マネジメントにおけるコミュニケーションについて

マネジメントや組織においてコミュニケーションは重要です。昨今は飲みにケーションが減ったり、企業規模での飲み会や社員旅行などはなくなりコミュニケーションの機会が減っているように感じている人が多いと思います。そして、さらに追い打ちをかけるように特にコロナ禍によってリモートワークや働き方の変化によってコミュニケーションの在り方に変化が訪れたこともあり既存の会話に頼ったコミュニケーションをしているだけの場合は難しくなったと感じる人が多いのではないでしょうか。HR総研の調べでは、規模を問わず企業の8割がコミュニケーションに課題を感じているそうです。

私は4部署兼任で約50名の部下を抱え、自らの特命業務をしていたプレイングマネージャーとして働いていました。当然ながら会話でのコミュニケーションでは限界があります。そのような環境の中でメンバー達とどのようにコミュニケーションを取るのかを模索しながら仕事をしてきましたのでその中での考え方を少し書いていきたいと思います。

コミュニケーションとは何かを知る

そもそもコミュニケーションとは何でしょうか?デジタル版大辞林には、「人間が互いに意思・感情・思考を伝達し合うこと」とあります。また英語の意味で考えると語源はラテン語で「分かち合う」を意味する「communis」だそうです。「com」とつく言葉は共通して共有するという意味があります。つまり伝えるだけでなくその内容を共有することが大事だということです。

次にコミュニケーションの手段は何でしょうか?これもHR総研のアンケートを見ると、対面・電話・メール・SNS・イントラネット等が挙げられています。一般的に双方向でやり取りするものがコミュニケーションだと考えられていて、対面のコミュニケーション不足が企業のコミュニケーションに課題を与えている要因になっていると考える人が多いことが分かります。しかし本当にそうなのでしょうか?

非言語コミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)の重要性

コミュニケーションには言語コミュニケーション(バーバルコミュニケーション)と非言語コミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)に分けられています。さらに非言語コミュニケーションは2つに分けられます。

1.言語に付随する非言語的コミュニケーション

2.言語に付随しない非言語的コミュニケーション

1.は会話中の相手の表情や仕草等のことを指します。2.は言語を発していない時の相手の仕草や行動を指すものです。1.は大抵のマネージャーももある程度意識をしているものだと思いますが、2.を意識している人は少ないのではないかと思います。現代ではコミュニケーションの大半がメールやSNS等文章を読むツールが多くなってきているので1のような会話に付随する表情などは読み取れません。だからこそ言語に付随しない非言語的コミュニケーションが最も重要な要素になってきているのです。

ただ、なかなかそれを鍛えてきている人は少ないのが現状だと思います。手書きが一般的だった昔は、ある程度分かる部分もあったかもしれません。現在は打ち込んだ文字が一般的なので読み取る能力を鍛える場が少なくなっているかもしれません。ちなみに企業が採用時に履歴書などを手書きさせるのはそこから応募者の性格を見たいからだと思います。また絵文字もテキスト文字だけでは感情を読み取りにくいので発達したものだと思います。

言語に付随しない非言語的コミュニケーションを鍛えるには、まずはコミュニケーションを”会話””文字”だけで行っているものだという考えを捨てることが第一歩だと思います。そして会話(文字も含む)以外からいかに相手の情報を読み取る能力を鍛えていくのかが今後社会で求められている能力だと思います。私はキャリア初期にたまたま広報の仕事をしました。その後経営企画やIRの担当をしている中で、話す言葉だけでなく書く言葉が企業と消費者・投資家・社員とのコミュニケーションになっていることを実感することができました。その後マネージャーをしていく中で元々言葉から人の気持ちがわからない(いわゆる空気読めない)性格が功を奏し?自然に表情や態度から相手の考えを読み取らなければいけなかったため、ノンバーバルコミュニケーションが身についたので有効に活用することで50名の部下と日々コミュニケーションを取り結果として離職率の低下(70%→10%以下)し活気ある、部下自らが成長し自走する組織を作ることができました。だからこそノンバーバルコミュニケーションの習得こそマネージャーの基本だと思っています。

また、最近のマネージャの悩みの一つは「〇〇ハラ」だと思います。この大半は言葉によるものです。少しきつい言い方をすればパワハラ、プライベートの事を言えばセクハラ、何を言うのか躊躇うことも多くあると思います。そんな悩みもノンバーバルコミュニケーションを身に着けることでかなり回避できるので身に着けるに越したことはないと思います。

何を伝えるのかが重要

次に考えるべきは何を伝えればよいのかということです。もちろん仕事におけるコミュニケーションですから仕事の話に決まっている!と思いますが、飲みにケーションやレクリエーションが足りないと思っている人が多いということはある程度プライベートを知っておくことが大事なのだと感じているのだと思います。上司と部下に必要な要素として信頼関係がありますので、それを構築する上で確かにプライベートは重要です。でもそれを聞く行為は現代では難しい(異性ならセクハラになりやすい)とも感じていると思いますし最近の20代はプライベートを上司に知られたくない・話したくないと思っている人が多いと思います。

