見出し画像

ショートストーリー『オレンジ色の光の中で』

*コレもまた、ショートストーリーというよりも、ある日ある時のワンシーン*


   《オレンジ色の光の中で》

夕暮れ時のやわらかいオレンジ色の中で、
彼女は彼の肩枕で、
静かな寝息を立てていた。

電車の窓から吹き込む風が、
時おり、彼女の長い髪をすくいあげ、
彼の唇のあたりをくすぐる。

彼はそれを払いのけようともせず、
やはり目を閉じ、
ひたすら眠ったふりを続けている。

きっと、清潔なシャンプーの香りと、
その感触を楽しんでいるのだろう。

電車がどこかの駅に着いた時、
その振動で、彼女の頭が彼の肩から離れた。

二人は顔を見合わせ、
思わず微笑みを交わす。
彼女の、クスッという微かな笑い声。

僕らを乗せた電車が、
ホームから滑り出し始めると、
彼女は再び、彼の肩に頬を預けた。

辺りはまだ、
オレンジ色の光に包まれていた。


あ~あ。何でこの席に座っちゃったんだろ…。

通路を隔てたこちら側の席で、
僕もまた寝たふりを始めるのだった。


            End



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?