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夏こそ、透明

1万円のワイングラスを買った。

その作家さんは、前からずっと気になっていて、個展があったら絶対に買おうと思っていたのだ。東京で個展が開催されると聞きつけ、事前にチケットも入手して、前日から気合を入れて臨んだ。でも、ワイングラスが1万円だと知らなくてお会計の時にちょっとためらった。

グラス2脚で2万円…他のも合わせたら3万超え…何回飲みに行けるだろう…と脳内で未練がましく計算したりもしたけど、でも買った。(夫には値段を伝えていないので、いつかこのnoteを機にバレるかもしれない)

そしてその帰りに、別のギャラリーで懲りもせず、ガラスのうつわをもうひとつ買った。完全に脳がバグっている。でも飲み会何回分とか、洋服何着分買えるとか、そんなことはどうでもいいくらい心が惹かれてしまっていた。

そして、このバグった脳と向き合ってみて、改めて透明収集が趣味だと気づいた。

今日はそんな偏愛のお話。


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「クローズ業務で何が好き?」

スターバックスで働いていた頃、ふとメンバーでそんな話になった。レジでの接客や、バーカウンターでのドリンクづくりなどではなく、なんていうかもっと地味な「名もなき業務」の範囲の話だ。

製氷機の氷を砕いて補充しやすくする、翌朝に向けてシンクを磨く、キャラメルソースを一滴でも多く補充するべくシンクの角でソースの中身を押し出す…などいくつかの名もなき業務が頭に浮かんだのち、反射的に「キューブ洗いかな」と私は答えていた。

キューブとは、ストロー、ガムシロップ、個包装のシュガーなどを入れる透明のケースのことだ。コンディメントバーと呼ばれる、お客様が自由に使える備品置き場に設置されていることが多い。(最近は店舗のつくりも変わってきたので、導入してる店舗も少なくなってきたけれど)

見た目はこんな感じで、なんの変哲もないただのクリアケースである。
※あくまで見た目が似た商品です。

なぜこの名もなき業務が頭に浮かんだのかはわからない。でも、閉店間際に店内のあらゆるサイズのキューブを集めて洗って、並べて乾かす様子を見るのが好きだったのはよく覚えている。

当時は10%も自覚はなかったけれど、今思い返すと透明アイテムを好きになったのは、この頃からかもしれない。


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ふたり暮らしをはじめたばかりの頃、『BODUM®』のダブルウォールグラスを買った。転職した会社の備品にあり、先輩が使っているのを見かけてひとめぼれしたからだ。

デザインやときめきを重視する私と、掃除のしやすさや機能性を重視する合理的な夫。もの選びに関しては意見が合わないことも多い。でも、このグラスはデザインもよく、電子レンジも使えて耐熱性に優れ、さらに結露もしないということで奇跡的に意見が一致しAmazonで即購入した。

ここから、私の透明な日々がはじまった。


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私にとって透明は、宝石みたいな存在なのかもしれない。

ちょっといいアクセサリーを店頭で見ると、その曇りもない輝きにテンションが上がって、脳が興奮してバグる。キラキラとした表情と、決してかわいいとは言い切れない値段を天秤にかけて、それでもバグった脳でそのまま勢いよくお買い上げ…みたいな。透明がもたらす体験、まさに宝石のそれ。

透明の何が好きかって、挙げればキリがない。
光の角度で変わる表情。いつ見ても楽しめる唯一無二の輝き。水を入れることでさらに増す透明感。視覚で飲みものや食材を味わえること。中身が見える安心感。あとは、こなれ感や抜け感。

夏のファッションでもクリアアクセサリーや、PVC、シースルーなど、“透け”のアイテムがひとつあるだけでグッと季節感が増すし、異素材を組み合わせることでこなれ感が出たりする。テーブルもそれと同じ。ひとつあるだけで格段にテーブルコーデ上手になった気分になれる。そんな魅力が透明にはあるのだ。

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最近は高くても妥協せずに部屋に合うものを選ぼうと、リノベを機にいい意味でもの選びの基準が上がった気がする。ここからは、我が家の優秀すぎる最高な透明アイテムを紹介。


蠣﨑マコトさんのガラスのうつわ

冒頭の1万円のワイングラスは、香川のガラス作家・蠣﨑マコトさんのもの。ヨーグルト、野菜、フルーツを盛り付けるのにもちょうどいいハリゾ小鉢も一緒に購入。取り扱いは個展のみの場合も多いので、出合うチャンスは少ないけれど、ひとつあるだけで格段にテーブルにこなれ感が出る。(私は代々木上原のギャラリー『FOOD FOR THOUGHT』で購入)

四国の工房を訪れた際にガラスに魅せられ、ガラス作家を志した蠣﨑さん。ガラスは直線的なフォルムをつくり出すことは難しいらしく、それでも真摯に向き合うストイックな姿勢がかっこいい。このインタビュー記事を読んでますます好きに。

吹きガラスは1200度近い窯の中で溶かされたガラスを竿に巻きつけてすこしずつ空気を入れながら膨らますので、当然、風船のように丸くなります。その線をどうまっすぐにしていくかが腕の見せどころかな。直線的な型にはめて吹くやり方もありますが、僕は型は使いません。光の反射を観察しながら「ここがまっすぐだ」という線を探っていくんです。もちろん手作りですから完璧な直線ではないですけど、僕は、歪みを「味」とは呼びたくない。特にグラス類は、納得がいくまでまっすぐな線にこだわります。(『FIGARO』うつわディクショナリーより)


STUDIO PREPAのガラスのうつわ

冒頭のワイングラスを買ったのち、代々木上原のギャラリー『AELU』で購入したオーバルボウル。『STUDIO PREPA』は、長野県上伊那郡でご夫婦が営む吹きガラス工房。デザインから制作まですべておふたりで手掛けられているそう。