話は離れますが、なぜ小中高と歴史を学ぶのでしょう?私の娘が中学生のころに「社会に出て歴史が何の役に立つの?」と聞かれたことがあります。皆さんも仕事をする上でなぜ歴史を学ぶことが大事だか考えたことがありますか?私は子供にも行ったのですが、歴史を学ぶ意義は歴史の転換期に”誰が””どのような状況”で”どんな決断”を下したのかを知ることが歴史だと思っています。まさにこの3つは会社でも当てはまることだと思いませんか?つまりコミュニケーションを行う目的は”誰が””どのような状況”で”どんな決断”をしたのかを伝えることだし、部下のプライベートを聞く行為は部下の歴史を知ることでその人の決断のクセを知るためのものだと思ってた方が良いと思います。なぜなら仕事で教えるべきは決断基準です。決断基準を伝えるために部下の決断する際の傾向をつかむ、そのためのプライベートを知ることを明確に部下に伝えてから話をすれば部下も話をしてくれるものです。

決断基準とは?

仕事をしていくうえでは毎日いくつもの決断をする必要があります。ここで私は”判断”ではなく”決断”基準だとしています。なぜなら判断は行動を伴わないもので決断はその後の行動も伴った言葉だからです。また決断とは大きなもの例えば〇〇会社との契約をすべきかどうかというものだけではなく、今している作業を止めて電話に出るべきか?エクセルの表を変更すべきか等の細かい作業レベルのものも含めて日々それこそ数分毎に決断をしていると考えて部下の決断基準を把握するようにしていました。

部下の決断基準が把握できてくるとどの作業にどの程度時間がかかるのか、どの程度の精度でできるのかが把握できるようになります。そして上司である自分自身がその組織においての決断基準を部下に伝え把握してもらうようにする。これがコミュニケーションだと思ってマネジメントをしていました。こう考えていくと何もコミュニケーションとは会話やプライベートの話をすることではないとわかると思います。決断基準を共有することを目的として仕事におけるコミュニケーションはあるべきだと思っています。

仕事を通したコミュニケーションを行う

では具体的にどのようにコミュニケーションを取っていたのかですが、正直部署の違う(やることや決断基準が違う業務)約50名の部下をマネジメントしていましたので物理的に会話の時間を取るのには限界があります。単純に1名に5分間話をするとすれば1日に4時間以上かかる計算になります。そのため物理的に難しいです。ただ、上司という立場上毎日10名くらいは承認や判断・進捗方向等をしてきてくれます。その際に非言語的コミュニケーションを駆使しながらその人の決断基準などを把握していきます。決断基準は成長度合いによって進化していきますので日々その成長度合いを把握するわけです。話すポイントは決断基準が現段階でどのレベルになっているかです。このポイントを踏まえて話をすればよくマネジメントで唱えられているような「どうしたらよいと思う」という相手に判断をゆだねる聞き方に自然になっていきます。そうして決断基準を日々進化させていくことで部下は成長を実感でき勝手に自走し始めるようになります。

また会話する機会がない人に対してはその日の日報(その会社は日報を出すことになっていた)に所感を書いてもらいそれを読んでいました。読むのに毎日1時間超ですが、これは出社を速めて対応していました。文章(メール等)でこそ非言語的コミュニケーションを最大限発揮する場面です。文章の内容はもちろんですが、言葉使い、文章の書き方に関してその人その人の癖やその時の気分が顕著に出てきます。すべての日報に返信はあえてしません。リアクションをすることが大事だという考えもあると思いますが、これだけ多くの人数を見ていると、リアクションができない日もあります。もし毎日必ずリアクションをしていると、「あれ今日は見てくれていないのかな?」と考えるものです。なので心理的に動きがあると感じる時だけリアクションをします。メールの返信の場合もあれば口頭で何気なく話すときもあります。また常日頃からの相談などで来た時に日報の話題を出すことも有効です。そうすれば大抵「あ、ちゃんと見てくれてるんですね?」という返しが来ますので「ちゃんと見てるよ」というだけで問題はありません。

またそのリアクションも本人の業務の決断状況に対してすることが大事だと思っているのでその点にリアクションの重きを置きます。そうやっていくと業務の決断ポイントが分かり仕事ができ始める瞬間が訪れますのでそこを逃さずリアクションをしていけば勝手に信頼関係は構築されていきます。また部下に渡す業務はその人の決断基準に合わせたもの(具体的には少し背伸びをした業務)を渡すようにするのです。たまに「この前はこれでいいと言われたのに何で今回はダメなのですか?」という質問が来ます。これこそ決断基準を伸ばすチャンスです。決断するための背景や要因を伝えることでどんどん成長していきます。こうして業務を通じてコミュニケーションを図る、特にメールや対面であれば仕事ぶりや表情から非言語コミュニケーションを読み取り相手の心理を把握しながら適切に声をかけていけば、例え50人・100人であっても適切にマネジメントはできると考えています。なぜなら部下の目的は業務を通じて自身を成長させること(決してその会社で役職をあげることだと思わないことも大事)だからです。業務を通じたコミュニケーション90%、時折何気ない会話10%でも部下との信頼関係は築いていくことができます。コミュニケーションの在り方の参考にしていただければと思います。


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