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海外MBA入学審査における面接官の思考と行動

今回は、海外MBA入学審査の裏側に片足を突っ込んだ記事です。

私が面接の時に、どのように準備したり、面接中に何を考えていたり、事後処理しているか、といった話です。

期待を裏切る部分もあろうと思いますので、先んじてお知らせすると、IESE(イエセ)内の他の同僚が同じ項目についてどのような行動様式でいるかはさほど感知していませんし、私にとっても重要ではありません。

共通の目的(共通の基準に基づいた評価)さえ達成できれば、その手段は多く個人に委任されていますので。

更に、他校の入学審査官がどうしているのかについても同様です。

そもそも海外MBAの場合、入学審査チームが直接面接を行わず、各地域の卒業生に主な質問リストを渡して彼らが面接を実施するケースが、特に日本だと多く、IESEのように入学審査官(但し、全員IESE卒業生)が直接面接するケースはやや少数派と思われます。

私としては意図が全く理解できませんが、日本語話者の卒業生が日本語で面接するケースも、トップ校であっても多少あるようです。

実際には英語があまり話せない人が入学したらどうするのでしょうか、本人は自覚があるでしょうし、私もそんな実例を知っていますが...

以下に記載する内容はあくまで私の場合であり、大きな個人差がありますので、それらの点を踏まえてご高覧ください。


面接前の準備

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1つの出願書類について、私はおよそ3回読みます。

熟読する1回目である程度記憶に残るので、2回目と3回目はある程度読み流す感じで前日〜当日にします。

その中でどんな会話にしようか考えます。

実際に投げかける質問は、1.どの受験生にも質問し得る質問としてリスト化してある中から事前に選ぶ質問、2.個人別に事前に検討する質問項目、3.その場の会話の流れ次第で考える質問、の3つに大別されます。

1と2の境界線はやや曖昧なこともごく一部ありますが、1は、例えば、「IESEが提供する奨学金に応募しているが、これを得られなかった場合にどういう財務計画になるのか」といったものです。

但し、全員にこの質問をするわけではないです。

例えば社費の方には当然しませんし、私費で奨学金に応募していてもこの点が既に書面上明確な方には聞きませんし、あくまで必要に応じて聞くというものです。

「1.どの受験生にも質問し得る質問としてリスト化してある中から事前に選ぶ質問」の私のリストには結構多くの質問を蓄積してありますので、どれを使うかはケースバイケースです。

「2.個人別に事前に検討する質問項目」と「3.その場の会話の流れ次第で考える質問」のみで全部の会話を構成できれば理想かもしれません。

ただ、現実問題、瞬間的に全ての質問(特に創造性を伴うもの)をその場で思いつくことは不可能です。

また、先の奨学金の質問のように状況によっては必ず聞かなければならない質問というのが存在するので、更にそれを失念しない意味でも、ある程度のリスト化は大事です。

「2.個人別に事前に検討する質問項目」については、出願書類の中から掘り下げて聞きたい内容になります。

色んなパターンがありますが、1つのパターンとしては、読んでいるだけでは理屈が通っていないあるいは説明が不十分のように感じられる内容などです。

他方、優秀な受験生になると、こちらの欲しがっている内容を思考まで含めて全て読みきっているのか、質問に真正面から答えつつ、限られた文字数の中で相当な量と質を伴った内容を提供してくることがあります。

ただ、この質量ともに充実した内容提供が、優秀のための必要条件であるかというとそういうこともないです。

特に日本はエッセイカウンセラーの手が入っている事例が多数なので、やはり話してみないとわからない、ということが他国より多い気がします。

また、言わずもがな、ここで言う優秀は、当然ながら、GMAT/GREのスコアは一切勘案したものではありません。

エッセイや経歴とスコアの間には何ら相関関係はないので。

私の事前準備は、この「2.個人別に事前に検討する質問項目」に比重を置いたものになります。

境界線が曖昧なこともあると記載した通り、結果的に、「1.どの受験生にも質問し得る質問としてリスト化してある中から事前に選ぶ質問」の派生系であることも、ままあります。

書面上の内容から優秀と見込まれる受験生であればあるほど、事前準備に時間をかけることが多いです。

1つの理由としては、書面上提供されている内容が既に充実していて何を更に掘り下げるか考える必要性が増し難易度も上がるからです。

もう1つの理由については次項に預けますが、面接に招待させて頂く方の場合、受験生1人あたりの事前準備にかけている時間(内部の議論の場を除く書類審査を含む)は、測ったことがないので感覚値ですが、40分以下程度な気がします。


面接中に考えることの一部

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事前準備の中で、「2.個人別に事前に検討する質問項目」に注力するもう1つの理由としては、こちらの質問自体で面接中に好印象を与える必要があるためです。

書面を熟読して更に思考を一段深めていなければ絶対に思いつかない質問をぶつけることで深いレベルでその受験生を真剣に知りその上で的確な判断を下そうとしています。

実際にそうだという本気度の高さを伝えたい、受験生が合格後入学の意思決定までに考える中で過去の面接で好印象を持った経験に立ち返って快く入学を決めてもらえるような状況を作っておきたい、といったことが関連してきます。

