【洋画】「リンカーン」

第16代のアメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンの、南北戦争時の、奴隷制廃止を盛り込んだ“合衆国憲法修正第13条”の採決を巡る伝記風映画「リンカーン(Lincoln)」(2012年)。

監督は、巨匠スティーヴン・スピルバーグで、短期間で撮影し、冒頭に本人がメッセージを寄せるなど、並々ならぬ意志みたいなものを感じる映画だ。

リンカーンの56年の生涯のうち、奴隷制廃止の「修正第13条」の下院での採決に奔走する議員たちを中心に、たった2ヶ月間を描いたもので、リンカーンの暗殺も、支配人が「フォード劇場で大統領が撃たれました!」と言うだけ。

つまりは、リンカーンの特色である演説(人民の、人民による、人民のための〜ってヤツ)と奴隷解放と暗殺の3つが全て具体的に描かれてないのだ。

ただリンカーンはじめ、議員たちが奔走する話なのだ。

当時は民主党が奴隷制度維持(南軍)で、共和党がリンカーンもいた革新(北軍)だったのだねぇ。

政治ってのは、ある真理を現実のものにする(法案)のに、大衆への宣伝活動をはじめ、根回しや駆け引き、ロビー活動、説得工作、懐柔、メディアの利用等、身を削る努力を散々やって、反対派を抑えて、ようやく議会で多数決を確保する(3分の2の票を取る)という、まさに、忍耐力、強固な意志と自信がなければホントにやってられないね。もしくはトンデモなく狂うかだ。それに身内をも犠牲にする覚悟がなきゃやれないだろう。

リンカーンよりも、彼の意志を法にして多数決を取るという周りの議員たちの、反対派となんとか妥協点を探って行くという並々ならぬ努力がよくわかった。時には裏ルートを使ったりして。

法案は採決されたけど、挙げ句の果てには暗殺されて、“歴史の人”になったら…と思うとなんだかなぁ。まあ、それが政治なのだろうけどさ。映画でもリンカーンがストレスでかなり老けて見える。

議員たちの意見。
「神が等しく作らなかった人間を議会が平等と宣言してはならない。自然の摂理に反する。神をも冒涜するものだ」
「私が信じるのは全ての平等ではなく、法の前の平等だ。あなたのような下劣な爬虫類みたいな人間にも法の下では平等に扱われる」…。

当時の政治家たちが当たり前のように黒人や女性たちを白人男性よりもずっと下に見てたことがよくわかる。たかだか150年ほど前のことだけど。

政治の表向きの理想だけでなく、実際に票を確保するための、裏も含めてドラスティックな現実の動きを描いたのは、さすが巨匠スピルバーグかもしれない。政治のリーダーってこうじゃなきゃ務まらないよね。政治はただ反対するのではなく、なんとか妥協点を探って、前に進むことだと訴えたかったのかも。結果は後からついて来ると。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。