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「神々の山嶺」

「それがそこにあるからさ」

イギリスの登山家、ジョージ・マロリーの言葉から始まる夢枕獏の「神々の山嶺」は、上下巻あわせて1000ページを越える読み応えのある本。長編小説は中弛みしがちですが、テンポの良いストーリー構成で、没頭して3日で読んでしまいました。

この本は1924年のエヴェレスト登山で行方不明になったジョージ・マロリーがエヴェレストの初登頂に成功したのか、という謎を解く鍵となるコダック製のフィルムカメラが起点となって、カメラマンの深町の視点で物語が進みます。


舞台はネパールの首都カトマンドゥ
国民の8割がヒンドゥー教で、寺院やネパール最大の祭りであるダサイン祭も物語の中に登場してきます。ネパールの国旗🇳🇵は世界で唯一、四角形ではないのだとか。
カトマンドゥの場面を読んでいると、コールドプレイの"Hymn For The Weekend"のmvを思い浮かべます。このmvの撮影地はインドですが、日本ではあまり見られない色彩が豊かな世界観や街並みは似ているのではないかと想像します。


文章の解像度
小説のあとがきによると、この話を書くと決めてから20年を経て刊行に至っています。その間著者は現地に赴いて取材をしたり、ベースキャンプまで登山をしています。
カトマンドゥの身分制度や薬物、暴力といったダークな部分や、死と隣り合わせの過酷な環境下での登山を読者に鮮明に想像させることができるのは、綿密な取材から生まれた解像度の高い文章だからだと思います。

羽生丈二
人生の全てを山に捧げた男。
誰もやったことがないことをやる。誰かの後を辿っても意味がない、という考え方は共感はできても行うのは難しい。
今の時代、幅広く活躍できるジェネラリストが求められることが多いが、何か一つ特化して貫くことができるスペシャリストが生み出せるものを私はかっこいいと思います。

左へゆくのは、俺のルートじゃない。
それは他人がやったルートをなぞるだけの行為だ。まだ、誰もやってないルートこそが、この俺のルートなのだ。

上巻p.256

勲章を持つ男
どちらも深町に向けられた言葉ですが、読んでいて自分に訴えているような深く刺さる言葉でした。背景は違えど国家のために生きた過去を持つ2人だからこそ、言葉に重みがあります。

ナラタール・ラゼンドラ
「何であれ、待っていても、誰かがそれを与えてくれはしないのです…欲しいものがあれば、自らの手でそれを掴み取るしかないのですよ」
アン・ツェリン
「誰であろうと、自分の人生を生きる権利がある」

下巻p.187,p267

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