新型フォレスター試乗記

近所のスバル販売店はキッズルームが充実しているとの事から、愚息を連れて訪れた。その際、新型フォレスターにチョイ乗りして見た、備忘録を以下に記す。

そもそもフォレスターとはどんなクルマなのか。

1995年に東京モーターショーにて初代GC/GF型インプレッサをベースにSUVコンセプトカー、ストリーガとして出展され、1997年にフォレスターの名で初代SF型がリリース。2Lターボエンジンのみと言うのなかなかぶっ飛んだ構成(≒インプレッサWRX)だったが、好評を博し、その後ターボ無しや北米向け2.5Lモデルが追加された。
当時のフォレスターはSUVのナリはしているが、実は普通の道での走りの良さが特色だったかと思う。

初代インプレッサは初代レガシィ(BC/BF型)をベースにホイールベースを短縮したものであり、サスペンションジオメトリーはレガシィと同じ。つまり、ホイールベース短縮した分辻褄が合わない部分があった。
そこにメスを入れたのがフォレスターであり、いわばインプレッサの完成形とも言えると思う。
具体的にはサスペンションアームや取り付け位置の変更ができない分、フォレスターは車高を上げる事で解決した(その後のインプレッサも改良されている)。

初代インプレッサやフォレスターに採用されているストラット式サスペンションは前後から見て静止状態でハの字になっていることが基本である。コレはサスペンションがストロークするに従いタイヤ下側が外方向に押し出される形になり、対地キャンバー角はネガティヴ方向(タイヤが内側に倒れる)に推移し、車体がコーナリングでロールした際に外側タイヤの踏ん張りが効く。
逆ハの字の場合はタイヤ下側が内方向に引っ張られる形になる為、対地キャンバーはポジティブ方向(タイヤが外側に倒れる)に推移し、踏ん張りが効かなくなる。

この特性を理解しつつ設計されたレガシィはいいが、単純にホイールベースを短縮したインプレッサは、レガシィに比べてヨーモーメント(車体垂直方向を軸にした回転力)が強く、リアタイヤの踏ん張りがもっと必要になる。サスペンションジオメトリーが共通なら、インプレッサは静止時から予めタイヤをネガティブキャンバーにして、かつアシを固めて極力動かなくする(ロールしなくする)しかないのだ。

ここでフォレスターは車高を上げた事で、よりハの字の角度を大きくした。なので車体がロールしてもタイヤのキャンバーはネガティヴ方向に推移する為踏ん張りが効く。
この事から、サスペンションを固めず、深いストロークを利用した理想的な構成が取れるのである。

初代および二代目(SG型)フォレスターの良さの本質はココである。

三代目(SH型)以降はインプレッサ共々リアサスペンションがダブルウィッシュボーン式に変わり、横方向のキャンバーコントロールは容易になった。
だが、狙いは高性能化だけではないだろう。ダブルウィッシュボーン式採用と共に、サスペンションアームを一旦サブフレームに取り付け、そしてサブフレームをボディに取り付ける形とした。サブフレームを介してサスペンションを取り付ける方法は高級車で用いられる手法で、サスペンションからの振動を遮断する事が出来る。つまり音振対策である。

ここから漸く新型フォレスターの話。
新型フォレスターはSGPを採用している。既に現行インプレッサやXVで採用されているグローバルプラットフォームだ。
サスペンションに関してはショックアブソーバー取り付け位置や各リンク配置に最適化したらしいが、形式そのものに大きな変更はない。
1番大きな変更は衝突安全性と剛性確保、軽量化の為のシャシー構造変更だろう。今回はバンパーから室内側まで縦のメンバーを通している事、横方向のメンバーをガッチリ通している事、つまり井型に組んでおりフロア(床)剛性確保には有利だ。

元々スバル車は前面衝突安全性が高い。
コレは水平対向エンジンを前上がりで搭載している事で、前からエンジンが押されると下方に移動(つまり下に落ちる)為、室内への侵入が少ない為である。
とは言え、前面フルラップ衝突はいいが、昨今はオフセット衝突性能も求められる。すると縦メンバーをキッチリ入れておきたい。側面衝突性能も求められる。その辺りの要件が主ではないかと思う。

ちなみに、よく旧型と新型の比較評価が出ているが、実は私は先代フォレスターに乗ったことがない。ここ10年以上クルマと言うものに興味が薄れていた為、よくわかってないのだ。ここまで偉そうな事を書きながら、現行と先代のフォレスターの見分けも付かないかもしれない。

