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お正月おうち映画の日

【注意】
このnoteは、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのネタバレを含みます。

正月だ。仕事を辞めたため、今年は例年よりも時間がある。せっかくだから正月らしい正月を過ごしたい。しかし、お節も作っていないし、鏡餅も飾っていない。悩んだ結果、私は自宅で映画を観ることにした。

サブスクのストリーミングサービスから、視聴可能な映画を探す。どうせなら、気負わず観られるものがいい。選んだのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。主人公はマイケル・J・フォックス演じるマーティ・マクフライ。「ドク」と呼ばれる科学者とともに、タイムマシンで過去と未来を飛び回る……。ベタといえばベタだけれど、小さい頃から「金曜ロードショー」でさんざん観てきたはずなのに、話の筋を全く覚えていない。その割には、「面白かった」という印象ばかりが頭に残っていた。

テーブルの上にポテトチップスと炭酸飲料を用意し、再生ボタンをクリックする。数十年ぶりに観る『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。所々のシーンは何となく覚えていたけれど、初めて観るような感動がある。それぞれのセリフとカットに必然性があり、ひとつの無駄もなくストーリーが転がっていく。そう感じるたびに、ひとり画面の前で感嘆の声を上げていると、あっという間に見終わってしまった。

早速、以前、この映画が大好きだと話していた友人にスマホで連絡を入れる。すると、こんな返信が来た。

「やっぱり面白いよね〜。小学生のときにお小遣いでVHSで買ったもん! ところで、レッチリのフリーが出てたの、知ってる? 『2』だったかなぁ?」

え?! そんなの知らないぞ! ロックバンドのレッド・ホット・チリ・ペッパーズのベーシストであるフリーが、あの映画に出演していたなんて……。それを知ってしまった以上、この流れで『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』を観るしかないではないか……。

サブスクの画面から、『PART2』を探す。『PART1』はレンタル料金の400円がかかったが、『2』も同様だ。合計で800円。まあ、映画館に行くよりはずっと安い。飲み物がなくなっても、冷蔵庫からペットボトルを出せばすぐに補充できるし、ここならホットコーヒーも飲み放題だ。私は、『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』の再生ボタンを押した。

どこでフリーが出てくるのか。画面から目が離せない。再度、フリーの外見をインターネットで検索し、”すきっ歯で坊主頭”の青年が映り込んでいないかと目を凝らす。出演の仕方も、ちょっと見切れるくらいなのか、しっかり顔が映っているのか……。そうやって「フリー探し」をしながらも、私はまたもや映画の面白さに感心していた。そして物語はあっという間にクライマックスを迎え、エンドロールが流れ始める。

「え? どこで出てきた……?」

困惑しながら、画面の下から上へと流れていくアルファベットを目で追ったが、「Flea(フリー)」の文字は見当たらない。いったいどのシーンに出てきたというのだろうか。もう一度、友人に連絡を入れる。

「車のレースみたいなのをふっかけてくる役だよ! あれ、『2』じゃなかったのかなあ……?」

……そんなシーンなかったぞ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のシリーズは『PART3』まで。ここまでで出てこなかったのだから、フリーの出演作は確実に『3』ということになる。正月らしさを感じたくて始めた「おうち映画鑑賞」だったが、まさか、シリーズものをイッキ見することになろうとは。『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』は、幸いなことに無料配信されていた。

期待通り、『PART3』も安定の面白さだ。こうして続けて観てみると分かるのだが、前作・前々作のオマージュのようなシーンもいくつか出てくる。私は映画ファンでも何でもないので、偉そうに映画評なんてできないけれど、かつて子ども心に感じた「面白かった」というあの印象は、間違いがなかったのだ。

さて、肝心のフリーの出演シーン。それは映画の終盤に訪れた。物語の始まりである1985年に戻ってきた主人公のマーティは、ガールフレンドを車の助手席に乗せ、信号待ちをしている。すると横に、チンピラたちを乗せた車がやってくる。そのハンドルを握っていたのが、フリーだった。髪型は坊主というよりモヒカンに近かったが、ニヤけた口元にチャーミングなすきっ歯が覗いている。フリー演じるチンピラはマーティに、信号が変わったら勝負をしようとレースを持ちかける。マーティが大嫌いな、彼を挑発する言葉を使って。

「お前はチキン(腰抜け)なのか?」

シリーズを通して、マーティはこの言葉をきっかけに、たびたび厄介ごとに巻き込まれてきた。中年になった彼が会社をクビになるのも、自分の息子に扮した際に出くわした不良少年のケンカを買ってしまったのも、このセリフが発端となっている。しかし、物語の最後に持ちかけられたカーレースの勝負に、結局彼は乗らなかった。信号が青になると、フリーの車だけが猛スピードで走り出す。前方には交差点に侵入する1台のロールス・ロイス。チンピラたちは何とか衝突を免れたが、もしもマーティが勝負を受けて突っ走っていたら、大事故になっていたところだった。こんな大切なシーンが、フリーの出番になっていたとは。

挑発に乗り、カッとしてしまったために、未来が台無しになってしまうことがある。物語の中でそれを学んだマーティは、勝負を降りる勇気を覚えたのだ。カーレースのシーン同様、その前の、西部劇さながらの決闘シーン(時代は1885年)でもそれは窺える。通称マッド・ドッグ・タネンの名で恐れられる町の悪党から持ちかけられた一対一の勝負に対し、マーティは話し合いでの解決を提案する。タネンは彼を出し抜き銃弾を放つが、マーティが事前に仕掛けておいたアイデアのおかげで彼の命は助かり、結局タネンは打ち負かされる。

3作を通してずっと面白かった『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズだったが、実は私が唯一涙ぐんでしまったのが、このあとの場面だ。マーティが決闘に備えて持っていた銃一式を、「一度も使わなかった」と言って手放すシーンである。「腰抜け」と挑発されても、勝負から降りる勇気を持ち知恵を使ったおかげで、銃に頼ることなく(拳には頼ったが……)勝利した主人公。その姿に、私は何だかものすごく感動してしまったのだ。

挑発に乗らず、未来のためによく考えること。知恵を絞って流血を回避すること。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作の鑑賞を終え、私はそれらについてしみじみと考えていた。私はこの映画のおかげで、よい正月が迎えられた。明日からまたがんばれそうだ。

しかしこの感動はやはり、シリーズ全てを見終わったからこそ味わえたものなのだろう。改めて、私をこの場所まで連れてきてくれたレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーに感謝したい。

追記:あとで調べたところ、フリーはPART2にも出演していることが分かりました。どの場面に出てくるか、探してみて下さいね!

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