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多様性の科学 ~画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織~②

前回の続きになります。

前回は「なぜCIAが9.11を防げなかったのか」という話を書きましたが、本書にはその他にも、多様性の欠如ゆえに起こった事件や事象、多様性を取り入れたことで成功した事例などを数多く紹介しています。

その一つの面白い例が、サッカーイングランド代表の話です。

私は幼少のころからサッカーをしており、生粋のサッカーファンです。しかもイングランドに住んだこともあるので、それなりにイングランド代表には思い入れもあるのですが、そのイングランド代表が2016年に下記のような取り組みをしていたことは知りませんでした。

前回書きましたが、著者のマシューさんは元イギリス代表の卓球選手で、今は作家兼ジャーナリストをしている方です。そのマシューさんにイングランドサッカー協会の技術諮問委員会への参加が要請されました。

元卓球の国内トップ選手とはいえ、今は作家・ジャーナリストであるマシューさんをサッカーの、しかも国の代表の技術委員会に入れるとは、いったいどういうことでしょうか。

しかも、ふたを開けてみれば、マシューさんだけではなく、他にもサッカーの門外漢ばかりが招集されていました。インド系イギリス人のIT起業家、オリンピックの競技団体に資金援助などを行う政府機関の元会長、教育専門家、元ラグビーイングランド代表のヘッドコーチ、プロ自転車ロードレースチームのゼネラルマネージャーなどに、さらには王立陸軍士官学校の女性士官などです。

この異例の人事には、サッカーの母国でありながら、50年以上もワールドカップで優勝できていないという背景があり、とりわけ、ワールドカップでも欧州選手権でもPK戦で何度も何度も敗れている、という事実があります。

PK戦と言えば、先のカタール・ワールドカップでもわが日本はベスト16でクロアチアにPK戦で負けたわけですが(ちなみに南アフリカでもパラグアイにPK戦で負けてます)、これも様々な議論がありました。「PK戦は運で決まる」という説はずっと唱えらえれていますが、それは半分あたっており、半分間違っています。日本代表においては、明らかにPK戦で勝つ準備ができていませんでした。私はPK戦になったときの選手たちの表情を見て、敗北をほぼ確信しました。過去のワールドカップにおいてPK戦を勝ち進んだ経験のあるクロアチアとの自信の総量の差は一目瞭然で、実際に結果はそうなりました。

話を戻して、この諮問委員会について、マシューさんは「目から鱗」の経験の繰り返しだったと語っています。それぞれが個々の専門性と経験をもとに導き出すアイディアは「反逆者のアイディア」と呼べるようなものだったそうです。

PK戦に備える方法にしても、それまでの専門家たちが見逃していた弱点を暴き出すことができたことは大きな成果だったそうです。ただ、委員会のすべてがうまく行っていたわけではなく、委員会内でサッカー協会とは考えや意見のずれが多々あったそうです。

しかし、これは多様性を取り入れれば当然のことで、その考えや意見の相違こそが、イノベーションを起こしていく原動力になるのではないでしょうか。

さて、それでは気になる成果はどうだったのでしょうか。

2020年、母国イングランドで開催された欧州選手権では、強豪を次々破り、決勝までコマを進めました。言うまでもなく、国中が興奮のるつぼへと化し、誰もが母国の優勝を願ったのですが、結果は・・・PK戦で敗退しました。

サッカーとは、とかく単純で複雑なスポーツなのです・・・。(人種差別問題に発展するのは、イギリスのお家芸ですね)

多様性がないと集団値は発揮されない

これまで、CIAとイングランドサッカー協会の例を用いながら、多様性の重要性について語ってきましたが、ここから話をまとめていきたいと思います。

AMAZONより引用

賢い個人

まず右上の図をご覧ください。

取り組む問題が単純であれば、一人でその問題の解決に必要な情報をカバーできます。しかし、問題が複雑になると、一人ではカバーしきれない部分が出てきます。だから、他にもメンバーを加えて、集団で問題解決を図ります。

無知な集団

次に右下の図を見てください。

一人では解決できない問題も集団になれば解決できる可能性が高まります。ただし、それには条件があります。もしその集団が「画一的な集団」だった場合、つまり同じような考え方の人が集まった場合に右下の図のようになります。一人ひとりは頭が良くて知識も豊富です。しかし互いに知っていることも視点も似通っていて、いわば「クローン集団」のようなものです。そして、これがCIAにおける問題の根幹でした。