さて、まずは展示してある車両で運転環境を確認する。展示車両は2.5LのPremiumと言う上級グレードだ。
運転席のパワーシートで調整してみる。ヘッドレストは角度調整も可能な為、とりあえず1番ヘッドレストを立てた所から2ノッチほど倒した所でシートバック角度調整する。先日ジムニーに乗ったせいもあるが、それよりは少し寝かせたあたりが設計イニシャルのようだ。
その後シート高さ調整してみたが、メーターやステアリング高さと合わせると、スイートスポットが広い。低くしても高くしてもメーター視認性は良好。メーターがステアリングに隠れる事はない。
通常はメーターの角度と視認性から設計時運転席高さ想定を探るのだが、低くても問題ない。こう言う所がスバルらしい真面目な作りが好印象。やれ水平対向エンジンや4WDがスバルなどと言う連中はホントにモノがわかってない。

クルマの性格上少し高いあたりだろうと仮定してシート高さを上げてみる。ボンネットには左右端を少し高くする造形という事もあり、車幅位置も掴みやすい。なかなかいい。

右ハンドルのオフセットは、シートに対してステアリング軸は30mmほど左にオフセットしている。ブレーキペダルはステアリング軸のすぐ右。つまりシートに対してブレーキペダルはほぼど真ん中。
右脚を伸ばした先はアクセルペダルになる。
つまり、明確なペダルとステアリングのオフセットは存在する。むむむ…
当方スバル車歴が長かった事もあり(更には当時装着していたレカロのシートレールはバケットシート取付を考慮して明確に右側にオフセットする設計だったので、よりステアリングやペダルは左に偏移)さほど違和感はないが、決して褒められたペダル配置とは言えないだろう。
そう言えばSGPによる共通プラットフォームである事を思い出した。インプレッサも確認したが、同じ。と言う事は今後数年はスバル全車コレになる。

ふと旧プラットフォームを採用する現行レガシィB4も確認したが、オフセットは同じ。SGPはワザワザ昔からオフセットしてるスバルの伝統を守ったのか。

少しテンションが落ちたが、リアシートを確認する。非常に広い。また視界の作りがなかなかいい。顔の真横にピラーが来る配置だが、6ライトの窓で顔の横前後は窓になる。この為、外からは乗員の顔は見えにくいが、中からの視界は良いという、伝統的なリムジンスタイル。コレはいい。

気になったのは、後席シートバックに3段階の角度微調整を組み込んでいる事だ。真ん中ならオーケーだが、1番倒した状態では座面と角度が合わない。しかし見た目上は1番倒した状態がイニシャルに見えてしまうので、みんなその角度を使いそうだ。少し残念。
本来なら角度調整を組み込むなら座面とセットでなければならないが、残念ながら座面下は燃料タンクで、座面もぶ厚いので動かせない。
そんななら、少ししか角度が変わらない、意味のないシートバックの角度調整機構なんてやめるべきだ。

さて、試乗の順番が来た。
試乗車のグレードは下位モデルである2.5L Turing。タイヤは17インチ(Premiumは18インチ)

チャイルドシートを用意してくれた為、愚息をシートに縛り付け、走り出した。
やはり視界が素晴らしい。Aピラーは邪魔にならず、ボンネット端もわかる。ジムニーほどではないが、車両サイズ把握性はかなり良い。コレはスバル、そしてフォレスターの伝統だ。

サイドミラー下にカメラがついてるマルチビューモニタがメーカーオプションで付いてるらしいが、そんなものは不要だ。

最近のスバル車はSI-Driveなるモノがついている。ノーマルだとI、アツイ走り用にS、更にアツイ走り用にS#ってモードがあるらしい。要はアクセル開度とスロットル開度の関係を変えて、SやS#だとアクセル開度が小さくてもパカパカスロットルを開けてしまおうってやつだ。そんな走りの本質ではない子供のオモチャには当方興味がないのでノーマルのIのままにしておく。

アクセル開度に対する加速反応はなかなかいい。エンジンもさる事ながら、SGPによってエンジンマウントを変えたのか。駆動系の剛性が高く感じる。過去の2.5Lスバル車より明確に速い感じだ。みんなSGPが高評価なのはこのせいではないか。

ステアリングは電動パワーステアリングで、操舵力は軽め。だが、余計な制御をしてないように思う。街乗りだけなので高速や高負荷時は不明。
新型フォレスターはステアリングラックに可変ギヤレシオを採用している。中立付近は15対1でスローにして、大舵角時に13対1になるとの事。カタログ上表記は13.5対1。

参考までに昔のレガシィやフォレスターのターボモデルは16.5対1、STIなどクイックレシオで15対1、現行WRXは13対1だ。
フォレスターも以前可変ステアリングレシオを使っていたが、その際は15~19対1だ。

