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評判の良かった認知症研修

同じ場面での「認知症の方の視点」と「介護者の視点」の違いを、実在する入居者をモデルにして資料を作ったら、分かりやすいと評価頂いたので共有します。



認知症の人の内的世界の理解


自分の思いや苦悩を適切に自分の言葉で表現できなくなる「認知症」を病む人たちが体験している 世界を、私たちはどの程度理解しているのだろうか。

【事例紹介】
鈴木様:90歳男性、アルツハイマー型認知症、ADL(日常生活動作)的には自立しているが、認知症による記憶力、理解力の低下があり適宜声かけや介助が必要な状況。意味不明な言動も多く怒りっぽい。几帳面なところがある。
※個人情報は変えてあります。


【職員の視点】
ある朝、鈴木様が朝食時間を過ぎても起きて来ないので、訪室して「鈴木様、お食事の時間です。」と声をかけ、布団をめくってみたが「なんだ?!」と不機嫌な様子だったのでいったん退室した。

少しすると鈴木様が居室から出て、周囲をきょろきょろと見まわしながら廊下を歩いてきた。

「鈴木様、おはようございます。」と挨拶すると、ちょっとびっくりした様子で「ああ、おはよう。」と挨拶を返してくれた。

「朝ご飯を食べましょう!」と言うと「いらない。」と言う。「お腹が空くから食べましょう。」と伝えたが返事はなく、落ち着かない様子で再び歩き始めたので、それとなくフロアの食席までお連れした。鈴木様は席に着き、朝食を食べ始めたが少し食べてまた立ち上がり歩き始めた。

徘徊が始まると、他入居者の部屋を覗いてトラブルになったりするので、後ろからそっとついて行くと時々振り返りながら、「おいっ、おーい!」と威嚇するような声を出し廊下を進んでいく。

食事をしている他の入居者が、大声を出す鈴木様を怪訝な表情で見ていた。



【鈴木様の視点】
ある朝、私は目覚めたら知らない場所にいた。
こんなところに一人でいるのは何故だろうと考えていると、突然知らない男が部屋に入ってきて「鈴木様、お食事の時間です。」と急に布団をはいだ。

知らない人だし、嫌な感じだったので「なんだ?」と聞いた。するとその男は無言で部屋から出て行った。なんだかよく分からない。急に布団をはぐなんて無礼だろう。

私はまた布団にもぐり込んだが、思い直してベッドから降り、ドアを開けて廊下を覗いてみた。

ここはどこだろう。いつからここに居るのか、どうやって来たのか何も覚えていない。

廊下を見ても同じようなドアが並んでいて、ドアの隙間から覗くと老人が寝ている姿が見える。同じ服を着た若い人たちが忙しそうに動き回っている。
ここは病院なのか?と思う。

突然後ろから「鈴木様、おはようございます。」と声をかけられ、とっさにおはよう、と答えてしまった。なぜこの人は自分の名前を知っているのだろう。知り合いなのか?思い出せない。

ここはどこなのか聞いてみようと思ったが、「朝ご飯を食べましょう!」と大きな声で言われ、一瞬混乱して「いらない。」と答えてしまった。

お腹は空いているのかもしれないが、ここがどこなのかも分からずに食事をしている場合ではない。

建物内を見て回ろうと歩いていくと、10名ほどの高齢者がテーブルで食事をしている場所に出た。
私も促されて座り食事に手を付けてみたが、やはり落ち着かないのでこの建物の出口を探そうと立ち上がった。

歩き出すと、後ろから付いてくる人がいる。何故ついてくるのだろう、薄気味悪いので不安になる。

もしかしたら自分の知った人が建物内のどこかにいるかもしれないので「おいっ、おーい。」と声を出してみる。誰か気づいてくれれば良いのだが・・・


「鈴木様」の心情について、想像力をフルに働かせて資料を作ったら、分かりやすいと評価を頂いた。とにかく不安がベースにある、という事を伝えたかった。不足部分もあるだろうけど、「想像力を働かせる」きっかけになれば嬉しい。

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