Time Tripper(タイム トリッパー)

私は『時の中で生きる者』。

これまで 幾つもの『運命』を 目の当たりにしてきた。

そして それに『干渉』してはならないことが 唯一の『決まり』のはずだった。

それなのに『貴方』が 時の中に 出現してしまった。

私の見る景色は『表面』だけで よかったのに。

『内面』を見ざるを得なくなってしまった。

しかも『自分』のをだ。

時計の針のように 規則的に動いていたはずの 私に 狂いが生じた。

その出会い方は 時が止まったように。

そこで 電池が切れて 陽の光は 遮断されてしまった。

頼るモノが無くなった。

後は『自分次第』になってしまう。

初めてだった。

己の命を 誰かの為に 運ぶのは。

「あ…あの…」

「?」

経験が皆無な 私の『貴方』との ファーストコンタクト。

怪訝な表情を 向けられて 固まった私。

伝えたい言葉は 胸の中で 溢れるばかりで『表示』はされないまま。

私は『時の中』に 逃げ込んだ。

この感情が『恋』であることが『刻潤』されていくほどに 心音は 秒速を 上げていくばかりで。

ここで やめてしまえば まだ 戻れたのに。

あろうことか 私は また『狂い』に 身を投じてしまった。

二回目。

「あの…」

「君は…誰?」

そりゃあそうだ。

『時の中』に 戻るということは 出会った 全ての人達から 私が『抹消』されることを 意味する。

私の『二回目』は 貴方にとっての 常に『一回目』なのだから。

そんなルールを知りなから 何処かで 覚えていてほしいと 願ってしまっていた。

淡い期待は 裏切られる『運命』でしかなかった。

「どうしたらいいの…?」

ここには 誰もいないのに。

1人で 生きていくと 思っていたのに。

向き合うほどに 求めていた 自分がいることを 知っていく。

1度 狂ってしまった この針を 戻すつもりはない。

もう 覚悟は決まった。

これで 上手くいかなかったら 諦めようと 決意した。

「こ…こんばんは。」

逃げ出したい感情を 身体で抑えて なんとか 踏みとどまった。

「え?…あぁ こんばんは。」

「何してたんですか?」

これが 臨界点だった。

これ以上は なかった。

「え? 今日は 疲れたから 家に帰るけど?」

最後にするのも これから 続いていくのも 自分にかかっていると 直感した。

「一緒に 帰りたいです!」

必死に 頭を下げながら 叫んでいた。

「えぇ~?! 新手のナンパ?…ではなさそうだね。」

優しい笑顔だけが そこにはあって。

いつまでも 眺めていられると 私は 思った。

「君 名前は?」

ない。

どう答えるのが 正解なんだろう。

黙りこんでしまった。

「まぁ いいや。 じゃあ 帰りながら 決めよう。 言いたくなったら 教えてよ?」

「…はい。」

「なんもしないから。 ちょっと 歩こう。」

「いいんですか?」

「そんな キラキラした眼で 見られたら 悪い気はしないよ。」

「ありがとう…ございます。」

勘づかれてしまったかもしれない。

でも 私には『今』しか チャンスは無い。

「お腹 空いてない?」

「え?」

私達に『空腹』という 概念は 存在しない。

『時の中』では 時は 止まったままで『動いて』はいないから。

「空いてます!」

「元気でよろしい! あんま お金ないから『牛丼』でも 食べよう!」

自動扉が 開いて 空いている席に 隣合わせで 並んだ。

「何にする?…っていっても 殆ど 牛丼だけど。」

「同じのがいいです。」

「そう? わかった。…すいません! 牛丼 大盛に サラダと卵セット 2つで!」

「かしこまりました。」

「ほい。」

『箸』というモノを 生まれて初めて 知り 触った。

使い方が 分からない。

どうしよう。

真似をするしかない。

程無くして 注文の品が 目の前に 運ばれてきた。

チラチラと 隣の貴方の仕草を 観察することしか出来なかった。

「…どうした? 食べないの?」

「いえ…あの…」

言いかけた その時 貴方は 箸を『割った』のだ。

慌てて 真似をして 割ってみる。

「なんでもないです。」

「なんで そんな笑顔なの?」

クシャクシャな笑顔が 箸を持っていることを 忘れさせた。

やっぱり 見よう見まねでは 上手くいかなかった。

「…いいよ。 慣れてないんでしょ?…店員さん! スプーンもらえますか?」

「はい どうぞ。」

貴方は『スプーン』を 頼んでくれた。

「ありがとう。」

「気にしないで 食べよう。」

「うん。」

特に 喋ることがあったわけでもなく 私と貴方は ただ 牛丼を 黙々と お腹に収めた。

初めての『満腹感』だった。

その感覚は 私が 貴方を 見つけた時の感覚に ひどく似ていた。

「行こうか…御馳走様でした!」

「御馳走様でした。」

ペコッと 貴方と 一緒に 頭を下げた。

「ありがとうございました。」

店員さんも 笑顔とお辞儀を 返してくれた。

満足気な 貴方の雰囲気に 笑顔が漏れた。

店を出て 暫く 貴方と私は 何も言わずに 空を見上げながら 歩いた。

「どうしたい?」

短く 的確に 意思を尋ねられた。

「…一緒にいたい。」

「そっか。 暫く 居たらいいよ。」

「なんで 何も聞かないの?」

「それは…じゃあ 追々で。」

「お世話になります。」

「はい。 こちらこそ 宜しくお願いします。」

これが 貴方と私の始まり。

「そう言えば 名前くらい 教えてくれても 罰当たらないんじゃない?…僕は 奏輔 よろしく。」

「ソウスケさん…私は…ケイです!」

単純に『時計』の『計』から とったなんて 説明しても『今』は 未だ 信じてもらえなくてもいい。

『明日』になったら 話せばいい。

きっと すぐには 分からないだろうけど。

でも いいんだ。

『満腹感』を知った 私は 明日も お腹が空いて『満腹感』を 求めるだろうから。

奏輔と 一緒に お腹いっぱいになると 決めた。

『時の中』で 生きることを 放棄した 私は『今という時を』生きることに 決定した。

流れていく時の中で 奏輔との 人生を奏でていきたい。

この ほんの『二時間』で 奏輔は『夢』をくれた。

叶える為に 私は『ケイ』として 時間に 追われていたいと 願う。

凍り付いていた 私の『針』が 今 確実に 回り始めた。

きっと この『狂い』は『狂い』ではなかったのかもしれない。

奏輔に 出会えた。

その為なのだとしたら それは『狂い』ではなく『修正』になるから。

ケイは 現実世界の『時間軸』を 手に入れた。

その『軸』を起点にして どう生きるかは ケイ自身が 決めていけばいい。

奏輔という もう1つの『軸』と 絡まりながら ケイ は 歩いていく。

時を操るのは いつも『自分次第』でいい。

二人が 歩んでいく『時間軸』の中で 二人だけの『軸』を 作り上げていく。

それこそが『答え』に成り得るのだろうから。

「明日の朝から お箸 練習だな。」

「ありがとう。」

二人は こうして『進行』していくのだろう。

※この作品は 『Feryquitous(Vo,Sennzai)』様の『Rhuzerv/声』からインスピレーションを頂き あたすのフォロワーさんである『衡平偲』様のリクエストによるものです。

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