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冬の空、アウスゲイル。

今日、レコードを買いに行った店に、アイスランドのアーティストであるアウスゲイルのCDが並んでいた。そういえば5年ほど前、私は彼の曲をよく聴いていた。

その冬、自宅の風呂の給湯器が故障したせいで、年末が近いというのに家の風呂に入れない日々が1週間ほど続いた。家の近くの銭湯を調べてみたが、遅い時間までやっているところが案外少ない。早めに仕事を切り上げて、夜の銭湯に向かう。風呂に入るために、残業時間をやりくりするなんて、ちょっと変な感じがした。

結局、自宅の徒歩圏内には遅くまで開いているところがなく、家に帰る途中の、降りた事もない駅で下車し、名も知らぬ商店街の外れにある小さな銭湯に入った。いつも同じ場所に行っても面白くないと思い、同じ沿線のいくつかの銭湯に足を運んだ。どの街も、どの駅も、あまり人通りがなく静かだった。

せっかく身体を温めても家に着くまでには冷え切ってしまうそうだったが、入浴しないよりはマシだった。短い時間でなんとか温まり、よく髪を乾かして、マフラーを首元に巻きつけて銭湯を出る。

誰もいない駅のホームの上で、寒さをこらえながら電車を待った。その時よく聴いていたのが、アウスゲイルの『スターダスト』という曲である。張り詰めた冬の寒さの中で彼の曲を聴きながら夜空を見上げていると、行ったこともないアイスランドの地にいるような気分になった。実際は星なんてたいして出ていなくて、灰色の雲が広がっていたのだけれど、幻想的で浮遊感のある曲と空気の冷たさがあいまって、北欧の星空の下に立っている気がした。

年末に給湯器が壊れるなんて悪夢にはもう見舞われたくないが、あの幻のような感覚を、私は時々いとおしく思い出す。

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