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私と彼女のペアリング

ペアリングを作った。左手薬指にふたつめのペアリング。
ひとつめは夫との結婚指輪。
ふたつめは21年来の友人と。

私たちは、中学からの友人だ。
創作小説を書いているという共通項でつながった。
彼女が小説を書いていると聞きつけて私が挑戦的に話しかけたのが始まり。
中一の春、体育が終わった休み時間に、窓側から2列目、一番後ろの席にいた彼女に私はつかつかと近寄り、「小説、書いてるんだって?」と第一声を浴びせた(彼女談)。きっと、前の席の机に片手をついて見下ろしながら。
当時の私は目立ちたがりな威張りん坊で、学級委員長に進んで立候補する、「ジャイアンみたい(彼女談)」な12歳で、
彼女は控えめで、休み時間は自分の席で絵を描いたり乙一の小説を読む大人しい12歳だった。
書いていた小説も、人間の強欲(私)と、あたたかなやさしさ(彼女)。
似たもの同士ではなかった。

服装は、かっこいい感じの私と、かわいい感じの彼女。
好き嫌いの多い私と、なんでも食べる彼女。
BUMP OF CHICKENで好きな曲は太陽(私)と、ダイヤモンド(彼女)。
ときめきメモリアルGirl's Side3で好きなキャラは琉夏(はかなげな繊細金髪ヒーロー/私)と、ニーナ(年下長男ネアカワンコ/彼女)、
私は恋愛に奔放で、彼女は品行方正。
大学を卒業してすぐ私は家を出て、彼女は地元で暮らしている。
酒に強いことやプラネタリウムが好きなことは共通して、彼女の実家に泊まらせてもらったり旅行したり、気まぐれにリレー小説を書いたりして、愉快に21年を重ねてきた。


熟れた関係なので、相手の突拍子もない思い付きにも、笑いながら乗っかれる。
数年前のこと。
相談のその字もない中、香川で開催されるフェスMONSTER baSHのチケットを取る、と彼女から連絡が来た。拒否権はないと断り付きで。
私たちは関東に住んでいる。香川まで飛行機でも新幹線でも4時間かかる。
彼女の初めての遠方フェス参戦に、学生時代毎年ROCK IN JAPAN FES.に参加していた私を連れて行けば問題ないと思ったようだった。
もちろん、チケット代・宿代・交通費は折半。
強引さにしばらく笑いが止まらなかった。
2泊3日のモンバスと高松観光は最高だった。

そして、先月上旬。友達20年のお祝いに何かしようとLINEで話していて、お揃いの指輪を作ろうと提案したのは私だ。
彼女は、カップルか、いいと思う、と応えた。
オーダーリングのサイトをいくつか見て、石を選べて刻印もできるcobacoで細身の指輪を作ることにした。
「刻印、なんて入れる?」と聞くと、
『なんだろな 風林火山』と返された。
彼女のこういうセンスが私にはたまらない。
様式美に則って二人の名前と出会った年を並べて刻印することにした。
「カップルじゃん」「カップルかよ」と口々に言いながら、翌日の夜には注文を終えた。

16種から選べる石、私はダイヤモンド1粒にした。シンプルで美しく、意味もこの機会にふさわしいと思った。「永遠の絆」。
彼女は、ピンクトルマリン、ダイヤモンド、ピンクサファイアの3粒を並べた。あたたかくやさしい色が彼女らしい選択だと思った。
一応、二人で同時にはめるような儀式をするのか聞いてみたら、届いたらすぐつけると彼女は答えた。
私たちに甘美なしめっぽさはない。
1ヶ月半後に出来上がった指輪は、彼女の左手中指と、私の左手薬指におさまった。

石付き刻印入りのペアリング。
とっさのひらめきだったけど、最高に私たちらしいと悦に入っている。
ちょっと突飛で、ドラマチックで、ユニークで、青春ぽい。
照れや恥じらいのない私たちの調子を書くとノリだけでとんとんと決まったようでもあるけど、ジョークで選ぶ代物ではなく、石の意味も指輪の存在もお互い理解してる。
けど重さは感じてない。
自分たちを表すことばとしてはロマンチックすぎて、「永遠の絆」にはやっぱり笑っちゃうけど、私たちのものではないとは思わなかった。


『30周年やその先、何しようか考えるのが大変』と、彼女が気の早い心配をしていた。
でも確かに。いきなり記念品の天井に届いてしまった感がある。
彼女は植樹はどうだという。それもありだ。
でも私はまたひらめいてしまった。
「墓買うのは?」
『やめてくれ』
小説から始まった似てない二人の関係は、小説より不思議におかしく続く。

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cobacoさん、ありがとう。


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