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ドラマ火花についての限りなく私的な考察⑤ それぞれの相方 大林と山下

「あほんだら」と「スパークス」のそれぞれの相方について。

大林を演じる大林と山下を演じる村田と好井はそれぞれ本物の芸人だ。通常はそれぞれの相方との漫才を職業としている。と、改めて確認することで軽く混乱する。ドラマの中での「あほんだら」の神谷の相方は大林「スパークス」の相方は山下で唯一無二のコンビにしか思えなかったから。どちらの漫才もとても面白いし、どちらの漫才もとても好きだ。(お二人の現実の相方さんたち、失礼なことを書いてしまって本当にごめんなさい。無知な人間の偏った感想です。許してください。)

私は昔から人を笑わすことのできる芸人さんが一番頭の良い人達だと思っていて、結構強い憧れがあった。でも、現実にお笑い番組を見ると妙な疲れが残るので、ライブに行く機会がある時にごく稀に落語を楽しむくらいだった。なのに不思議と「火花」で観る二組の漫才は純粋に楽しめた。笑いの質がよほど性に合うのかもしれない。
漫才の相方って不思議だ。神谷と徳永は心底惹きつけあっていると思うけれど、二人がコンビを組むという事にはならない。相方は相方でそれぞれに取替のきかない存在なのだ。コンビそれぞれの距離感がまた絶妙で、遠慮がないようにみえてお互いに決して踏み込まない一線がある。神谷には大林で、徳永には山下で、そしてまた相手もそうなのだろう。

大林が現役中の徳永を一度だけ誘う場面がある。「知ってる?神谷もう、首がまわらんくらい借金がでかなってんねん」この言葉を徳永に向けて口に出すまでにいったいこの不器用そうな男はどれだけ逡巡したことだろう。上手いなぁ。村田さんもやっぱりこんな人なんだろうか、なんて思ってしまう。どんなに迷惑をかけられても、神谷を見放すとか切り離すとかは考えられなそう。
山下だってそうだ。せっかくのラジオ番組出演のチャンスなのに、出番が迫っても神谷と飲み歩く事を優先しなかなか姿を現さない徳永に困惑し、怒りながらも決定的にやり込めることはしない。拘りが強くて不器用な徳永と結構リア充で現実的な山下はぶつかり合うことも多いけれど、彼らなりに絶対的に信頼し合ってきたことが見て取れる。だから、山下がやめる時は徳永もやめる時で、新しい相方を見つけるなんていう考えはつゆほども浮かばなかったのだろう。

大林と山下がいてこの物語は成立している。現実の芸人としてのリアルと匂いを纏いながら、神谷と徳永の関係を支えている。そして不思議な奇跡のような漫才がこの物語の中で生きている。




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