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またね。

思い出した話。

私のおじちゃんは身長が180cmくらいあった。 小学生だった私がおじちゃんの隣に駆け寄ると、母もおばちゃんも「おじちゃんはあんたの倍はありそうだね。」と言って笑った。 おじちゃんは毎年、お年玉の代わりに絵本をくれた。綺麗な水色の表紙の絵本。お金だと母に「貯金ね。」と言われてしまうから、絵本をもらえるのはなんだか得した気分で嬉しかった。おじちゃんは私が好きなものをちゃんとわかっている。背丈はすごく大きいけれど、いつも歩幅を合わせてくれる。                                                                   私が中学二年生の時、おじちゃんは八王子の病院に入院した。母と姉と一緒にお見舞いに行った。直接会うことはできなかったから、看護師さんに手作りのメッセージカードを渡した。「容体は良い方向へと向かっているので大丈夫ですよ。」若くて優しそうな看護師さんが言った。なぜ入院したのかは聞かなかった。白血病だったと知ったのはつい最近だ。12月29日。年末のつまらない特番をなんとなく眺めていると電話が鳴った。声を裏返して話す母は、受話器を置くとすぐに「八王子に行ってくる。おじちゃんだめかもしれない。」と言った。母の声とテレビの音がだんだん遠くなって目の前がぼやけていく。

棺で眠るおじちゃんはなんだか少し小さく見えた。見上げるほど大きかったのに。これじゃあ遠くに行ってしまったみたいだ。大きな歩幅でどんどん小さくなっていく。私はもう追いつけない。 身長が大きいから玄関でいつも頭をぶつけていたよね。スイカの種は飲み込むとお腹からスイカの芽が出るんだよね。私があげた折り紙でできた犬、まだ持ってるかな。私は絵本、ずっと、ずうっと大事にしてるんだよ。

「早く元気になってね。」と書かれたところに二重線を引いて「またね。」と書き足してから、  真っ白な花と一緒に渡した。


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