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部下に育ってほしいなら「育てる」という概念を捨てることが大事

部下の育成に悩んでいる人も多いかと思います。特にプレイングマネージャーは「自分の成果も生まなければならないし、部下の育成に時間が取れないっしコミュニケーションを取る時間もない」というのが本音であり現状だと思います。でも経営層からは部下の育成も当然ながら求められています。コミュニケーションの時間に関しては以前の記事「マネジメントにおけるコミュニケーションについて」をご参照ください。今回はそもそも部下の育成についての概念を変えることの重要性について、マネジメントコンサルタントとして経験し発見したことを、書いていこうと思います。

”育てる”なんておこがましい

京セラの創業者の稲盛和夫さんは経営者として「われわれは雇い雇われるという関係ではない。少なくとも人間は、人を雇うなんておこがましいことはできない。われわれは一緒に働くために集まったパートナー、同志なのだということなのです。」と言っていたそうです。私もこの考えに同感ですし、マネジメントでも同じようなことが言えると思っています。つまり人を”育てる”なんて”おこがましい”考えで、人は基本的に一人で育っていくもの、上司の役割は”育っていくための環境づくり”をすることだけだと今までマネジメントをしてきて実感しています。

初めてのマネジメントでの失敗体験

以前の記事で少し書きましたが、初めて部署を持った時です。自分自身が上申して作らせてもらった部署で1名の部下を持たせてもらいました。プレイングマネージャーとして自身の業務をこなしながら部下の育成もしなければいけない。当時はかなり意気込んでいました。部下(A君)は21歳の社会人経験半年でした。できることもまだまだ少ない状況だったので、常に「なんでできてないんだ!」とか「やる気あるのか!」なんて言っていました。なぜなら私の前の上司自体がそのようなマネジメントをしていたからです。何もわかっていない状態でとにかく業務を山のように振りで進捗管理を頻繁にしてできていない分を叱責する日々です。今思えば、A君も踏ん張りながらよくついてきてくれたと思いますが、その当時は早く一人前にしないと業務が滞ってしまう一心とそのようなマネジメント方法しか知らなかったのでまるで育成とは言えないような日々を過ごしていたと思います。ある日A君は連絡もなく欠勤をしました。何度電話しても電話にも出ない。数日後申し訳なさそうに出勤をしてきたA君は、「会社に行く気が起こりませんでした。申し訳ありません」と謝ってきました。その当時はまだまだ分かっていない私は「どれだけ困ったと思ってるんだ、せめて連絡くらいしてこい」というだけで気づかいをすることができませんでした。その後社内で付き合っていた彼女と話す機会があり、「仕事がすごくしんどいらしい」という言葉を聞いて初めて反省をしました。今思えばはっきり言ってマネージャとして失格です。

子育てとマネジメントしてきて分かったこと

その後20年弱、一貫してプレイングマネージャーをしていき、また同時に子供を育てていく中で徐々にわかってきたことがあります。それは子供と同じように部下も勝手に育っていくものだということです。もちろん必ずしも良い育ち方をするとは限りません。子供に良い子になってほしいと願いながら育てるように、部下もよい部下になってほしいと願っているとは思います。でも実際はなかなか思い通りには育たない。一体何が問題なのかを考えていた時に気が付いたのです。「親が思う良い子が本当にその子にとって良い子なのか?」「今が良い子に見えても将来(社会に出て)でも良い子とは限らないのではないか」ということでした。正直時代は変わっています。親は自分の子供時代を参考にこういうのが良い子だと考えて教えると思いますが、時代が変われば価値観や現実も変わっていきます。自分の記憶はおいておいて、子供の環境下にとって良いことを真剣に考えないといけないという、時代背景を踏まえる必要があったのです。これは部下も同様です。〇〇世代という言葉があるように時代によって育ってきた環境が違えば価値観は変わります。その価値観を理解していくことが大事だったのです。

また、子供にとっての今、いくら周りから「お宅の子はいい子だね」と言われてもそこがゴールではありません。私は母親からよく「社会に出ていくときに人間として立派な人間にするのが親の務め」だといわれていました。母は現在の最適ではなく、将来の最適を考えて私の傍若無人な子供時代をよく我慢してきてくれました。その時のことを考えると、部下の今を考えるよりその子の将来を見据えることが重要ではないかと考えたのです。そう考えてみると大事なことは、育てるために何かを与えるという意識より、育つために邪魔になるもの、必要なものをその子に合わせて投下していくことだと気が付きました。つまり育てるという、自分の力で成長させることができるという概念を捨て、部下自ら育っていく、単にそのサポートをすることがマネジメントなんだと気が付きました。

