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王道でもないし、人生を変えるほどじゃないけれど、個人的に好きなアルバムシリーズvol.3 『ザ・マジック・ウィップ(The Magic Whip)』

「集大成と開拓の見事な融合」

第3回目は、以前「人生を変えた名盤シリーズ」で紹介したブラー(Blur)より、8作目の『ザ・マジック・ウィップ(The Magic Whip)』です。

このアルバムは前作『シンクタンク』からなんと12年ぶりに発売された作品であり、フルメンバーが揃ったのは前々作『13』以来、実に16年ぶりです。

今作はメンバーが香港を訪れた際に受けたインスピレーションを元に制作されており、かつてのブラーのテイストが散りばめられつつも新たな境地を開いた、新旧どちらのファンも楽しめる作品となっています。

メンバーは、長年かかってやっと揃った「デーモン・アルバーン(vocal)」、「グレアム・コクソン(guitar)」、「アレックス・ジェームス(bass)」、「デイヴ・ロウントゥリー(drums)」の4人です。

曲目は以下の通り、全12曲です。

1.『ロンサム・ストリート(Lonesome Street)』

2.『ニュー・ワールド・タワーズ(New World Towers)』

3.『ゴー・アウト(Go Out)』

4.『アイスクリーム・マン(Ice Cream Man)』

5.『ソート・アイ・ワズ・ア・スペースマン(Thought I Was a Spaceman)』

6.『アイ・ブロードキャスト(I Broadcast)』

7.『マイ・テラコッタ・ハート(My Terracotta Heart)』

8.『ゼア・アー・トゥー・メニー・オブ・アス(There Are Too Many of Us)』

9.『ゴースト・シップ(Gosht Ship)』

10.『ピョンヤン(Pyongyang)』

11.『オン・オン(Ong Ong)』

12.『ミラーボール(Mirror Ball)』

まずは一曲目の『ロンサム・ストリート(Lonesome Street)』でアルバムは始まります。

往年のブリットポップ時代のブラーを彷彿とさせますが、どこか枯れた感じが漂う”大人のポップ”といったナンバーに仕上がっています。

昔からのファンは、あの頃のブラーが戻ってきたことに相当喜んだでしょう。

また、PVの太極拳のようなダンスを披露する初老の男性も良い味を出しています。

続いて2曲目の『ニュー・ワールド・タワーズ(New World Towers)』は、今作のお気に入りのナンバーの一つで、まるで異国の地に来た訪問者の、孤独な心境を表しているかのような曲調です。

この曲を聴いていると、ネオンに照らされた香港の夜の情景が浮かんで来ます。

3曲目の『ゴー・アウト(Go Out)』もブラーらしいナンバーですが、ディストーションの聴いたグレアムのギターが、曲全体に単調にならないようキレを与えているのはさすがですね。

曲と関係あるのかないのかよく分からないアイスクリーム作りのPVも遊び心があります笑

その後もブラーらしくも異国の情緒を感じさせるナンバーが続き、7曲目の『マイ・テラコッタ・ハート(My Terracotta Heart)』では、彼らの密かな武器のひとつであるバラードが展開されます。

ブラーと言えば、やはりポップな印象が強いですが、3作目の『パークライフ(Parklife)』に収録された『トゥー・ジ・エンド(To The End)』や、4作目『ザ・グレイト・エスケープ(The Great Escape)』の『ザ・ユニヴァーサル(The Universal)』のように、バラードにも定評があります。

(これらのアルバムもいつか別の機会に取り上げられればと思います。)

彼らの持ち味であるメロディーラインがしっかりしているため、スローな曲調でもなんなくこなします。

そしていよいよ、今作で私が一番のお気に入りのナンバーである、8曲目の『ゼア・アー・トゥー・メニー・オブ・アス(There Are Too Many of Us)』です。

緊張感のあるストリングスと、デーモンが淡々と歌い上げる様は、バンドがかつて根底に掲げていた、物に溢れた現代社会に対する批判の精神が現れているようです。

この集大成のような曲に、バンド全体のアイデンティティが詰まっていると私個人は感じました。

何度も繰り返しで恐縮ですが、彼らはかつてポップさが売りでしたが、ただ明るくてノリがいいだけではなく、現代生活を皮肉る部分も持ち合わせていました。(2ndアルバムのタイトルから見受けられるように。)

マスコミに持ち上げられる形でオアシスとブリット・ポップ戦争を演じることとなりましたが、彼らが本当にやりたかったこととは、純粋にアーティストとして良いものを世に生み出したかったのではないでしょうか。

その精神が5作目の『ブラー(Blur)』を生み出したのではないかと考えられます。

話が少し脱線してしまいましたが、アルバムレビューに戻ります。

11曲目の『オン・オン(Ong Ong)』は、アルバム発売前にプロモーションシングルとして配信されたナンバーで、2Dゲーム風に進んでいくPVとメンバーそれぞれがボスに扮した姿が見ものです。

いくつになっても遊び心を忘れない姿が素敵ですね。

音を楽しむと書いて音楽と読むとおり、今まで色々あったけど、結局はメンバー全員が音楽が好きなんだということが伝わってきます。

冒頭でも述べた通り、アルバム全体を通じてかつてのブラーらしさを復活させつつも、香港を舞台とした音景作りという、新たなジャンルに挑戦しています。

かつての音楽性を取り戻しただけでは、ただのセルフリメイクになってしまいます。

そうならないようアーティストとして攻めの姿勢は崩さずも、彼らのキャリアの集大成とも言えるようなこのアルバムの出来栄えは、個人的に5作目『ブラー(Blur)』に匹敵する傑作だと言っても過言ではないと思います。

2023年7月にまた彼らは再始動し、8月にはサマソニで来日するそうです。

今後も音楽を愛する彼らの、また新たに挑戦する姿を楽しみに待ちたいと思います。

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