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自分を救済するのは自分でしかないー「Dear Evan Hansen」鑑賞

どうやったら、人を蹴落とせるか。どうやったら、自分が報われるか。

ふとした時に、「ここにいるよ」とヌッと顔を出すのである。人間性を疑うような、陰湿で悪質なもう一人の自分が。

そういう自分のことは、確かに認識はできる。いるのはわかっている。でも、さらけ出すことって、ほとんどの人ができないんじゃないかと思う。

醜悪すぎる自分が怖いんじゃない。そういう自分を晒すことの方が怖いんだ。本当の自分を誰かに見られたら、もう、生きていけないとすら感じる。世界中から嫌われる。もう絶望しかない。


こちらの映画を鑑賞。

ミュージカル映画は得意ではありませんが、やー、これは劇場で見るべきだった。。。

キャッチコピーは

思いやりでついた嘘。
そして、たどりついた本当。

まさにこの作品からのメッセージそのものです。

<あらすじ>

エヴァン・ハンセンは学校に友達もなく、家族にも心を開けずにいる。ある日彼は、自分宛てに書いた“Dear Evan Hansen(親愛なるエヴァン・ハンセンへ)”から始まる手紙を、同級生のコナーに持ち去られてしまう。それは誰にも見られたくないエヴァンの「心の声」が書かれた手紙。後日、校長から呼び出されたエヴァンは、コナーが自ら命を絶った事を知らされる。悲しみに暮れるコナーの両親は、彼が持っていた〈手紙〉を見つけ、息子とエヴァンが親友だったと思い込む。彼らをこれ以上苦しめたくないエヴァンは、思わず話を合わせてしまう。そして促されるままに語った“ありもしないコナーとの思い出”は両親に留まらず周囲の心を打ち勇気を与え、SNSを通じて世界中に広がっていく。思いがけず人気者になったエヴァンは戸惑いながらも充実した学校生活を送るが、〈思いやりでついた嘘〉は彼の人生を大きく動かし、やがて事態は思いもよらぬ方向に進む—。

(HPより https://deh-movie.jp/#movie_area)

https://deh-movie.jp/#movie_area

元々はブロードウェイ発のミュージカル作品。主演のベン・プラットの、信じられないくらい澄んだ圧巻の歌唱力、ベテラン俳優陣たちの演技力・表現力が、孤独を抱え込んだ若者の<心の解放>を見事に描ききっています。

2017年トニー賞で6部門(ミュージカル作品賞、脚本賞、楽曲賞、主演男優賞、助演女優賞、編曲賞)を受賞。製作には『ラ・ラ・ランド』『グレイテストショーマン』など、名だたるミュージカル映画製作陣が結集とか。いい音楽すぎるはずだ。映画では、原作になかった新しい楽曲も加わっているようで、いつか舞台作品もみてみたい! と願ってみました。


ネタバレになっちゃうので、内容には触れずに行きますが、この映画はひたすら「自立」と向き合わされる映画でもあったように思いました。

自立って言うと、経済的なものをイメージしてしまうのは私の貧しかった家庭環境のせいもあるのですが、

エヴァンが教えてくれたのは、精神的自立なくして、あらゆる自立が成り立たないということですね。

嘘からは、結局何も生まれないし、生まれたとして砂上の楼閣。そして、本当の自分と向き合うことは、醜い自分を受け入れることだけではなく、そこから目を逸らさないってことだけなのではなく、

美しい自分からも目を逸らさない

ってことでもあるのだと、ラストシーンを見ながら思いました。そして、それこそが精神的自立の一歩だと。

醜い方の自分は、いつだって顔を出そうと狙っています。嫌になるぐらい、出てきます。

でも、醜い自分は、実際は醜いことを成し遂げることよりも、今被っている自分の上っ面をはいでやる、そのことのためにいるんじゃないかと思いました。自分を乗っ取ろうとしているのではなく、美しい自分を照らすためにきっと、いるんだわ。

それぞれのキャラクターが持つ「テーマ」に合わせた楽曲が、それぞれに美しい旋律とリズムを持っていました。思い悩み、ぶち当たる壁の種類もさまざまで、正解や答えの見つかるものではないけれど、もがきながらもそこに生きる、そのことの美しさにも悶えた映画。

現実は、変わらない。自分の嘘が、報われることもない。醜い自分が、消えることもない。

エヴァンに激しく感情移入できたのは、共感でも同情でもなく、たぶん、自分を救済するのは自分でしかない、という強いメッセージのおかげです。






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