パラレル to LOVEる・第2章〜Everything Everyone All At Once〜⑩
――――――なにがあったんだ?
ゲルブの表情と口調から、ただならぬ気配を感じたオレが問いただす前に、ブルームが確認するようにたずねる。
「ヤツらが動いたのね?」
「まさか、初日の放課後から、接触してくるなんて……」
緊迫感を漂わせながら語り合うふたりに問いかけるように、
「おい、いったい、ナニが……」
と、疑問を口にすると、こちらが言い終わらないうちにゲルブが答える。
「警護対象の河野雅美が姿を消したらしい……」
「ちょっと、待て! 河野には、アンタらの仲間の山竹が一緒についてるんじゃなかったのかよ?」
「そうだったんだけど……ブラウ……山竹さんが、文芸部の部員たちの対応をしている間に、桜木先生に呼び出されて、待機していた図書室を出て行ってしまったらしいんだ……」
「河野と連絡は取れないのか!?」
「だから、ブラウが、こっちに連絡を取ってきたんだろう!?」
友人の姿をしたゲルブの反論に唇を噛む。
小学生のときからの仲である冬馬と会話をするように、相手に憤りをぶつけても、そんなことで状況が良くなるわけではないことはわかっているのだが……。
たがいに、言葉をぶつけ合ったオレたちに対して、そのようすを眺めていたブルームが、冷静に言葉をかけてきた。
「河野さんを連れ出した人物が特定できているなら、まだ、打つ手はあるわ。玄野くん、私たちの事情に巻き込むことになって申し訳ないのだけど、この状況を解決するために協力してくれない?」
彼女からの申し出に、間髪入れず返答する。
「もちろんだ! 河野の身に危険が迫っているのは、オレにも原因があるからな」
「ありがとう! それじゃ、私は放送室から桜木先生を呼び出す放送をかけてみるわ。ふたりは、手分けして、河野さんと先生を探してちょうだい」
「「了解!」」
息のあった親友のように声を揃えたオレとゲルブは、新聞・放送部の部室を飛び出す。
「オレは、各校舎の屋上を探してみる! そっちは、音楽室や吹奏楽部が練習をしている場所をあたってくれ! それと、スマホはいつもどおりに……」
こちらの言葉に、
「オッケー!」
と返事を返した親友の姿をした捜査官は、音楽室のある4号館に駆けていった。
中身は、別人ということなのだろうが、ガキの頃からよく知る黄田冬馬と同じく、ゲルブは、いざという時に頼りになるヤツだ、と感じる。
走り去るその姿を確認したオレは、冬馬と緊急事態に巻き込まれた時に行うと決めている操作を行うと、部室のある3号館の屋上に向かうことにした。
そこは、吹奏楽部でサックスを担当している河野雅美が、放課後の練習に良く利用している場所なのだ。
部室で校内や校外向けの広報誌を作る際、放課後は、部室にこもることが多いのだが、その時に、彼女が演奏の練習をする音色が良く聞こえてくる。
「私が練習してる音、部活動の迷惑じゃないかな?」
奥ゆかしい性格の河野らしく、そんなことを聞いてきたりすることもあったが、オレは、
「いや、作業用の心地よいBGMとして聞かせてもらってるよ」
と、返事をしたのを覚えている。
自分たちの部室のある3階から、1フロア上にある屋上への階段を駆け上がり、校舎の屋上につながるドアを開ける。
バンッ――――――
と、勢いよく開いたドアの向こう、十メートルほど離れた場所に、捜索対象の女子生徒とともに、吹奏楽部の顧問を務める教師が立っていた。
この時期の人工島は、海風とともに、山の手側から吹き下ろす風で、気象台から発表される気温より、体感気温が冷たく感じる。
そんな外気にさらされる中、部員である河野を呼び出したからには、なにか、重要なことを話し合うことがあると考えるのが普通なのだろうが……。
ドアが開け放たれた音に反応しなかっただけでなく、親友と上級生の姿をした自称・銀河連邦政府の捜査官の話しを聞かされた身としては、ふたりの様子から、ただならぬ雰囲気を感じる。
ふたりに対して、どのように声を掛けるべきか考えようとした、まさにその瞬間、屋上フロアに設置された校内放送用のチャイムが鳴り、
「桜木先生、桜木先生。職員室までお戻りください」
というアナウンスが流れた。
放送を耳にした吹奏楽部の顧問は、あたりを見回し、ようやく、オレの存在に気づいたようだ。
「おや……玄野くんですか? 放課後に、なんの用でしょう?」
「先生こそ、河野を屋上に連れ出して、なんの用なんですか? 職員室に呼ばれているようですけど、急いで戻らなくて大丈夫なんですか?」
「ここは、河野さんが練習で良く使う場所ですから、なにもおかしなことはないと思いますが……それに、いまの放送の声は、三年生の荒金さんのものですね? 僕は、進路指導を担当しているわけではないので、卒業間近の三年生に呼び出されるような覚えはないのですが……」
余裕たっぷりと言った表情でとぼけたようなことを口にする顧問だが、そのかたわらに立つクラス委員の姿は、明らかにようすがおかしいことが見て取れる。
十メートルほど離れた場所からでも、河野雅美の瞳は、焦点が定まっていないことがわかるのだ。
制服の胸ポケットに入れておいたスマホが反応したことを確認したオレは、教師の姿をした相手に対する言葉遣いとしては礼節に欠けるのは承知の上で、問いただす。
「河野に、いったいナニをしたんだ!? アンタ、やっぱり、『ラディカル』とかいう組織の人間なのか!?」
すると、吹奏楽部の部員から『イケメン粘着悪魔』と呼ばれる顧問教師は、
「おやおや……もう、僕の正体に気づいているのですか?」
と口にして、ニヤリと口角を上げた。
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