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ブラチスラバ②[2024.2.24]

大聖堂を出て、灰色の石畳の坂を上った。坂道はブラチスラバ城へ向かう観光客であふれている。アーチをくぐって城の中に入る。弧を描くように道が続いている。右手の看板によれば、ブラチスラバ城に人が住み始めたのは紀元前のことらしい。1526年に城はハンガリー王の住居となる(1526年といえばモハーチの戦いだ。ハンガリー王兼チェコ王ラヨシュ2世がオスマン帝国に敗れたため、ハンガリーとチェコはオーストリア・ハプスブルク家の支配下に入ることになる、ということは今回の旅行記で何度か言及している。ブラチスラバ城がハンガリー王の住居になるというのは、このことと関係しているのだろうか)。マリア=テレジアの統治期には、城は豪華なゴシック様式の建築に生まれ変わった。

坂をのぼりきると、薄い肌色の壁にオレンジ色の屋根のかわいい建物が見えてきた。これがお城?えらくメルヘンチックである。城の中に入る前に、城の左手に続く建物に入った。なぜならトイレに行きたいから。ヨーロッパは有料のトイレが多いが、ここのトイレはどうだろうか。トイレは階段の下に続いていた。すでに10日ほどヨーロッパに滞在しているが、これから向かうトイレが有料なのか無料なのか、未だにソワソワする。結局、城内のトイレは無料だった。心の中でガッツポーズをして、用を足した。

城の入り口付近に戻ってきた。人が頻繁に出入りしている。現在、城の中は国立歴史博物館として使われている。そんなに大した博物館ではないのだろうと入館前は見くびっていたが、このあと予想を大きく裏切られることになる。

城壁からは街の景色がよく見える。聖マルティン大聖堂が高くそびえ立っているのが印象的だ。その奥を流れるのは、やはりドナウ川。人々はドナウ川とその上にかかる橋を背景に、写真を取り合っている。 

城の中の歴史博物館に入った。学生は一般人の半額で、7ユーロで入ることができる。安い。カウンターのおばさんは親切に対応してくれた。オーストリアやハンガリーではスーパーの店員の対応が無愛想だっただけに、好感を覚えた。

博物館は城の歴史から始まる。10世紀を過ぎると、現在のスロバキアの領土はハンガリー王国の支配化に置かれた。1241年にモンゴルが進出し、ハンガリーは荒廃。石の要塞は防衛にとって効果的であるということがわかり、ベーラ4世が要塞の建築に尽力した。15世紀にはルクセンブルク家から出た神聖ローマ皇帝で、のちのハンガリー王兼チェコ王のジギスムント(1387-1437)が城を改築している。

やがてオスマン帝国が力をつけてきたことから、1526年にはモハーチの戦いでオスマンとハンガリーがぶつかる(!)。この戦いのあと、ブラチスラバはハンガリーの首都・植民市となり、ブラチスラバ城はハンガリー王の住居となった。また、ハンガリー王位はオーストリア・ハプスブルク家のフェルディナント1世(1526-1564)が継承することになる(これで冒頭の疑問は解消された)。フェルディナントはジギスムント時代の王宮を改築した。

いくつかの展示室を経て、暗い部屋に入った。大量の陶磁器(holic, 良い訳が見つからない)に光が降り注いでいる。陶磁器は文明の象徴だ、と書いていた台湾の故宮博物院を思い出した。

陶磁器産業は、1716年から1718年の墺土戦争でパサロヴィッツ条約を結んだあとに始まった。オスマン帝国が支配していたハンガリーの領土の多くが返還され、陶磁器産業は国内市場の需要を満たすと共に輸出のための手段となった。とりわけ18世紀後半に栄え、ロココ様式の装飾を伴う製品が作られた。ナポレオン戦争期は国の財政状況が悪くなり、消費需要も減退した。原材料が手に入らなくなり、1827年にはかろうじて残っていた工房が一斉に閉鎖されたとのこと。

ナポレオン戦争が国内産業に与える影響というのは、新鮮で面白い。暗い部屋に浮かび上がる陶磁器はとても美しくて、ゆっくり2周ほど見て回った。

部屋の外に出るとグッズ店がある。分厚い本がたくさん並んでいるが、何が書いてあるのかさっぱり分からない。奥の方にはまだ部屋が続いていそうだ。

世界史の年号が並ぶパネル。これはすごい!パネルを1枚にまとめたパンフレットを配ってくれれば良いのに。あわよくば、このパネルごと持って帰りたいところだ。

最近の出来事はどこまで書いてあるのだろう。2001年が同時多発テロ。2013年がウクライナ危機、ユーロ・マイダン革命とある。ロシアがクリミアを併合し、ウクライナ東部で戦闘が起きた。2015-2016年はヨーロッパの移民・難民危機。どうやらヨーロッパでは(少なくともスロバキアでは)、この3つが21世紀における一大イベントのようだ。スペースの関係もあるかもしれないが、日々ニュースが更新される中、この3つが今のところ21世紀を代表するイベントと捉えられているのは、興味深い。

まだ部屋は続いている。今回はここまでにしておこう。


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