自分を救済するのは自分でしかないー「Dear Evan Hansen」鑑賞
どうやったら、人を蹴落とせるか。どうやったら、自分が報われるか。
ふとした時に、「ここにいるよ」とヌッと顔を出すのである。人間性を疑うような、陰湿で悪質なもう一人の自分が。
そういう自分のことは、確かに認識はできる。いるのはわかっている。でも、さらけ出すことって、ほとんどの人ができないんじゃないかと思う。
醜悪すぎる自分が怖いんじゃない。そういう自分を晒すことの方が怖いんだ。本当の自分を誰かに見られたら、もう、生きていけないとすら感じる。世界中から嫌われる。もう絶望しかない。
こちらの映画を鑑賞。
ミュージカル映画は得意ではありませんが、やー、これは劇場で見るべきだった。。。
キャッチコピーは
思いやりでついた嘘。
そして、たどりついた本当。
まさにこの作品からのメッセージそのものです。
元々はブロードウェイ発のミュージカル作品。主演のベン・プラットの、信じられないくらい澄んだ圧巻の歌唱力、ベテラン俳優陣たちの演技力・表現力が、孤独を抱え込んだ若者の<心の解放>を見事に描ききっています。
2017年トニー賞で6部門(ミュージカル作品賞、脚本賞、楽曲賞、主演男優賞、助演女優賞、編曲賞)を受賞。製作には『ラ・ラ・ランド』『グレイテストショーマン』など、名だたるミュージカル映画製作陣が結集とか。いい音楽すぎるはずだ。映画では、原作になかった新しい楽曲も加わっているようで、いつか舞台作品もみてみたい! と願ってみました。
ネタバレになっちゃうので、内容には触れずに行きますが、この映画はひたすら「自立」と向き合わされる映画でもあったように思いました。
自立って言うと、経済的なものをイメージしてしまうのは私の貧しかった家庭環境のせいもあるのですが、
エヴァンが教えてくれたのは、精神的自立なくして、あらゆる自立が成り立たないということですね。
嘘からは、結局何も生まれないし、生まれたとして砂上の楼閣。そして、本当の自分と向き合うことは、醜い自分を受け入れることだけではなく、そこから目を逸らさないってことだけなのではなく、
美しい自分からも目を逸らさない
ってことでもあるのだと、ラストシーンを見ながら思いました。そして、それこそが精神的自立の一歩だと。
醜い方の自分は、いつだって顔を出そうと狙っています。嫌になるぐらい、出てきます。
でも、醜い自分は、実際は醜いことを成し遂げることよりも、今被っている自分の上っ面をはいでやる、そのことのためにいるんじゃないかと思いました。自分を乗っ取ろうとしているのではなく、美しい自分を照らすためにきっと、いるんだわ。
それぞれのキャラクターが持つ「テーマ」に合わせた楽曲が、それぞれに美しい旋律とリズムを持っていました。思い悩み、ぶち当たる壁の種類もさまざまで、正解や答えの見つかるものではないけれど、もがきながらもそこに生きる、そのことの美しさにも悶えた映画。
現実は、変わらない。自分の嘘が、報われることもない。醜い自分が、消えることもない。
エヴァンに激しく感情移入できたのは、共感でも同情でもなく、たぶん、自分を救済するのは自分でしかない、という強いメッセージのおかげです。
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