部下の育成は植物の育成と同じ

そう考えてみると、部下の育成とは野菜や果物を育てることと似ていると思います。植物は基本的に水と光があれば何もしなくても育ちます。でも美味しい野菜や果物にしようと思えば、その植物が必要なことを考えると思います。例えば肥料を与えたり、光の当たり方を加減したり、温度を適正にしたりしていると思います。もちろん植物によって育つ時期や速さも違います。種を植えるとすぐに育ち始めるものもあれば、種が成長するまでに数年ようする種類もあります。ことわざの「桃栗3年柿八年」がまさにそのまま当てはまるのではないでしょうか?もちろんそれを速める手段等は存在します、でも柿が桃より早くなるのは相当難しいと思います。

まずは部下それぞれを分析し、だれが桃でだれは柿なのか等の成長の早さを見極める(初めの方は仮定をする)ことから始めます。まだ芽が出ていないのにいじり倒すと逆に枯れてしまうように、部下の成長速度を見ながら適切に光(チャレンジグな仕事)や水(ベーススキルが付く仕事)を適量与えていくことが大事です。そしてたまに肥料(役職や給与)を与えたりすることで美味しい野菜や果物になっていってくれるのです。大事なのはこちらが求めるものを与えるのではなく、植物(部下)が今必要としているものを目や耳を凝らして察知しながら適切な時期に適切な量をあげることだと思っています。(ちなみにタイミングと書きたかったのですが、日本語でよく使うタイミングというニュアンスをスポーツ英語では”right time right place”というのですが、そのニュアンスの方が正しいと思っています)

”育てないといけない"と思っているとどうしても自分の都合に合わせた育成方法になりがちだと思います。育つサポートをするだけで”育っていく”と考えたほうが気持ち的には楽になりますし、部下の声に耳(実際に声として聴くだけでなく感じることも含む)を傾ける意識ができるのでまずは自分の中の育成の意識を変えてみることが大事だと思います。

実際の育成例

この考えを踏まえた実例を最後に記載しておきたいと思います。その会社の私の部署では営業のサポート部門でマネジメントをしていました。そこに2名の社員が配属されてきました。2名とも同年の新卒で営業成績が悪く退職を考えていたところを引っ張ってきた人材(1名は男性「B君」、1名は女性「Cさん」)でした。配属された時に面談の時間を取り、2名のキャリア感を聞いてみました。B君は特に給与に不満がなく、趣味はゲーム、役職などには興味がなく、給与も上げたいと考えていないし、あまり具体的な将来像は持っていなかった。Cさんはとにかく成果を残して早く役職をあげたいという意識が強く、将来この会社に居続けるかどうかは別にしてある程度働いていたいという考えでした。

そこでB君にはルーティンワークを主に依頼し、Cさんにはルーティンワークプラスアルファの仕事を依頼するようにしました。当然B君は業務内容自体は難しくないのでそつなくこなしていましたが、Cさんルーティンワークが苦手でミスが多く、それ以外のチャレンジグな仕事も与えられたため、かなり業務量が多くなってきていました。私はB君がCさんが成長した姿を見れば将来像に変化が来るかもと考えCさんに対して”ムトザップ”と呼ばれる短期間のマイクロマネジメント(内容の詳細は別で紹介したいと思います)を実施しました。ある程度強制的に管理を強化して10分単位くらいで仕事を区切らせ報告しながら業務の優先順位を教える方法なのですが、これを3か月間続けた結果としてこなせる業務は2倍(ちなみに当時その部署でのルーティン業務数は250ほどあったのですが、Cさんはそのうち約半分をこなすほどになりました)、ミスも大幅に減り、チャレンジ業務に費やせる時間が大幅に増え、周りからも一目置かれるようになりました。半年ほどするとB君は置いてきぼりになった形になったのですが、それでも焦ることもなく淡々と仕事をこなすだけでした。はじめの私の目論見は崩れてしまいました。そこでB君との面談を重ねてみたところとにかく将来像(30代、40代の自分のイメージ)が見えていないのだと感じたので第2の作戦に出ました。それは結婚を意識させることです。詳細は省きますが、2年くらいかけてようやく結婚やその後の家庭を築くイメージができたことでB君に向上心が生まれてきました。そこでまたムトザップを提案し、少し無理やりベース力を引き上げつつチャレンジ業務を少しづつ任せていきました。おそらくB君に初めから業務を与えていれば過去の経験のようにすぐに辞めていたと思います。植物に例えればCさんは麦(1年で2回収穫できるほど早く成長する)でB君は桃だったのでしょう。相手に成長を委ねるそして適切な環境を整えることこそがマネージャーができる唯一の事だと思います。もちろん部署の成果を考えた時には一時的に自分が業務をこなさなければならないことも出てきますが、下手にいじって枯れてしまうよりじっくり相手の声に耳を傾け大輪の花を咲かせるようにしたほうが結果的には成果につながるものです。

”育てる”から”育つ環境を創る”この考え方の変化が、育成には大事なんだと思います。

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