見出し画像

今そこにある危機(リスク)

≪おごおりト−ク25≫

最近、地域の防災活動についていくつかの相談を受けました。内容は防災活動のリスク(危険性)とその担い手である地域の皆さんのやる気に関する話で、いずれも「そうだよねー」と共感できるものばかりでしたので紹介させていただきます。

『梅雨や台風の時期になると危険なタイミングで'「防災ごっこ」が始まります。誰かが「◯◯川、水位が◯m上昇しています」すると、また誰かが「了解しました。また変化があったら報告して下さい」と、地域の防災活動として河川の水位確認が行われるのですが、これは極めて危険な行為です。ただ、この危険な「防災ごっこ」も地域の皆さんが自発的にされていることを考えると「やめてください」とも言えず、どうすればいいでしょうか?』

私が気になるのは、この危険な河川の水位確認について、その危険性が地域の中で事前に共有されているのだろうかという点です。
防災活動はたとえボランティアであっても全くノーリスクという活動ではないため、多かれ少なかれ何らかの危険性を伴う活動が行われているのが現状だと思いますが、個人であれ組織(自主防災組織)であれ、その活動を行う際には、それに伴う危険性がしっかり認知されることが重要だと思うのです。

地域の防災活動においては、リスク回避の観点からもその活動に伴って想定される危険性が、その活動を行う人たち(自主防災組織のメンバー)と共有されていなければなりません。
その上で「じゃあ、どこまでやればいいのか」という協議の中で一定のリスクが許容されることになるので、後になって「そんな危険性があったとは知らなかった」ということは避けなければなりません。

自治会(自主防災組織)は、消防署や自衛隊とは違い、住民の発意と善意で行われるボランティア団体です。災害発生時に住民に危険を伴う活動を強いるのは、その人を危険にさらすことにつながります。地域で防災活動や災害支援を行った人が、ケガをしたり、命を落とすようなことはあってはならないことです。
そこにある危機(リスク)が十分に認知されず、地域で共有されないまま行われている防災活動は、やはり「防災ごっこ」という指摘は免れないと思います。

もう一つの相談は、
『まち協の校区防災部会において避難所の運営支援に取り組んでいます。しかし、市の考え方にそぐわないようで、校区防災部会の活動を否定しているととられないか心配です。校区防災部会の皆さんは自発的に一生懸命活動されており、このやる気を損なわずに防災活動の方向性を修正していくにはどうしたらいいでしょうか?』

まち協の校区防災部会の役割は、災害が発生した際に、自治会(自主防災組織)の実働的な活動が確保されるように、平常時から図上訓練や防災研修等を通じて自主防災組織の体制づくりや活動支援に取り組んでいくことです。

校区防災部会のメンバーは通常自治会(自主防災組織)の関係者で構成されており、このメンバーは災害発生時にはそれぞれの自主防災組織で防災活動を担うべき方々です。そのため、校区防災部会は災害発生時に部会メンバーを招集することはできませんし、地域の自主防災組織の活動を阻害するようなこと慎まなければなりません。

その観点から、災害発生時に校区防災部会が部会メンバーを招集して指定避難所の運営支援にあたることが自主防災組織の活動を阻害することになるのであれば、それは望ましくないというのが市の考え方であり、このことは私も同感です。

一方で、自主防災組織についてはどうでしょうか。
災害発生時に自主防災組織において「誰が、いつ、どこに参集するのか」「情報収集や住民への情報伝達はどうするのか」「一人暮らし高齢者等への早期避難の呼びかけや安否確認はどうするのか」などなど、自主防災組織の初動活動が事前に協議され、マニュアルとして共有されているのでしょうか。

自主防災組織の防災活動は多岐にわたりますが、少なからず住民に最も身近な自治会でなければ担えない重要な役割があります。その役割を果たすためには平時から想定し、準備し、備えておくことが必要であり、災害が発生してからでは遅いということになります。
その役割の一つひとつを確認し、自分たちのできる範囲で「何ができるか」「どこまでの体制づくりが可能なのか」といったことを事前に検討・協議するための場づくりやマニュアルづくりが校区防災部会の役割だといえます。

この二つの相談に共通するのは、防災活動には地域の皆さんのやる気とモチベーションが欠かせないというご意見、私もそのとおりだと思います。

しかし、地域の防災活動が住民の安全を守るための活動であると同時に危険性を伴う活動である以上、個人であれ組織であれ、その活動を行う際にはそこにある危機(リスク)がしっかり認知されていなければ、逆に住民を危険にさらすことにつながりかねません。

今回のケースのように、災害発生時に校区防災部会が本来地域で活動を担わなければならない人達を招集し、そのメンバーを避難所支援にあたらせることによって防災活動を阻害することになれば、実はそれ自体が非常に大きなリスクであり、結果として住民の安全を脅かす行為だと言わざるを得ないと思うのです。
つまり、地域の皆さんがやる気やモチベーションを持って自発的にやっている活動だからという理由ですべてが許容されるものではない、というのが私の考えです。

地域の防災活動は住民の安全を守るための活動であるため、災害時に住民に及ぶであろうリスクをできる限り想定し、そのリスクをどこまで回避・低減することができるのかを共有することが必要です。結果として住民を危険にさらしてしまったということはあってはならないことです。

少し厳しい言い方になってしまいましたが、校区防災部会において、災害が発生した際の自主防災組織の果たすべき役割や求められる活動が十分に想定されているのかどうか、それを踏まえて校区防災部会としての取り組みが協議されているのかどうかという点が非常に重要だと思います。

…とは言いながら、「その活動をやめてください」とは言えず、どうすれば地域の皆さんのモチベーションややる気を損なわないで校区防災部会の活動を本来の方向に導いていけるのかは大変難しい問題だと思います。

行政からあれこれ指示することは簡単なのですが、校区防災部会はあくまで住民主導の組織であり、それを行政主導でやってしまうと地域の皆さんのやる気やモチベーションを一気に喪失することにつながりかねません。

結論から言えば、校区防災部会の内部で、そこにある危機性に気付いている住民が、他のメンバーと対等の立場で話し合いを重ねることによって今後の活動のあり方を導き出していくしかないのだろうと思います。
そのために、地域の防災活動を支援する行政や防災士などは、このような住民自らの気づきや自発的な内部協議を促すために積極的に地域に出向いて、あきらめず、上手に、粘り強く、働きかけていく必要があるのだと思います。
(2022.9.25)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?