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ここは山の中。 とうの昔に廃線となった駅。 今は草木が茂り、錆びたレールを隠している。 …
二階の窓から手袋を落としてしまった。 見下ろすと、一階の庇の上に載っていた。 運がいい。 …
保母さんの弾くオルガンの音が聞こえる。 幼い僕たちが小さな手と手をつないで 輪を作ってお…
住所のメモだけが頼りだった。 地図はなく、電話番号もわからない。 もっとも、住所だけで十…
僕の家は五人家族。 お父さん、お母さん、お兄さん、お姉さん、そして僕。 「いい子にしてい…
マサト君という変な大人の知り合いがいて 僕の言う事をちっとも聞いてくれないので 僕は困っ…
オフィスを出ようとしていたら 女子社員のひとりに呼び止められた。 「これ、素敵ね」 彼女のデスクの上に胸像が置いてある。 それをボールペンの先で示しながら 彼女は感心したような表情。 石膏を削って表面に着色したもの。 彼女の姿形に似せて僕が作り 僕が彼女にプレゼントしたものだ。 「それは、どうもどうも」 嬉しくなり、彼女と話し込もうとしたら 別の女子社員が声をかけてきた。 「これも素晴らしいと思うわ」 その彼女のデスクの上にも胸像が置いてある。 やはり
殴られた記憶がある。 かなり昔の話だが忘れてはいない。 殴られたら誰だって痛い。 誰だっ…
父が台所で料理をしている。 フライパンの上で卵焼きを作り その上に切り揃えたほうれん草…
海岸なのに海は見えないのだった。 大男が大きなオートバイに乗り 砂浜を颯爽と横切ろうと…
夕闇の荒野をひとり くたびれた旅入が歩いていた。 遠く人家の灯りが見える。 頼めば泊めて…
若い頃、煙草を吸いすぎて気持ち悪くなり、 目を閉じて項垂れていたら 幻聴が始まった。 遠い…
あら、ダメよ。 まだまだ我慢して。 あせっちゃ、ダメ。 まあ、いやな目。 そんな顔、しない…
真夜中、見知らぬ女が訪れる。 「助けて。退屈のあまり死にそうなの」 なるほど、そんな顔をしている。 こちらも同じく退屈していた。 (どれ、この女を救ってみようか) しばらく考えてから提案してみた。 「ふたり、抱き合ってはどうか」 しかし、女は深く溜め息をつく。 「根本的な解決にならないわ」 そうか。 そうなのか。 そうだったのか。 冷たい風が吹き抜けてゆく。 とりあえず、応接室に案内した。 季節は夏、女の服装も夏。 膝と肘がきれいな女だった。 「根本的な解決