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おかんのシャンリンシャン

私の母は天然だ。その一言でしか母がどのような人か表現できない。

母は、「あかんわ、最近物忘れが酷くて…」と私が物心ついた頃から繰り返しボヤいている。感心するのは、強にも、弱にもならず、40年以上一定にボケ続けていることだ。なかなかできる芸当ではない。本当に頭が下がる。

私や兄たち家族が集まると、おでんやら、唐揚げやらを食べきれない量を作り、もてなしてくれる。タッパーに詰めて、皆にもたしてくれるためにだ。

私がおでんをタッパーに詰める役になった。不器用な私は、箸でたまごをすくおうとしたが、やはり上手くいかなかった。それを見ていた母は「下手くそやね、さあ、この大きめのスップンならすくいやすいよ」とスプーンをねぶって渡してきた。

スップンて…。

しかもねぶった…。

彼女にしたら普通のことだ。
なぜなら、私にコーヒーをいれてくれるのはいいが、私に手渡す前、無意識にひと口飲んでしまう人なのだから。

「せんめんき」を「せめんき」、「さんりんしゃ」を「しゃんりんしゃん」と今だによんでいるし。

本人曰く、方言らしいが、おそらく覚え間違いだ。

以前は「それ違うよ」と注意していたが、ある時からどうでもよくなり、今では完全に聞き流している。

聞き流す事は勇気、勇気は優しさだと信じている。

ある日、実家で焼肉をふるまってくれたとき、私はいつものように余った焼肉を持ち帰り用に、全員の分タッパーに詰めた。
母は途端、何をするのかと思ったら、皆が小皿に食べ残した焼き肉のタレを、持ち帰り用の焼肉にさーっとかけてしまったのだ。

「タレ、多い方が美味しいやろ」

実の娘でも引く光景であった。目の前に座っていた兄嫁二人は、苦虫を噛み潰したような、なんともいえない表情を浮かべていた。
母の天然ぶりをよく知っている私は、おかしくて仕方がなかったが、兄嫁二人の手前、必死で笑いをこらえた。

二人の表情と心中を察したら、笑う雰囲気ではないと思ったのだ。

なにせ47年間の付き合いなので、母の天然話は山ほどあるが今日はこのくらいにしておこう。

そんな母に、クソババアやらなんやらと悪態をついてきた。
私は口が悪く、親不孝な娘だけれど、スップンだろうがしゃんりんしゃんだろうが、母には元気で長生きしてほしいと心から思っている。


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