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本の世界

同世代の友人に誘われ、外で夕食を食べることになった。

待ち合わせ場所に行くと、その友人の他にもう1人、見知らぬ若者が座っていた。彼は友人の友達で、私たちよりも一回り以上年下だという。昨年社会人になったばかりで、初々しさが眩しいほどだ。

若者を挟んでカウンターに座り、3人で飲んでいるうち、本の話題になった。私の友達は、今読んでいる本の話を楽しそうにしている。

「本はとってもいいよ〜。書いてあることを全部鵜呑みにする訳じゃないけど、ああ、こういう考え方もあるんだなぁ、っていうのがわかるから」

しみじみと語る友人の話を、普段はあまり本を読まないというその若者も、とても素直な表情で聞いている。

「もう10年以上前のことだけど、自分が新入社員の時、上司の人に言われたんだよね。収入の1割を自分のために使いなさいって。それで本を買うようになって、結局ことあるごとに、本には助けられてきたなぁ」

その友人のエピソードを聞いて、私は驚いた。上司にではなく、大学の先生からだったが、私も同じことを言われたことがある。そして私も収入の1割を、本の購入に充てるようになったのだ。何かの講習会に行くより、通信教育をやるより、自分で書店に行って本を選び、買って読むということが、何だかすごくわかりやすい自己投資に思えたのだ。

その後も、友人は若者に一生懸命「本の良さ」を伝えていた。本来なら、今出版の業界にいる私がこういう役割を担うべきなのかもしれないけれど、友人による「本の世界への勧誘」が、あまりに純粋で情熱がこもっていて、私が出る幕はないように思えた。

ああ、こうやって、本を愛する人が、本を愛する人を増やしていくのかもしれない。何て素敵なことだろう。

「次会うまでに、読んでおきます」

若者は、友人と私が勧めた本を確認し、ニコニコと帰っていった。

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