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イツカ キミハ イッタep.81

「もー、無理。食べられない」

出された食事を残すというのはとても不本意だ。というより、罪悪感さえ覚えてしまう。
旅行者の立場からすると、安くはない宿泊費のなかの、きっと唯一回収できる費用を自ら放棄するようなものだし、宿にとってみれば、せっかく腕を振るった料理を廃棄するのはとてももったいないことで残念に思うだろう。

可能な限り、残さず食べる。 
これは外で食事をする際に心掛けてきたことではあるが、だんだん年齢を重ねるとともに食べられなくなってきた。
理由はいくつかある。代謝が落ちて、そもそも量を受け付けなくなってきたとともに、環境変化で普段と異なるパターンの食事が続くと胃が疲れてしまい、結果、いつも満腹状態となってしまうからだ。

「京丹後で岩牡蠣を食べる」が目的の旅を計画したものの、1度夕飯時に牡蠣コースを食しただけで、目的が達成してしまった。

7月は連休後、三津漁港近くの丹後琴引温泉に向かった。少し北へ向かえば、冬の味覚の蟹で有名な間人漁港がある。南へ下れば、久美浜があり、そこには牡蠣小屋が並ぶ。

京都府北部は別名「海の京都」と呼ばれ、5月から8月は生食で大きな岩牡蠣が食べられ、冬期は火を通して食べると美味な真牡蠣を食すことができる。牡蠣は久美浜以外にも宮津、舞鶴、伊根でも養殖されているが、久美浜近くでなら、夏場ならではの岩牡蠣のコースが設定されている宿も多いことから、この地まで遠征した。

岩牡蠣とともに出される海鮮炭火焼き


片手からこぼれるほどの大きさの岩牡蠣を刺身で4つも食べれば、その後の少し火を入れた味噌焼きや魚貝の炭火焼き、シメの牡蠣ご飯まで残さず食べきるということは難しかった。
後半、少し皿に残したものを下げてもらう際に申し訳なく詫びの言葉をかけると中居さんより
「お客様には量が多いかもしれないので、どうか気になさらず…」
と声を掛けてもらった。

自分では認めたくはないが、そろそろ食事は普通より控えめな量のシニアコースを選ばないといけないのか、と一抹の寂しさを感じた京丹後の夜だった。
翌朝の食事で出されたのはへしこの粕漬け。
「へしこ」とは福井県から石川県、丹後半島で食べられている伝統料理で、青魚を糠と塩に漬け込んだ、しょっぱい保存食なのだそう。ここでは糠を落とし切らないで、軽く焦げ目のついた鯖のへしこ焼きが朝食で出てきた。

手前の小さな切身二つが「へしこ」



「これは、へしこという発酵食品です。少し辛いですが、白米のお供に最高ですよ」

中居さんの説明どおり、ほんの小さな切り身でも十分と思うほど塩辛く、かつ旨味の強い魚だった。

宿をチェックアウトしてから、浜辺を散歩しているとオートキャンプ併設の海浜浴場があった。
日中は海水浴をし、夜はバーベキュー、泊まるのは車かテントという大自然満喫な過ごし方をされているのを見て、子どもの頃の林間学校を思い出す。大人になっても、少しの不便さを愉しめる遊び方がいつまでも出来るといい。
昨夜から干していたと見られるTシャツを洗濯紐から勢いよく外し、パンパンと音を立てて宙に放つ、真っ黒に日焼けしたおじさんと目が合い、挨拶を交わした。

丹後天橋立大江山国定公園の「立岩」



後ケ浜にそびえ立つ立岩、森を抜けた断崖に立つ経ケ岬灯台を巡り、天橋立へ向かう。
松島、宮島にならぶ日本三景のひとつで、ずっと行ってみたかった。 

天橋立の右岸は海水浴場となっていた


全長3.6キロの砂洲を歩き、元伊勢籠神社へお詣りし、天橋立ワイナリーでランチを楽しんだら天橋立ビューランドから全景を一望する。そんな計画を立てたものの、真夏の太陽の下、徒歩で天橋立を渡り切るのは、なかなかにしんどい。何度も傍を電動自転車が走り抜けていくが、神社へ上がるし、昼にはワインを飲みたいし、飲酒運転は良くないので、ここは踏ん張って一本道を歩き続けることにした。松林があるため、日陰は涼しいと聞いていたものの、右手を見れば砂浜で水遊びする海水浴客が水着姿でいるのに比べれば、日焼け対策として上着を羽織ったこちらはかなり暑い。
何度も東屋で休憩を取りながら、松の種類を確認する等して気を紛らわせながら反対岸へと向かった。神社詣りの後、傘松公園まで上がってからバスに乗り込みワイナリーへ。日が傾く前にビューランドを目指した。

智恵の輪灯籠からの眺め



久しぶりにリフトに乗り、股のぞき台のある頂上まで登る。観光客お決まりの股のぞきシーンを撮影してから、智恵の輪灯籠から天橋立を眺めた。その景色が素晴らしくて、しばらく顔を離せなかった。美しく湾曲する天橋立の左右に広がる海の青。
若狭湾につかながる透明感のあるブルーと阿蘇海側の静かなグリーンがかった入り江。
海を二分する天橋立の松の深緑が見事なコントラストを描いていた。

天橋立を渡る途中で休憩した東屋からの風景



暑かったけど、ここまで来て本当に良かった。京丹後から天橋立を巡るコースは、季節を変えてまた訪れたい地となった。

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