彼が引っ越ししたい理由。
うちの彼は、勤務先により近いところに住みたいと、以前から引っ越しを考えていた。が、つい先日、絶対に引っ越さねばならぬ新たな理由ができた。
その日の夜遅く、彼からの電話を取ると、どうやら何かと格闘中の様子だった。「どうしたん?」と聞くと、興奮と焦りが混じった声で、
ムカデ!!!
と、叫ばれた。
そう、あの百の足と書いてムカデ様が降臨されたのだ。
わーわー言いながらも彼はムカデ様を無事に外までエスコートした。
でも、「ムカデが出現した」という事実が衝撃&恐怖だった彼は、「寝れない!」を連呼していた。
私もあのぞわぞわした感じと、何より刺されるかもという恐怖がよくわかるので「うんうん」と話を聞いていたが、普段そこまで虫を恐れるイメージがなかっただけに、申し訳ないが可笑しさも内心感じていた。
ただ、侵入経路は本当にわからない。聞けば、窓もベランダも開けていなかったと言うし。彼の家はマンションの一階だから入りやすいのかもしれないけれど、そもそも雑木林も近くにない道路の横の建物によく侵入されたものだ。もしかしたら排水口から来たのかもしれないが、想像するだけで心がざわつく。
私は気を紛らわそうと全然関係のない話を始めた。でも結局ムカデの話と「もう寝られない、今日は無理。」に戻るので、しまいには母のような気持ちになってきた。
「今日はもう大丈夫。仕事もあるし寝よ。」
ヨシヨシとなだめていたが、私は私でパソコンでもう少し作業をしたかったので、電話の向こうでゴニョゴニョ言ってる彼をBGMに、パソコンをカタカタしていた。
しばらくして、落ち着いたのか静かになったので、彼の名前を呼んで安否確認をした。
「〇〇くーん」「〇〇くーん」
おかしい。嘘やん。
スマホを耳にあてると、
スーッスーッスーッ
ね、寝ているだと…?!
スピーカーフォンに戻したら、今度はより大きな音で寝息が聞こえてきた。
寝たんかいっ!
後日、同僚にこの話をしたときに言われたツッコミだが、私も心の中で同じツッコミを入れていた。
(ほらな。寝れるやん…。)
「彼氏さんには、黙っておいたほうがいいと思いますが…」
前述の同僚は私に言いにくそうに続けた。
「うちの実家では、ムカデはつがいでいるって言うんです。だから一匹出たらもう一匹もいるっていう…。」
私、絶句。
そうなの?!そんな名前を呼んではいけないあの人(G様)みたいに、一匹いるってことは複数いるよ的な動物なの?!
後で調べたことだが、どうやらムカデが「つがいでいる」というのは、違うらしい。
詳しくは調べていただきたいが、ムカデは非常に子煩悩で、子どもが自分で餌を取れるようになるまでは親子(母子)で行動するそうだ。
つがいではないにしろ、4月・5月から秋まで繁殖シーズンのようなので、警戒は怠らないのがベターだろう。
まったく油断も隙も無い…。でもムカデを退治したとしても、パートナーが復讐しに来ることはないようなので、それは良かった。
それこそ眠れなくなる。
そんなこんなでムカデに遭遇した彼。数日経ったが、引っ越しへの思いは強いらしく、一年後に向けて「次はこんなところ、あんなところ」と、アイデアが浮かんでいるようだ。
ただ、ムカデは一階だから出現するというわけでもないとのこと。
もしかしたらムカデとの闘いはまたあるかもしれないな…あはは…と、遠い目になっている自分がいる。
まあ、その時は戦力になれたらいいな。
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