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ソロス 単行本 – 2004/6/4

伝説の投資家と呼ばれるジョージ・ソロス氏の本である。

中学生くらいの時に、100人の20世紀というタイトルのTV番組でソロス氏の存在を知った。

一人の投機家(市場に対して大きなレバレッジを効かせ、流動性を供給し、かつその読みによって利益を得る人)が大英帝国の誉れ高いBOE(イングランド銀行)を打ち負かしてしまったということを知り、大きな衝撃を受けた。

今でもその番組はYoutubeで確認できる。

ソロスはハンガリー生まれのユダヤ人である。

父親はエスペラント語で出版社を経営したり、弁護士をやったりとやり手であった。その父は第1次世界大戦でシベリアに抑留されたことがあり、命の危険を冒して脱走している。(脱走しなければ、銃殺されるか、極限の環境の中で死んでいただろう。)

父から学んだ哲学である「通常ルールが当てはまらない時には、ルールは破れ。まず生き残ることが必要」は、ソロスが相場で生き残るうえで、最も重要なアドバイスとなっている。

イングランド銀行を打ち負かすため1兆円のポジションを取った時ですら、仮にマーケットが逆に触れた場合でも、4-5%のロスで済むようにしっかりとリスクヘッジをしている。レバレッジは当時のファンドの総資産額の2倍まであったそうだけれど。

このことからもソロスの父親の考え方・生き方がソロスの相場哲学にとって大きな影響を与えたことが分かる。

またこの父親は、ソロスが14歳の時に、ナチスドイツがハンガリーに攻め込んでユダヤ人狩りをすることを予想していたため、政府の役人を買収し偽のIDを作成し、自分の家族、親しい人を守った。

ソロス自身、ユダヤ人から財産を没収するキリスト教徒である政府の役人の息子という設定で国中を走り回った。

ソロス自身が、この頃が人生で一番楽しかったと述懐しているが、相場でギリギリのレバレッジをかけて、幾多の勝負を行ってきたのは、周りの罪のないユダヤ人がナチスに連行され収容所で殺されていくという極限の環境と同等のスリルを味わうには、相場でギリギリの勝負をし続けることしかなかったからだと思う。

本書では、ソロスの幼少期、そしてイギリス留学をした青年期、アメリカに渡ってファンドで成功した中年期、更にはオープンソサイアティによる慈善活動を行った晩年期を描いている。

バフェット型の銘柄選択と言うよりは、まさにタイミングを読んでトレーディングでのし上がってきたソロスのスタイルは成功確率も生存確率も本当に低いと思うが、彼は常に自分を否定し(間違っていることを認めて)、規律をもって相場と戦ってきた。

また、彼は人を使うのもうまく、ドラッケンミラーやビクター・ニッダーフォッダー等の若いトレーダーを使って、鼓舞して、アドバイスして、常人では到達することの出来ないリターンを上げた。

あのBOEを壊したトレードも、アイディア自体はドラッケンミラーのものであり、ソロスは、「もしその考えが正しいのなら、なぜそのポジションの大きさで勝負するのだ?」と諭して、規模を1兆円を超えるところまで引き上げた。

本書では、ソロスの家族との関わり方や必ずしも上手くいかなかった家庭生活等も赤裸々に語られており、いろいろと犠牲にしてきたものが多い中での相場での成功だということが分かった。

また、ソロスはPhDを持っているものの、必ずしも学校の勉強が得意といったわけではなく、尊敬し師事したカール・ポパーも存在を覚えていなかったし、証券会社時代はCFAの試験に落ちたりと、いろいろと苦労していたことも分かった。

HFTの時代であり、現代でソロスのようなタイプのトレーダーはもう出てこないと思うが、ハンガリーでユダヤ人狩りに会いそうになりながらも、極貧のイギリスでの学生生活、ニューヨークでの成り上がり、最終的には、寄付活動で自分の哲学を実践するという、一人の人生を戦い続けた物語を読むことが出来た。

これだけ成功しても、自己否定するというトレーダーが持ち続けいなければならない特質を持ち続けているのが尊敬してしまう。この特質がなければ、彼は成功の上に胡坐をかいて、相場にやられてしまっただろう。

2023年時点で、92歳。

今も寄付活動で、米国政治、世界情勢に影響を与え続けているソロス氏から目が離せない。彼のことに興味がある人は読んで損はない本であると保証する。


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