優秀かどうかに関わらず、面接は審査という側面もあります。

他方、最終的に他校と比較の上で入学を決めてもらう可能性まで踏まえて逆算すると、媚びないレベルで好印象を与え、ラポール(感情的な親密さ)を紡ぎ上げた、という結果を生み出したいと考えています。

例えば、先日、某欧州系の受験生(私の担当域外)を私が面接した際、香港を含む4つの国・大陸での居住・勤務経験がその方のエッセイに記載されていたところ、その中からあえて香港のみを選びそこでの文化的衝突等に関わる経験を掘り下げる質問を面接の初期段階でしました。

その狙いは、自分がアジア人ですので、その質問の終わりに、日本人としてはこうだからそれが同様に当てはまりうる、等、私からコメントを挟むことで、少しずつラポールを作り出していきたいという狙いがありました。

したがって、この質問自体は、やはり「2.個人別に事前に検討する質問項目」に該当します。

ですが、親密度向上のためには、ある程度「3.その場の会話の流れ次第で考える質問」を取り入れていくことも当然求められます。

また、ツッコミやコメントをしづらい受験生からの回答というのは当然存在するので必ず毎回それをできているわけではないですしその必要性もないとは思います。

たとえ「2.個人別に事前に検討する質問項目」に該当する質問をしたとしても、次の質問に移る前になるべく回答内容について反応を示したりします。

回答内容次第では、イメージしていた順番を変更してそれに関連しうるような「2.個人別に事前に検討する質問項目」を次に持ってきたり、「3.その場の会話の流れ次第で考える質問」と取り入れていくといったことを適宜行います。

逆に、書面上優秀と見込まれる方々とは異なる様相を呈する受験生の場合は、書面上の情報不足などゆえに、結果として「3.その場の会話の流れ次第で考える質問」がやりやすくなる部分もあります(したがって、事前準備も自然と短くなります)。

面接時間は1時間ですが、大体45分程度で一通りの質問を終え、残り時間は逆に受験生の質問に私がお答えする時間になります。

書面上記載されていることを再度言う・聞くことほどお互いにとって時間の無駄はないです。

私も出願書類をまともに読んでいない印象を与えそうなのが怖いので、書面上書かれた内容をなぞる必要はない旨、面接の冒頭で明確にお知らせしつつ同時にそれを誘導してしまいそうな質問を避けます。

その上で、それでもなぞっている場合は同じ質問に対して別の事例を示して頂くようお願いしたり、適宜柔軟に対応します。

受験生が優秀であればあるほど面接官としても神経を使うので、案の定とても優秀だったこの某欧州系受験生との面接終了後は、大変疲れました 笑

ただ、表面的なあるあるな質問ではなく深い質問ばかりをされたことについてその方から感謝の言葉を言葉と文面で貰いましたし、自分としては合格点な出来でした(毎回このレベルでできているわけでは必ずしもないです...)。

文化的な違いが顕著な地域からの受験生相手の方がこのようにうまくできる率が案外高い気がします。

受験生が本音でどう感じているのかは定かではありませんが、私が高い評価を差し上げている優秀な受験生は、多くの場合、面接の終わりに楽しかったという印象を抱いているようですし、私もラポールを築けている感覚があります。

楽しかったという言葉を私に投げかければ評価が上がるとかそういう話では全くありませんので、誤解なきよう 笑

ちなみに、入学審査官が、出願からそう離れていない過去に、それなりの時間1対1のカジュアル面談で1度以上お話ししている受験生の場合、別の入学審査官(同じくIESE卒業生)が本番の面接を担当することになるようグローバルに統一のルールがあります。

そのため、私はそこまで多く日本人の方を面接しておりません。


面接後の処理

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面接と面接の間には、必ず最低30分設けています。

同僚の中にはほぼ繋げてだったり15分の間しか持たせていない者もいます。

私の場合は、この時間にインタビューレポートを書き上げたいのと、その目的の1つでもある印象と情報が2人の受験生に関して混ざらないようスイッチを切り替えたいと考え、最低30分のバッファを設けます。

インタビューレポートのある程度の部分は事前に書面上の情報から埋めることが可能なのでそうしておき、15分以内に残りを書き終え、次の面接に備えます。

記憶はどんどん風化していくので、面接中でもこれだけは絶対記録しておこうということは、お話を伺いつつ、失礼にならない程度にキーワードをインタビューレポートの中にメモとして残して一時保存しています。

この時点では誰かと誰かを比べてという形でレポートや評価を残すことはないです。

但し、比較に基づきあるいはそうでなくとも何かしらの事情で自分の中で微調整を施した方がいいなと数日後に立ち返ることが稀にあります。

そう感じたら、入学審査委員会開催までにそのように対応して当委員会での議論に備えるイメージです。


おわりに

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それなりの分量を書いた割に付随しての更問が山程来そうな内容に仕上がってしまいましたが 笑、また気が向いたら、差し支えのない範囲で投稿するかもしれません。

受験生の皆様には、誰が面接官であれ、自然に会話を楽しむという意識を強く持って、小手先のテクニックに依存し過ぎないことをお勧めします。

既述の点は場数を踏みながら色々学んできた点なので、以前はもっと至らないことばかりでした。私も、引き続き面接の経験を重ねながら、面接官としても成熟していきたいと思います。



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