ちなみに、人は同じような考え方の仲間に囲まれていると安心します。ものの見方が同じなら意見も合います。すると自分は正しい、頭がいいと感じてしまいがちです。「類は友を呼ぶ」原理はここにあるのです。

賢い集団

今度は左上の図を見てください。

我々が目指す組織形成はこれになります。多様な枠組みの集団は、いろんな考えと意見を持つ、いわゆる「反逆者」の集団です。反逆者たちは、むやみに反論するのではなく、問題空間の異なる場所から意見や知恵を出します。新たな観点に立ち、それまでとは違った角度から視野を広げてくれる。

つまり、チームで難問に挑むときにまずやるべきことは、以下のように問うことです。

  • 我々がカバーできていないのはどの分野か

  • 無意識のうちに『目隠し』をして盲点を作ってしまっていないか

  • 画一的な人間ばかりで問題空間の片隅に固まっていないか

上記の通り、自分と似た考えの人たちといることは心地いいですし、安心できます。ただ、単なる仲良し集団に進化も革新もありません。簡単なことではありませんが、本当に前に進みたいなら、そして難問を解決したいのであれば、この真理を忘れてはいけないでしょう。

多様性はあるが無知な集団

最後に左下の図になります。ご覧の通り、多様性はありますが、重なりがありません。これはあきまへん。

例えば、こんな例はどうでしょう。2人の経済学者がいます。一人は白人の中年男性で同性愛者。もう一人は黒人の若い女性で異性愛者。一見、この二人は「めっちゃ多様性に溢れてる!」と思いますよね。

しかし、もし彼らが同じ大学の、同じ教授の下で学び、同じような経済モデルを使っていたらどうでしょうか。この場合、認知的には「クローン」と変わりありません。

ここに多様性の落とし穴があります。肌の色や性別など表層的な多様性は、必ずしも認知的多様性が深まるわけではないのです。

多様性は高い集合知を生む要因となりますが、それには根拠が必要です。対処する問題と密接に関連し、且つ相乗効果を生み出す視点を持った人々を見つけることがカギになります。

日常に多様性を取り組むために必要な3つのこと

AMAZONより引用

多様性の重要性についてはここまで読んでだいぶ理解できました。それでは、その多様性を日常に取り組むためには何が必要でしょうか。

「無意識バイアス」を取り除く

無意識バイアスとは、文字通り自分が気づかぬうちに持っている偏見や固定観念のことです。

知らず知らずのうちに繰り広げられている性差別(男性の方が女性より優れている)や人種差別(白人は非白人よりもえらい)などがまさに無意識バイアスです。例えば、女性ファッション誌の表紙を外国人やミックス(「ハーフ」って言っちゃだめですよ)のモデルが飾ることが多いのも、無意識バイアスの表れと言えます。(白人に対する無意識の劣等感)

CIAもそうだったし、1970年代の世界中のオーケストラもバイアスにかかっていました。(当時は「男性の方が演奏がうまい」と信じられており、それを「実力主義による採用」だと信じ込んでいた)

このバイアスによって可能性がつぶされる人がいるのであれば、そこからイノベーションは生まれません。

だからこそ、無意識バイアスを取り除くことは、公正な社会に向けての第一歩であり、多様性を作り出す重要なファクターなのです。無意識を意識下に持っていくのは簡単なことではありませんが、物事の見方を変えることでバイアスは取り除くことは可能です。今から意識しましょう。

影の理事会

とある論文によると、プラダとグッチの経営状態を比較したときに、プラダは長年ずっと高利益を誇ってきましたが、2014~2017年には売り上げが落ち込んでそうで、その理由を同社は2018年に「デジタル化の重要性に気づくのが遅かったから」と公式に発表しました。

一方グッチは影の理事会を設け、若い人材とベテランの定期的なコミュニケーションを図っていきました。いうまでもなく、異なる年齢層を組み合わせたから成功したわけではなく、それが上述の「賢い集団」になったからこそ成功したのです。

与える姿勢

これは本書だけではなく、いろいろなところで言われることですが、「Giver(与える人)は成功をおさめやすい」というのはいくつかの研究において実証されていることです。

多様な社会においてコラボレーションを成功させるには、自分の考えや知恵を相手と共有しようという心構えが必要です。そうした与える姿勢があって、初めて受け取る機会が得られる。それが成功につながるのです。(以下参考文献)


いかがでしたでしょうか。多様性についてだいぶ理解が深まったのではないでしょうか。

私は本書を読んで、多様性の在り方を深く理解しただけではなく、自分のこと、そして他人のことも今までとは違う角度で捉えられるようになりました。

ちゅ、多様性。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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