私が購入したボウルは、波打つような有機的なフォルムが魅力的。小さめなものから、大きめなものまでサイズ違いで展開されている。廃棄された車のフロントガラスを再利用してつくられたプロダクトで、その姿勢や取り組み内容も素敵。

小野田郁子さんのガラスのうつわ

沖縄県読谷村『吹きガラス工房 彩砂』で活動する小野田郁子さん。数年前沖縄へ訪れた際、セレクトショップ『miyagiya』さんで購入。その後行った『D&DEPARTMENT OKINAWA』でも偶然個展が開催されていたので、インディゴのものも追加購入した。(カルーセル3枚目)

波のようで水のようなやさしくあたたかみのあるフォルムと透け感が好みで、フルーツや副菜を盛り付けるのに活躍している。沖縄の琉球ガラスは、戦後の米兵たちによる、コーラやビールの廃瓶を使ってつくる再生ガラス。こちらもサスティナブルなプロダクト。

おおやぶみよさんのフラワーベース

沖縄県読谷で活動されるおおやぶみよさんの花瓶。手づくりならではのあたたかみを感じるぽってりとしたフォルムや、一つひとつ味わいのある気泡が特長。

おおやぶさんは「デイリーに使えるものを」との思いから、日々制作されているそう。どんな食卓にも合わせやすいシンプルなデザインのプロダクトが魅力。都内のギャラリーなどで取り扱いがあり、私は『CASA FLINE』のオンラインストアで購入。


iittalaのアアルトベース

『iittala』のアアルトベースもリノベを機に購入。優美な曲線で、水を入れた時の表情も美しい。こちらも一つひとつ手吹きで制作されているそうで、気泡の入り方やかたちなども唯一無二。

サイズは高さ違いで何種類かあるけれど、我が家は120mmをセレクト。大きすぎず、小さすぎず、ひとつあるだけで存在感があるのでお気に入り。

TOUMEIのフラワーベース

TOUMEI』は、福岡県宗像市を拠点に活動されているブランド。こちらもすべて手づくりで制作されているそうで、モダンなデザインと、眺めるだけで楽しい気持ちになれるカラフルなラインナップが特長。我が家にあるのは、バブル型のピンクの花器と、ブルーグリーンの小さめの花器。

いままで無色透明を中心に集めていたけど、カラーガラスがあると部屋のアクセントにも。キャビネットの上に大小さまざまな花器を並べて飾るのが最近の定番。


他にもいま気になってるガラス作家は、ピーター・アイビーWASHIZUKA GLASS STUDIO奥泰我さん小林裕之・希さん谷口嘉さんなど。個展の機会があったら足を運びたいなと思う。

ここまで我が家の透明アイテムを紹介しましたが、いきなり作家ものや、個展へ行くのはちょっとハードルが高いよという方へ。この辺りのブランドもおすすめ。

KINTO

滋賀県彦根市にて創業した『KINTO』は、テーブルウェア、グラス、インテリア雑貨を手掛ける会社。中目黒の直営店『KINTO STORE Tokyo』には、グラスだけじゃなく、フラワーベース、タンブラー、キャニスターなども取り扱いがあり、透明好きとしてはテンション上がる空間。

ガラスだけじゃなく陶器やキッチンウェアも充実しているので、見るたび心動かされるブランド。私はパスタケースとキャニスターを愛用中。キッチンにも透明があると幸せな気分に。


VISIONGLASS

VISIONGLASS』はインドの理化学製品メーカー『BOROSIL』が製造する耐熱グラスのブランド。ビーカーやフラスコと同じガラスで制作されているそうで、-40℃から350℃まで対応。使い勝手も抜群。(『BOROSIL』社のガラス製の鍋がいま欲しい)

直線的でスタイリッシュなフォルムが魅力で、我が家でもコーヒーやビールを飲んだり、花器として使ったりしている。集めて並べたくなる豊富なサイズ展開。撮影でご一緒してるスタイリストさんも愛用してて、小さめサイズにお花を生けた様子もかわいかった。


HARIO

コーヒー器具や、ティーポットなどでよく知られる『HARIO』。ロフトなど取り扱っている店舗も多く、手に取りやすい点がおすすめ。インスタアカウントも素敵。

テーブルウェアも素敵なんですが、私が個人的に推したいのはアクセサリーブランド『HARIO Lampwork Factory』のアイテム!

涼やかな印象になる雫のようなデザインのアクセサリーがどれもかわいいくて、私もピアスとネックレス愛用してる。手に取りやすい手頃な価格(5,000円前後)も魅力のひとつ。


木村硝子店

ビール、ワイン、日本酒など、日々の乾杯をよりおいしく楽しみたい方は『木村硝子店』さんがおすすめ。創業から100年超えで、レストランやバーなど業務用グラス製品の輸入や卸し、オリジナル製品の企画・生産などを行う会社。海外のガラス商品のセレクトも行っているそう。

私も一度湯島の店舗に足を運んだのですが、そこに並んだ商品の数々は圧巻。以前cocoroneのお中元ギフトで販売した脚付きグラスも木村硝子店さんにご協力いただいたもの。コーヒーやスイーツなどとも相性がよく、愛用してる。


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ガラスのうつわは水や波など自然を連想させるからか、切った野菜やフルーツをそのまま盛り付けるだけでみずみずしくおいしそうに見える。グラスは装飾が少なく潔い佇まいだからこそ、水を入れただけでも美しく感じる。

私にとっての透明は、“用の美”の極みなのかもしれない。

ガラスのうつわ、グラス、フラワーベース、ビーカー…飾らない表情が魅力的な透明を、これからも愛でていきたい。

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