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【読書感想文】傲慢と善良

辻村深月さんの『傲慢と善良』が面白かった。

ざっくりとしたあらすじは以下の通り

婚約者・坂庭真実が姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。「恋愛だけでなく生きていくうえでのあらゆる悩みに答えてくれる物語」と読者から圧倒的な支持を得た作品が遂に文庫化。

Amazonの商品説明欄よりコピペ

行方不明になった坂庭真実と、彼女を探す西澤架は婚活で知り合ったカップルだ。この本は「恋愛ミステリの傑作」とされているが、「恋愛婚活ミステリの傑作」というほうがしっくりくる。婚活の真理が詰まった「婚活本」と言ってもいいかもしれない。


この本に出てくる登場人物たちは、なんだかすごく身近で、「周りにこういう人いるよね」という既視感がある。(既視感があるどころか、「自分にも当てはまる」という点も多い。)


恋愛になるといきなり傲慢になる人は多い。

本の中で、「なんだかピンとこない」というのは「自分の価値を高く見積もっているからだ」という趣旨の文がでてくる。

婚活をしていて、相手に対して「良い人なんだけどなんか違う」と思うのは、「自分はその程度のレベルではない」と思っていることと同じだと。そしてそれは傲慢であると。

そんなことを言う自分はどうなんだ?という客観視ができず、「良い出会いがない」「うまくいかない」と相手の文句を言ったり理想を押し付けたりする。

たしかになぁ。それはあるよなぁ。
読んでいて思った。

私も図々しく相手に対して「なんか違う」と思っていたことがよくあった。(あっちからしたって「なんか違う」と思われていただろう。)

その「なんか違う」にはこれといった理由はなくて、「優しい人なんだけどなぁ」「仕事も頑張っている人なんだけどなぁ」と、「相手の長所」のうしろに「なんだけど」が続く。特に「これが絶対いや」「めちゃめちゃ性格が悪い」と重大な欠点や相違点があるわけではなく、むしろ良い人であることが多い。ただ「ピンとこない」のだ。

私を含め、多くの人がその「なんとなく違う」という気持ちの原因を探すことなく次の出会いへとコマを進めるわけだけど、この本を読んで、その気持ちに名前をつけるとするなら「傲慢」であることがわかった。

たしかに、よく考えてみれば紛れもない傲慢だ。


でも、主人公である坂庭真実はこんな風に言っている。

「相手とキスをしたいと思えない、という理由だけで断ってはいけないのか。」

彼女はいわゆる「モテるタイプ」ではない。
異性との交際経験がなく、頭が良いとかキャリア思考であるわけでもなく、ただ過保護な親の期待に応えて「いい子」として30代を迎えてしまった善良な子だ。

すごく魅力的かと言われるとそうではないスペックの彼女だが、そんな彼女にも「こだわり」はあって、紹介されたお見合い相手を自分からお断りする。

「そんなことくらいで」
「理想が高い」
「結婚と恋愛は違う」

周囲にはそう言われる。

でも、「一緒に暮らせても、キスもセックスもしたくなかったら、それで、夫婦になれるのだろうか。」と彼女はいう。


たしかに、それも真理だ。

「あの人はなんだか合わない」「この人もなんだか違う」
そんな風に切り捨てていくのは「傲慢」であるけれど、でも結局恋愛というのは理屈じゃなかったりする。

「この人は私と同じくらいの年収で、顔面の偏差値も同等レベル。共通の趣味もいくつかあるし、私に相応しい」と合理的に判断できないのが人間だ。

「なんとなくいいな」という感覚がある。

私は特に運命とかを信じているわけではないけれど、でも「ピンとくる」という感覚が何かは何となくわかる。


私は夫に出会った時、まさにそれだった。

嫌なところがひとつも見つからない。完璧なのだ。

彼が完璧人間である、ということではない。
全人類が彼と結婚したがるような理想の男性だとはもちろん私も思っていない。
欠点だってあるし、億万長者でもなければ聖人君子でもない。

でも、私にとっては完璧で、そしてそれで十分なのだ。


待っていればそういうことが起こると私は思う。
他の誰かにとってはピンとこない人でも、私にとってはピンとくる人との出会い。
”みんなの王子さま”ではなくて、”自分だけの王子さま”は現れる。


だから結果として、私は婚活において「傲慢であること」は悪いことではないと思う。
「傲慢」というのはなんとも嫌な響きだけど、自分が幸せになるためには必要だ。

「そんなこと言う自分はどうなんだ」っていう目を向けられたとしても、自分が「ピンとくる」相手を待てばいい。「高望みしている」と言われたって、そんなことは他人に言われる筋合いはない。

「キスしたいかどうか」「一緒にいて楽しいかどうか」
そういった自分の第6感で選んだ相手こそ、パートナーとして今後の人生を一緒に歩んでいける気がする。



おもしろかったので読んでない方はぜひ


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