもするので、その人の経済状況が全く影響しないと言ってしまえばウソになる。しかし、山ではそれ以上に現場での判断や技術・体力などのウェイトが大きく、経済的な差の表出はほとんど無視できるほどになる(たぶん)。それは、山に持ち込める物の量が、車などで運搬する場合と比べて、圧倒的に少ないからだろう。また、山奥に行けば行くほどその特性は強まり、特にそれが冬であれば誰とも会わなくなり、そもそも他人との比較や序列から逃れられることもある。

そういう逃避を好む自分にとって、ファーストやエコノミークラスという航空会社的な階級システムを採用するアライには、正直まあまあな拒否感があった。普段社会に身を置き、日々それを感じている身として、週末くらいはそういうものから離れたいと思うのだ。とはいえ、そのような拒否感もパウダーの魅力には勝てなかった。初日は降雪量やコースの開放状況からエコノミークラスを選んだが、大量降雪直後の二日目には、迷いなく二千円を課金してファーストクラスに乗っていた。

板置き文化は健在であった

その結果、エコノミーの民が来るまでに2回ほどノートラックで上部を回すことができた。二千円の価値があったかは正直微妙なところだったが、早朝に着いて他にすることもなかったので、ある意味当然の選択だったとも思う。おかげでコアな方々と話す機会にも恵まれたので、結果的には良かった。

「エキサイター」と「マムシガエシ」のオープンは少し遅れたため、ここは階級を超えた争いとなった。「なぜ私のような上流階級の者が、下々の者たちと争わないといけないのか」と思わなくもなかったが、ここは快く他の挑戦を受け、ファースト争いに勝ってノートラックの「エキサイター」を純粋に楽しんだ。

話は少し変わるが、そこには中国語話者の数名も競争に加わっていた。中国語圏の方々といえば、ゲレンデ下部の初心者コースでスクールに通っているというイメージであったが、どうもパウダーの魅力に気づきつつある上級者も生まれてきているようだ。まだシーズン初めということもあってか、スキー場の外国人は、オージーと中国語話者がほとんどだったように推察されたが、1月に入ってここに欧米の民が加われば、アライジャパウは階級闘争も相まってきな臭くなりそうである。

そうしたら、私はやはり山に行くだろう。自分にとっては、効率や競争や享楽よりも大事なものが、そこにあるはずなのだ。

ファーストクラスだと、この列に並ばなくてもいいという特典もある

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