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物語のおわり

新年度になってから3週間が過ぎましたね。毎年そうですが、年度初めはいろいろなことがバタバタするので、心も体も疲れます。

そんな中でも毎日通勤電車の中や、早く仕事が上がれた時はカフェに寄って読書をしているのですが、頭が疲れているときは実用書や教育書から少し離れたくなります。

そこで、今年初めて小説を読みたくなり、ずっと積読になっていたこちらの本を手に取りました。

湊かなえは好きな作家の一人です。何といっても2009年に本屋大賞を受賞した「告白」を読んだ時の衝撃は忘れられません。もともとミステリー小説は好きで、学校を舞台にしたものもたくさん読んできましたが、「告白」を読み終わった後は、ガツンと頭を殴られたような感覚が残ったのを覚えています。(映画も中島監督の演出と松たか子の演技がすごかったです)

「告白」を読んで以来、湊さんの小説はほとんど読みました。以下太字が読んだことがある作品です。(記憶があいまいなものをいくつかあります・・・)

告白(2008年8月 双葉社 / 2010年4月 双葉文庫)
少女(2009年1月 早川書房 / 2012年2月 双葉文庫)
贖罪(2009年6月 東京創元社 / 2012年6月 双葉文庫)
Nのために(2010年1月 東京創元社 / 2014年8月 双葉文庫)
夜行観覧車(2010年6月 双葉社 / 2013年1月 双葉文庫)
往復書簡(2010年9月 幻冬舎 / 2012年8月 幻冬舎文庫)
花の鎖(2011年3月 文藝春秋 / 2013年9月 文春文庫)
境遇(2011年10月 双葉社 / 2015年10月 双葉文庫)
サファイア(2012年4月 角川春樹事務所 / 2015年5月 ハルキ文庫)
白ゆき姫殺人事件(2012年7月 集英社 / 2014年2月 集英社文庫)
母性(2012年10月 新潮社 / 2015年6月 新潮文庫)
望郷(2013年1月 文藝春秋 / 2016年1月 文春文庫)
高校入試(2013年6月 角川書店 / 2016年3月 角川文庫)
豆の上で眠る(2014年3月 新潮社 / 2017年6月 新潮文庫)
山女日記(2014年7月 幻冬舎 / 2016年8月 幻冬舎文庫)
物語のおわり(2014年10月 朝日新聞出版 / 2018年1月 朝日文庫)
絶唱(2015年1月 新潮社 / 2019年6月 新潮文庫)

リバース(2015年5月 講談社 / 2017年3月 講談社文庫)
ユートピア(2015年11月 集英社 / 2018年6月 集英社文庫)
ポイズンドーター・ホーリーマザー(2016年5月 光文社 / 2018年8月 光文社文庫)
未来(2018年5月 双葉社)
ブロードキャスト(2018年8月 KADOKAWA / 2021年1月 角川文庫)
落日 (2019年9月 角川春樹事務所)
カケラ(2020年5月 集英社)
ドキュメント(2021年3月 KADOKAWA)

2015年に発売された「ユートピア」と2018年以降に発売された5冊は読んでいないことがわかりましたが、後はすべて読んでいたようです。

彼女の作品の中ではやはり2009年から2010年ごろに刊行された作品たちが好きですね。中でも「往復書簡」「夜行観覧車」は今でも印象に残っています。(逆に近年は少し勢いがなくなっている気もします。売れっ子作家は次々に作品を出していかなければいけないので、大変ですよね)

私が彼女の作品を好きな理由は、極上のミステリー小説でありながら、様々な登場人物の人生の悲喜こもごもがうまく混ざり合いながら物語が進んでいくところです。また、彼女が元教師であり、学校や子供たちの描写が非常によく描けている点も好きです。さらに、彼女が地方出身者であり、物語に出てくる地方の描写が東京で生まれ育った自分には新鮮だというのも彼女の作品を好きな理由の一つかもしれません。

この「物語のおわり」は北海道を舞台に様々な男女がある一つの短編小説でつながり、一つのストーリーになるという筋書きになっています。以下あらすじ(AMAZONより引用)になります。

妊娠三ヶ月で癌が発覚した女性、
父親の死を機にプロカメラマンになる夢をあきらめようとする男性……
様々な人生の岐路に立たされた人々が北海道へひとり旅をするなかで
受けとるのはひとつの紙の束。
それは、「空の彼方」という結末の書かれていない物語だった。
山間の田舎町にあるパン屋の娘、絵美は、
学生時代から小説を書くのが好きで周りからも実力を認められていた。
ある時、客としてきていた青年と付き合い婚約することになるのだが、
憧れていた作家の元で修業をしないかと誘いを受ける。
婚約を破棄して東京へ行くか、それとも作家の夢をあきらめるのか……
ここで途切れている「空の彼方」という物語を受け取った人々は、
その結末に思いを巡らせ、自分の人生の決断へと一歩を踏み出す。
湊かなえが描く、人生の救い。

結末の書かれていない「空の彼方」という小説の原稿が、偶然出会った北海道を旅する人々の間で読みまわされていきます。

妊婦からプロのカメラマンになる夢を諦めた男性。夢を諦めた男から、恋人と別れたばかりで一人で自転車旅に来た女子大生へ。女子大生から、娘の夢を素直に応援してやれないある父親へ。父親から、夢を追う恋人と別れて一人で仕事に自己投資に生きていた女性へ。

一人ひとりにはそれぞれの人生があり、皆大なり小なり悩みを抱えながら日々を生きている中で、北海道という地にたどり着いた中で、この「空の彼方」を手にし、そして考えます。自分なら物語をどう終わらせるのかを。

ここがこの小説の醍醐味だと思います。「空の彼方」には最後に大きな余白が残されています。その余白をどう埋めるかは、自分次第。ある意味自分の人生の集大成がそこに記されるのだと思います。

そして最終章では、本当の「物語のおわり」が読者に提示されます。その「おわり」は北海道の雄大な自然の中で吹くさわやかなそよ風のようで、穏やかな読後感が残りました。

北海道は好きで、過去にはバイクや車で一周したこともありますが、この小説を読んでまた行きたくなりました。

やっぱり小説もいいですね。もっとたくさん小説も読んでいこうと思いました。


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