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残された者の寂しさと共に、新しい道へと歩み出す

娘がロンドンへ旅立ちました。
2年間、イギリスで過ごす予定です。

昨年秋に仕事を辞め、新しい仕事を探そうとしていた矢先にタイミング良く渡英が決まりました。
お家が大好き、ミンちゃんが大好きな娘はかなり迷っていましたが、こんなチャンスはもうないだろうと行くことを決め、そこからずっと準備をしてきました。

そして私自身も。
娘が家を出て旅立つことへの心の準備をしてきました。

「娘」と言ってももう29歳。
自立して生きていける年齢です。
29年間充分実家暮らしをしたと思い、寂しさよりも「やっと旅立っていく」というホッとしたような、肩の荷が降りたようなそんな軽い気持ちでいました。

旅立った日はとても良い天気でした。
夜の飛行機だったので夕方家を出て、昼から夜へとグラデーションのように移り変わっていく空を見ながら車で向かい、成田空港に着いた時には暖かく柔らかなオレンジ色に光った美しい夕焼けに包まれていました。
外国人観光客や海外への旅行客の戻った空港へ入ると、混雑し混沌としていて、柔らかな外の空気とは違った熱さを感じるような活気がありました。

荷物を預け、母と妹と合流し、女子4人で空港の人の流れを見ながらお茶をして、時間になったので搭乗ゲートへと向かいます。
搭乗ゲートで一緒に渡英する友達2人とそれぞれのご家族と合流しました。
渡英することが決まってから知り合い、仲良くなり、一緒に行くことを決めた仲間がいることは娘にとっても私にとっても大変心強く、出会えたことへの感謝の気持ちでいっぱいになりました。

いざ搭乗ゲートで別れる時になったら胸が苦しくなり急に涙が込み上げてきました。
笑顔で見送ろうと思っていたし、そうできるだろうと思っていたのに。

娘も泣いていました。

娘は渡英する直前に、ミンちゃんと会えなくなる寂しさや、イギリスでやっていけるかの不安を話していましたが、行くのを止めるとは一度も言いませんでした。
寂しさや不安を抱えながらも、新しい道へしっかりと進もうとしている娘に尊敬の念を感じていました。

人生が大きくぐっと前進し変わっていく時こそ、大きな不安や寂しさ、喪失感を抱きやすいように思います。
その不安や寂しさ、喪失感を抱えながら、勇気を持って少しずつでも一歩一歩前へ進んでいくことで、自分の望む未来を作っていくことができるのだと思うのです。

「ここまで努力してきたから、絶対に大丈夫。寂しさや不安はあって当たり前だから。私も離れてしまうのが寂しいけれど、いつも応援してる」
と泣きながら娘を抱きしめました。
お互いに涙が止まるまで抱き合いました。
「ミンちゃんのこと、よろしくね」
と目を赤くしながら笑顔になった娘を、搭乗ゲートから見えなくなるまで、腕が痛くなるくらい手を振り続けながら見送りました。
笑顔になった娘を見ていたら、あぁ本当に大丈夫だなっていう気持ちになって、ホッとしました。

しばらく空港で母と妹と話し、車でそれぞれの家へ送って行き、家に着いたのは1時過ぎでした。
家に着いたら遅い時間にも関わらずいつものようにミンちゃんがお出迎えしてくれました。
いつもと変わらずにいてくれるミンちゃんの存在は本当にありがたいです。

暖かいお茶を入れてソファーに座ってミンちゃんがお膝にきて撫でていたら、いつもソファーで隣に座り他愛のないことをずっと話していた娘がもういないことへの喪失感が急に押し寄せてきて、声をあげて泣きました。
ミンちゃんがビックリしたような顔をしながら、私の涙に濡れた顔を舐めてくれました。
私もそんな自分にビックリしました。

心の準備をしてきたから大丈夫だと思っていたけれど、娘が旅立ったことはやはり私にとって大きな大きな喪失でした。
悲しみや寂しさは心の準備をしていても感じなくなったり弱くなるわけではなかったのです。

寂しさや喪失感を抱えながら、勇気を持って一歩一歩進んでいくのは旅立った娘だけではなく残された私も同じ。
そう気付きました。

別れの寂しさや悲しみ、喪失感はその人が自分にとってかけがえのない大切な人だからこそ感じるもの。 
その寂しさや悲しみ、喪失感にはそれだけの想いをさせてくれる大切な人に出会い一緒にいられたことへの喜びや感謝も含まれているなぁと感じたのです。

だからその寂しさや悲しみ、喪失感を感じないようにしたり、弱くしようとするのではなくその想いも大切にしながら、勇気を持って一歩一歩新しい生活へと前へ進んでいこうと思えました。

娘が旅立った最初の日曜日の今日は、スッキリと晴れて眩しいくらいに日差しが強く、澄んだ空気の中で新緑がぐんぐんと出始めキラキラと輝いています。
散ってしまい道路の端にふんわりと積もっていた桜の花びらはいつの間にかなくなっていました。

今感じている不安や寂しさ、喪失感も桜の花びらのようにゆっくりとふんわりとなくなっていき、私の人生も娘の人生も、さらにキラキラと輝いたものになるのではないかと希望を感じて、嬉しくなりました。

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