つまり新型フォレスターは、可変ギヤレシオで中立付近をスローにしてると言いながら、全体的にはスバル車のスポーツモデル並みのステアリングギヤレシオなのである。

恐らく、新型フォレスターの「意のままに走る」「反応がイイ」と高評価なのは、単にコレの可能性が高い。

試乗コースは気が利いていて、そこそこ飛ばせるワインディング(とは言え1キロ程度だが)も含まれていた。そこでの印象は非常に良い。ステアリング操作に対して車体の反応が良く、確かにスポーティだ。
大舵角まで試してない為、ステアリングのスロー領域(15対1)のみだが、十分速いレシオだ。可変とは言えコロコロ変わるわけではないので違和感は無い。
また、従来のスバル車でクイックなステアリングを持つ車種は大抵ステアリングフィールの質が悪かった(クイックな方がゲインが高いため、掌にステアリングラック精度の粗さを感じてしまうのだ。当然ながらスローなモデルの方が質感が高く感じる。)が、今回のフォレスターはステアリング質感も良好だ。

CVTもステップATの如く減速比をある程度固定してるようで、嫌な変速をしない。
アクセル踏み込むと、そのままで加速させようとし、更に踏み込むと減速比が上がりエンジン回転数が上がるが、希望する減速比で止めて車速がリニアに上がる。なかなかいい感じだ。

細い道でのすれ違いも全く気にならない。
タイヤの位置は自分の思った場所を通っている。後方視界も良く、死角が非常に少ない。

ブレーキのタッチも良い。試乗車はアタリが付いてないのかジャダーが発生していたが、この状態でもストロークではなく踏力でコントロールできる。

音振についても良好。
上質なクルマに感じる。

改めてクルマから降りるとシート高さもちょうど良く、乗り降りが楽だ。姿勢を低くする事も、よじ登る事もない。

ここで総括する。
新型フォレスター以下の点でなかなか秀逸である事がわかった。
・良好な視界と車体把握性
・上質な乗り味
視界の良さはスバルの伝統である。上質な乗り味は各部のチューニングがうまくいってるのだろう。SGPでフロア剛性が上がった事で振動や音の抑え込みが楽になってるかもしれない。特に駆動系がキレイに回ってる印象だ。

惜しいのはステアリング位置およびペダルのオフセットだ。よくよく見てみると、リアシートが非常に広い事、運転席前後調整幅が異様に大きい事から、運転席位置はかなり前方で設計されてる為、タイヤハウスの干渉はどうしても避けられない事もある。
グローバルプラットフォームはエンジンと前輪と運転席位置を固定するのが基本である為、SGPはこの位置で決めたのだろう。

実はこの辺り、トヨタのTNGAも右ハンドルオフセットはあるし、VWのMQBもオフセットは少ないがアクセルペダルのオルガン式を諦める(左ハンドルは従来通りオルガン式)など、室内の広さを引き換えに見切っている。だからさほど珍しい話でもないのだが、いい話ではない。
ペダル配置は試乗して確認する事をお勧めする。

フォレスターはどういうクルマか。
SUVはスポーツ多目的車という、意味のわからない間抜けな日本語訳が蔓延っているため、みんなそれがどんなものかわかるハズもなく、なんとなく悪路も走れそうな車高の高いクルマ、という認識だろう。

初代フォレスターはSUVというカテゴリーにする事で車高を上げる免罪符を手にして、不完全なインプレッサのサスペンションジオメトリーを一般道を走る乗用車として完成形にしたものだ。
思えば初代インプレッサワゴンでグラベルEXと言う冗談のようなコスメティックモデルがあったが、サスペンションジオメトリー改善のためかなり真剣だったのかもしれない。

しかし、今やインプレッサもサスペンションに大きな瑕疵が無い筈だ。
ではフォレスターは存在理由があるのか?
今でもフォレスターの車高の高さによるアドバンテージは大きいと思う。サスペンション部品を共用し、同じ配置であるという事は、車高が高いだけでストロークは大きく取れ、なおかつアームがハの字である美味しい所を使える。
乗員をアップライトに座らせ、視界もスバル車で1番、日本車でも上位のレベルだ。
はっきり言えば、その点だけでもレヴォーグなんぞには完勝だろう。


ステアリングのレスポンス含め、このクルマは高性能スポーツ乗用車である。
SUVだから悪路走破性が高い、なんてステレオタイプな評価を下す人間はどこまでボンクラなんだろうと思う。そんなのはオマケだ。そんな認識では本質を見誤る。

スバルSUVのS、スポーツは高性能スポーツカー。そういう事だろう。

新型フォレスター、佳いクルマだと思う。

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