「私の個人主義」

昨年、一昨年に、新潮文庫で出てる小説は全部読破した漱石ちゃん。講演の名手だったなんて知らなんだ。

前置きが長いけど、多数の聴衆に向けて、身近な下世話な細かい話から入って、段々とテーマに沿った話を展開していく流れは流石だねぇ。

胃潰瘍で入退院を繰り返してた時だから苦しかっただろうに。

当時は録音技術なんてないだろうから、全部、聞き取り速記なのだろうか?

大まかに、道楽と文学の関係、明治の開化文明論、そして、晩年の漱石ちゃんの生き方である「自分本位(則天去私)」を簡易に説明する。

明治の文明開化について、「現代の文明は、完全な人間を日に日に片輪者に打崩しつつ進むのだと評しても差支えがない。吾人は開化の潮流に押し流されて日に日に不具になりつつあるのは確か」として、文明開化に浮かれる人々を完全に否定している。

さらに、歴史ある西洋の文化をすぐに取り入れたからと、それがすぐに定着するものではなく、うわべの開化であって、便利なもので出来るだけ労力を節約したいとする願望から出て来る種々の発明とか器械とかと一緒に、従来の出来るだけ気ままに勢力を費やしたいという道楽・娯楽が、混在しているという不思議な現象が起こってるという。

西洋の開化は、自然に出て発展する様な内発的であって、日本の開化は外からの力でやむを得ず一種の形式を取る外発的なものとしている。

さすがは漱石ちゃん、鋭いね〜。

表題の講演は、将来、特権階級になるであろう学習院大学の学生に向けて行われたもの。自分の居場所を見つけるまではトコトン突き進みなさいと諭して、漱石ちゃん自身が「自己本位」に達するまでの経緯を話し、それに対する強い覚悟が表れていると思う。

「諸君が本業に費やす時間以外の余裕を挙げて文学書をお読みにならんことを希望するのであります」とも。

俺はまだまだ「則天去私」ぢゃなく、「天上天下唯我独尊」だなぁ。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。