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「最悪の事態」を考えれば、正確に計画を立てられるのか?(1) ー計画錯誤と悲観的シナリオー

人は自分がこれからしようと考えていること、例えば料理や仕事にかかる時間を見積もると、

必ずと行っていいほど「楽観バイアス」が働いて、無意識のうちに楽観的に見積もり、実際に掛かる時間は見積もった時間を超えてしまう、

「計画錯誤(Planning Fallacy)」という傾向について以前書きました。

様々な分野、折り紙からソフトウェア開発まで、時間の見積もりを研究していった結果どの分野にも共通して引き起こされるこの傾向は面白い結果を呼びました。

今回は、この「楽観バイアス」を直接克服するために、被験者に介入をしたNewby‐Clark, I. R. et al. (2000)の研究をご紹介します。


楽観的シナリオを描くなら悲観的シナリオを

研究の着想は至ってシンプルです。「楽観バイアス」が働くならば、「悲観的なシナリオを考えさせれば良い」というものです。

この研究によって「楽観バイアス」がどの程度の強さを持っているのかを検証することもできます。

実験1:楽観的・現実的・悲観的の三種のシナリオを比較

実験1では、大学生78名を対象として、3グループに分けられた。三週間を最大の期間とした大学の宿題をするために、次の三種類のどれか「ベストケース(楽観的)」「現実的なケース(現実的)」「最悪のケース(悲観的)」を見積もり、そのあと、最後にもう一度その宿題をするための時間を見積もり、実際の宿題をするための時間と比較した。

そして、課題を完了した時、はじめの三種類の見積もりの効果があったか被験者に評価してもらった。

結果は以下のようになった。

結果1:楽観的シナリオと現実的シナリオの見積もり時間は近く、悲観的シナリオはその二つと大きく離れていた。

結果2:最終見積は三種類の見積もりに影響されなかった。特に最悪のケースを考えたグループは最終的な見積もりの参考にしない傾向があった。

結果3:実際の課題完了時間は、三種類の見積もりに影響されなかった。

結果4:どの最終見積も「楽観バイアス」の影響を受け、短く見積もられた。さらに、その短さは三種類の見積もりに影響されなかった。

結果5:三種類の見積もりのインパクトは被験者になかったと評価された。特に最悪のケースは取り入れられなかった。

という結果だった。ここから導ける結果とはどのようなものだろうか?


実験1の結果から何が言えるか?

まず、一つ言えることは、「悲観的なシナリオ」を描いたとしても、人はそれを取り入れにくい傾向があるということだ。

これは以前にも書いた「確証バイアス」のプロセスと似ている。

「楽観バイアス」の影響は、事前に「最悪の事態」を考えたとしても、楽観的に考えて見積もった「ベストケース」を採用し、進めてしまう。

よくプロジェクトマネジメントでは「最悪のケースを考えてタイムライン」を組むという話があるが、実際にはそこまで効果がないようだ。

しかし、今回の場合には「最悪のケース」ということで見積もらせていることにこの実験の問題点があるかもしれない、とNewby‐Clarkらは指摘する。

つまり「最悪(Worst)」とそもそも言っているので、採用しないのではないか、ということだ。

そこで、実験2へと研究はつながっていく。アプローチを変えた実験2はまた後日。



今回の記事は下記の論文を参考にしたものです。

Newby‐Clark, I. R., Ross, M., Buehler, R., Koehler, D. J., & GriYn, D. (2000). People focus onoptimistic scenarios and disregard pessimistic scenarios while predicting task completiontimes.Journal of Experimental Psychology: Applied, 6,171–182.

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